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117:深紅の天球

 頭首と戦っていると、アーツが任せろと言ったのがよくわかる。特務分室と【蒼銀団(アビス・インディゴ)】とか、そういうことは関係ない、ただ単純に勝てないのだ。


 ナイフを撃つという単純な攻撃。しかしそれは単純なだけであって生温いものではない。苛烈すぎる勢いと一度喰らえば連鎖的に攻撃を受ける撃ち方。


 一つ貰うだけならただ痛いだけの一撃だ。だが、その一撃で俺は簡単に死に導かれる。それに、壁に縫い留められでもすれば終わりだ。次は爆破で逃れることもできない。


 ここで勝つのは難しい。だから、俺にできるのは一つしかない。そう、負けないこと。勝つことはできなくとも、負けないことはできる。


 この特殊な戦況では、相手を殺すことにたいした意味はない。もし頭首が死ねば、それを巻き戻すため【蒼銀団(アビス・インディゴ)】の誰かがクリスを殺すだろう。


 今俺達がしているのは【蒼銀団(アビス・インディゴ)】の殲滅ではあるが、もう一つ、時間を稼ぐという大きな意味がある。


 俺達の作戦にカイルは不可欠だ。だからこそ、特務分室全員が集結するまでは何とかして彼らをここに留めておく必要がある。


「さて、そろそろ空間把握のカイルもお家に戻った頃かな?」


 ナイフの高速連続掃射で俺を引き離してから、頭首は笑って肩口に縫い留めてあるのであろう通話宝石になにやら話かける。


 来る。先の今日、この国を半壊させた破滅の星。ただ石でありながらその勢いと高度の影響で驚異的な破壊力を持つ隕石が。


「まさか、俺がこれを予想していないとでも?」


「いや、予想していたからこそ大のサービスさ」


 頭首ほどの人間なら、というか俺レベルでも一度行った攻撃は対策されていると考えるのが妥当だ。もちろん、それが対策しうるものならばだが。


 合図が術師に通ったのか、大きな魔力が動くのを感じる。大サービスという一言が不安だが、きっとやってくれるはずだ。


 次の瞬間、窓から見える空が真っ赤に染まる。まだ昼間だ、この前は雨だったからよくわからなかったが、空を染め上げてしまうほどの規模なのか。


 空から降ってきたのは前回とは大きさも速度も段違いの隕石。まさかここまでする余力を残していたとは。ルール違反の許される今とはいえ、こんなことが出来る魔術師がいるとは。


「さすがにこれは命と引き換えさ。魔術の基本は代償だからね」


 命を捨てた一撃か。彼の言う通り魔術は代償あっての術。むしろ5人の命でここまでできれば上出来だ。この質量は一国を滅ぼせる。


「頼むぞ、リリィ」


 リリィにこの攻撃については教えてある。もし隕石が降ってくるようならば迎撃するように頼んでおいた。きっとやってくれるはずだ。


 迫ってくる赤い隕石を押しのけるように、白い光が天を衝く。力と力が衝突し、波濤のように、心臓が止まるほどの衝撃波が地面を叩く。


 その苛烈な衝撃波は窓を全て割り、館を軋ませる。屋根は一部砕けて崩れているようだ。窓の外では家が同じように半壊状態に陥っている。


 圧倒的な質量と熱量を持った隕石は、リリィの魔法と少しの間拮抗した。あまりの力に魔力すら跳ね返したのだろう。


 だが、さすがに超古代の魔法の力には勝てなかったようで、小さな石の破片へと爆散する。王都が一撃で壊滅することは免れたが、破片が落下し王都は大きく混乱するだろう。


 防ごうにも数と範囲が手に負えるものではない。これはさすがに厳しいか。一発で更地にされてしまうよりはマシだろうか。


「あまねく輝く護星よ、【星原・蒼穹の城デュオシデム・ネビュラ】!」


 アーツの声が響き渡り、熱された隕石が降りそそぐ赤い空に、蒼い光が伸びあがっていく。


 光は天高く飛び、中空で拡散して王都を輝く膜のように包み込む。これはニクスロット王国で俺達を守った禁呪の光。盾のようだったあの時とはまた違い、結界のようになって俺達を守ってくれているのか。


 結界に触れた隕石は全て吸収されるように消えていく。広く空を包む光に呑み込まれてしまったのだろうか。


 これを作るような魔術師がこの国に存在していたのか。そして、そんな禁呪を使いこなす者が存在しているとは。


 まだ太陽の見える中星の輝く昼間の夜空は、初めて見たのにどこか懐かしさを感じさせるものだった。


「お前たちの切り札は一つ潰したぜ。さあ、第二ラウンドだ」

次回、117:それは地を翔ける鋼弾 お楽しみに!

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