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116:謀略は黒き殺意と共に

 避けることもできず、何倍にも加速されたシャンデリアが俺を突き刺し押しつぶす。油断していた訳ではないが、予想外だった。


 咄嗟に修復して命を繋いではいるが、シャンデリアが床に刺さって俺の身体が床に縫い留められてしまい動くことが出来ない。


 吐いた血が床のカーペットに染みを作る。俺に刺さったことで魔術自体は解除されたが、シャンデリアがかなり重いうえに腕や脚まで刺されてしまい踏ん張って身体を持ち上げることすら叶わない。


「僕だってこれくらいはできるのさ。搦め手は奴だけの専売特許じゃない」


 不気味な笑みを浮かべながらも、歯ぎしりをして一歩ずつ近づいてくる。なんというか、器用な奴だ。自らの強さに酔いながらも、何かに対して憤っている。


 二つの表情を一度に現わせるということもそうだが、この男には矛盾をどちらも強引に解消するような、底知れぬ力を感じるのだ。


 矛が盾を貫きながら、盾が矛を弾く。あり得ない二つの事象を同時に引き起こすような非人間的な器用さが滲み出ている。


「その首頂こう。剣は君より得意じゃないが、動かない獲物を外すほど下手ではないさ」


 頭首が、黒く歪んだ形の剣を振り上げる。首を切り落とされればさすがに生きていられる保証はない。腕や脚なら再生できるが、首はどうなのだろうか。


 どちらにしろ、俺だって簡単に首をくれてやる気はない。動かない相手は外さないようだが、逆に動く相手なら外すこともある。


「爆破ッ!」


 俺のとっておき、声を合図に起動する魔術符が爆発する。買う際に俺の発動用の声を認識させてから術式を定着させなければいけないせいでかなり高額だが、ここでなら使う価値がある。


 いざという時の切り札にするため、威力をかなり高めておいて正解だった。床が破壊され二階へと転落する。


 落ちる際に足をどうにか床の淵に引っ掛け、身体の上下を逆にして落下する。


「痛ってぇ……さすがに堪えるな」


 シャンデリアを下にして落ちたために、衝撃でより深く突き刺さってしまい思わず声が出る。


 頭首の追撃が来る前に立ち上がって傷を修復する。戦闘の邪魔になるのでシャンデリアは壁際に蹴り飛ばしておき、刀を構えて頭首を待ち受ける。


「いやぁ、能力が常識外なら為すことも常識外だ。君、人間としてどこか壊れていないかい?」


「お前には言われたくねえな。俺がそうならお互い様だろうよ」


 まあ、殺人者というのは基本的にどこかが狂っているというし、壊れているなんて謗りはいくらでも受けよう。だがこの男、壊れ方が俺程度じゃ生温いほどだ。


「僕はさ、あいつだけじゃない、君だってブッ殺したいんだ。この手で、バラバラにして、その命を絶ってやりたいんだ」


 神経を凍らせるような視線がまっすぐ俺に突き刺さる。それは決して魔眼のような強制力を持った一瞥ではないが、人の行動の自由を奪う魔眼の幼生のようなものに近かった。


 頭首はそのまま6本ずつナイフを取り出すと、全てを一点に集中させて撃ち込んでくる。6本が集中した一撃を刀で逸らすのは難しい。全て躱しているが、このナイフが集中する点、何かぞっとするものを感じる。


「これは……」


 心臓だ。発射した時点での俺の心臓がある位置に執念深くナイフを撃ち込んでいるのだ。そこに感じるのは、もはやただの恨みではない。


 憎い者に何度も何度もナイフを突き立てるといった、騒ぐ子供に返ったような恨みではない。ただただその存在にこの世から消えてほしい、そういう恨みだ。


 もはや傷つけることで快楽を覚えることすらない、純粋に消えてほしいという究極の憎しみ。それが俺に向けられている。


 俺が王国に与しているから。いや違う。彼は王国に関してはその破壊を一種の娯楽のように扱っていた。


 では俺が殺した人間の親族か。それも違うだろう。そういう人間は往々にして同じ目に遭わせるという報復をしたがるものだ。そんな殺し方をした人はいない。


「君は、邪魔なんだ。君が居なければどれほどよかったか」


 俺には一つ、除外していた可能性がある。あり得ないと思って外していた、ある可能性だ。しかし、少し見る方向を変えれば、それは必然にも近いものになる。


「まさかお前は……」


 ナイフの雨も止み、全ての動きが一瞬停止した。俺はたぶん正しい。頭を殴られたような衝撃に、時間が極限まで引き伸ばされる。


 やはり、俺は戦わなければ。廻転して戻ってしまう世界だとしても、やらなければならない。絶対に。

次回、116:深紅の天球 お楽しみに!

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