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115:逸話のごとく輝いて

「この国の最後の希望?」


「ああ。彼女が王座を継がなければ、今か、少し先か、この国は滅びるだろうね。エルマの一族というのはこの国を守る楔なんだよ」


 まさか、王族にそんな機能が備わっていたとは。作った者でないと扱えない道具、みたいなものはたまに聞くが、まあ国もそれと同じなのだろう。


 国とは王のもの。広い意味で見れば王の所有物という扱いができないこともない。かなり長い間続く国だ、そういうこともあるのだろう。


「いやなに、国そのものに直接影響があるわけじゃない。ただ、親衛隊がまともに機能しなくなるのさ。それは実質的な国の崩壊を意味するんだけどね」


 親衛隊がまともに機能しなくなる。それはつまり、アイラ王国の最強の象徴が崩れ落ちるということ。それぞれの国が持つ最強をアイラ王国だけが失うということだ。


 もちろん、俺達のような暗部組織はいくつかあるだろう。しかし、最強を名乗るからにはそれに見合う理由があるのだ。


 俺のように逆説的に強い者、カイルのように諜報で輝く者はそれには相応しくない。アーツやリリィのように、誰がどう見ても圧倒的、そういう力が必要なのだ。


 確かに、俺達でも国を守ることはできるかもしれない。だが、強さの象徴が失われた国を、誰が寄る辺にするだろうか。俺ならば、そうそうに見切りをつけてガーブルグ帝国にでも亡命する。


 国の崩壊とはそういうことか。つまりエルマの家系は親衛隊を地に留める楔。それは結果的に国を繋ぎとめることに繋がる。


「それで、キャスリーンはどこにいるんだ? すぐにでも王を殺して王座に就かせないと」


「面白いことを言うね。国を内側から食い破ろうとしている僕たちが、そんなこと教えるわけないだろう? 自分で探すんだね」


 それもそうか。アーツが苦労しているのだから、俺が少し首を突っ込んでどうこう変わることでもないだろうし。


 それにしても、改めて親衛隊の存在の大きさを思い知らされる。彼らは国の守り神のようなものだ。国が在り続ける礎なのだから、それも頷ける。


 その光輝は、神代のそれに匹敵する。過去に為した逸話を基に神話顕現という力を振るうように、国を守ったという事実が彼らを高位の存在へと昇華させていく。


 名声も栄光もなくただただ殺している俺達には、守る者という概念がほとんど存在しない。


 人々に抱かれているイメージというのは一種の呪いとなって確実にその人物に影響を及ぼす。だからこそ、国を守るのには親衛隊が必要なのだ。


 だからこそ、俺は殺す者として殺すことで誰かを守る。今であれば、目の前の頭首を殺すことで。


「話は終わりにしよう。じゃあ、始めようか」


 とりあえず持ち物を刀だけにし、出力を少しでも向上させる。いつもより身体が少し良く動く程度だが、これでもないよりは全然いい。


 頭首はナイフと共に歪な形の剣を取り出す。闇から滲み出てきたようなその剣は、どこか見たことのあるような形だった。


 この前戦った時に使っていたものよりも少し短くて太いような気もする。今回は威力重視ということなのだろうか。大きさや形状を自由に変えられるのは羨ましい。


 飛んでくるナイフを潜り抜けながら、頭首に接近する。ふと思ったが、この男、発動が早すぎやしないだろうか。


 ジェイムが反復詠唱を使って二重に魔術を発動させているように、一度の詠唱で複数の魔術が発動しているがこれはジェイムのものとは少し違う。


 一つの魔術がそのまま複数の魔術に分裂しているような、そんな感じがするのだ。


 彼は禁呪使いなのだろうか。この理不尽な詠唱の短さと連射速度はただ魔力特性が一致しているだけの問題ではない。この時間魔術の術式が、彼の身体の一部となっているのだ。


 その無限に近いナイフの掃射のせいで、ある程度接近するとそれ以上近づけなくなる。無傷で殺せるなんて自惚れてはいないが、これは一度喰らうと逃れられなくなる。


「ちくしょう、でたらめな魔術しやがって……!」


 いったん距離を取り、逸りすぎた身体を整える。ちょうど部屋の中央。睨みつけた先の頭首の顔が厭らしく歪んでいるのに気付き、とてつもない寒気を覚える。


「アクセル」


 ナイフもなく、何も動いていないように見えた。そうではない。これは違う、上だ。頭首の魔術によって時間を止められ固定されていたシャンデリアが、まっすぐ俺にむかって落下してくる──!

次回、115:謀略は黒き殺意と共に お楽しみに!

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