124:呼ばれた理由
一般人でもある程度の狙撃ができるようになる魔術礼装。そんなものが出回れば社会は大混乱だ。
魔術による狙撃は簡単なものではないだけに、出来る人間にとっては強力な武器になる。狙撃が必要ないくらいに広範囲を攻撃できるものならその必要は無いが、そんな人間はあまりいない。
狙撃の適性がない者がそれをしようとすれば、一撃一撃に余計なコストがかかりすぎる。超大型かつ高性能の照準器はもちろん、魔力の流れを一方向に集中させるものが必要だ。
魔力とは基本的に純粋なエネルギーだ。それを加工するのが魔術だが、魔術だけではそのエネルギーの向きを完全に統一することが出来ない。
魔術の方向を完全に一方向に制御する、つまり魔術が一直線に飛ぶようにするにはそれなりの装置が必要だ。
俺も一度近くで撃っているのを見たことがあるが、たいていは使い捨てで、一度撃ったら過剰な熱量で崩壊するという。
ただ狙撃されただけではそういう例もあるから珍しい問題ではない。問題なのは今回の襲撃で殺されたのが3人だという事実だ。それ以外にも魔術痕があったし、数発連射したことになる。
「王に近い者が協力者としてここに来たというからきっとそんな案件だと思ったよ。狙撃用礼装を持って王国軍を攻撃する者、そんなのは反逆者でしかないからね」
わかりきっていたことではあるが、犯人が国に仇なす者だと疑われるような者だからこそ、俺達が必要になるのだ。
『蒼銀団』はさすがにないと考えたいが、狙撃というのが気にかかる。彼らの負けが決定的になったのはカイルの狙撃のせいだ。それの対策をしてくる可能性も大いにある。
威力は今のところ俺達の狙撃銃には及ばないようだが、そこまで追いつかれてしまえば状況はかなり不利になる。俺やカイルは銃を愛用しているが、本来魔術の方が威力は上なのだ。
アダマンタイトの弾丸が十分にあるわけでもなく、カイルの精度と俺達の狙撃銃を上回る威力を準備されれば勝ち目はない。
王家がこれを破壊、あるいは接収したい気持ちはよくわかる。これさえ手に入れば戦争の際もわざわざ敵の魔術が届くところまで兵を進めなくていい。一方的に攻撃ができるのだから。
敵対勢力の戦力を削ぎつつ軍を強化できるのなら僥倖だ。何しろアイラ王国はファルス皇国戦で減った戦力をまだ補えてはいない。ガーブルグ帝国という脅威に立ち向かうにはまだ不足だ。
前から不思議に思っているのだが、なぜアイラ王国はガーブルグ帝国との和平を結ばないのだろうか。確かにガーブルグは巨大な国だが、それこそアーツでも送り込めばいいように交渉してくれるだろうに。
「犯人の予想は?」
まだ正確にはわかっていないだろうが、だいたいのあてでもあれば何か俺が役に立てることもあるかもしれない。
きっと、俺やカイルの方が暗部組織や反政府組織のようなものに関しては知識がある。犯人を絞りこむ要素があれば、それを特定できるかもしれない。
「さて、そこまではなんとも。アルタイル氏にはあまり話を聞けなかったしね」
ジェローム・アルタイル。今回の事件の標的にして軍有数の実力者。彼ならば襲撃の際に何か犯人の手掛かりになるものを見ているかもしれない。なにしろ狙撃の名手だ、目もいいだろう。
「じゃあ善は急げっすよ! アーツさんに頼んで王国軍に繋いでもらうので、事情聴取の許可を取ってくるっす」
カイルが通話宝石を持って部屋を出ていく。こういう時に俺達の立場は便利だ。なにしろどんな位の人物であれ、権力をかざして呼び出すことができる。
「すぐに事情聴取に移れるのはいいことだね。厄介な依頼人や容疑者が相手だと、それすら満足にできないからね」
静かに言うエルシだったが、その声には穏やかながら怒気が混じっているようだった。自分の捜査を妨害する者への怒りだろうか。
解き明かす者にとっては、それを妨げるものはきっと大いに邪魔なものだろう。良い出題者と妨害者、好敵手と障害物のようなもの。俺だってきっと嫌だ。
「許可取れたっすよー。今日ならいつでも大丈夫らしいっす」
そこにカイルが戻ってくる。どうやらスムーズに話が進みすぐに許可も取れたようだ。これならエルシも満足だろう。
「先生、俺は鞄をとってくるので先にお外へ」
「ありがとう、食器もお願いできるかい?」
ジョルジュが食器をまとめて家の奥に消えていく。エルシに促され、俺達も家の外へと出ていく。アルタイルがどんな人間かは知らないが、有用な情報が手に入ればいいが。
昨夜はうっかり寝てしまって更新ができませんでした、すみません!
次回、124:ジェローム・アルタイル お楽しみに!