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114:それは、ただ一人の戦い

 この時間なら、きっと彼らはあそこにいる。


 俺達は馬で西区に移動し、遊撃隊の支部に馬を預けると徒歩で『蒼銀団(アビス・インディゴ)』の本拠地である館へ向かう。


「アーツ、頭首の居場所は予想できるか?」


「ああ、きっと館から出てくる頃だろうね。別に腹心を向かわせるはずだから、レイくんとハイネちゃんは館の中に──」


「いや、館の中には俺一人で行かせてくれ」


 協力してもらってこんなことを言うのもどうかとは思うが、俺は一人で行かなければならない理由がある。理由はもちろん今限定の能力だ。


 【リベレーター】の逸話は、あくまで一人で大勢を排したというもの。おそらく一人で行かないと発動しないか、効果が減衰してしまう。


 だからこそ、俺は一人で行く必要がある。アーツとハイネに謝り、一人で別の道へと走る。これでいいのだ。これで、勝つことができる。


 館の裏口へと回ると、蹴りで扉を壊す。今回は潜入ではない、攻略だ。館の一つや二つ、跡形もなく破壊し尽くすつもりでかかる。


 だが、館の中はやけに静かだ。表の方では戦闘の気配がするし、実はほとんどがあちらに出張ってしまったのだろうか。


 持ってきた手留弾を手当たり次第に部屋に投げ込みながら一階二階を隈なく探っていく。これなら討ち漏らしもかなり減るだろう。


 ここまで来て誰もいないということは、残る三階にここの敵勢力が集中している。足音を立てないように階段を上がり、ドアを蹴破る。


「お前は……!」


 そこにいたのは、頭首その人だった。飛んできた扉を停止させ、床にそっと下ろしている。まさか、アーツの読みが外れるとは。なんでここにこの男が。


「信じられない、という顔だね。予言に近い予想を外した人間はみんなそういう顔をする」


 ああ、信じられない。アーツが誰かに出し抜かれるところなど見たことがない。何を考えているかはわからないが、その行動は常に勝利に帰結する。


 まだわざと言ったという可能性も残っているが、アーツがここで俺達を欺いて俺をここに寄越す意味はない。


 それに、アーツは『頭首は俺に任せろ』と言った。彼がそう宣言したのだから、それは揺るがない。頭首はアーツが倒すのだ。


「普段なら、こううまくはいかなかっただろうね。だが今は違う。この状況を正確に把握できているのは僕たちだけ、そして君はおそらくそれを細かく伝えなかった」


 敗因はしっかりと理解した。アーツは別に過程を飛ばして答えを得ているわけではないのだ。


 普通に彼と接しているとそう見える。俺だってそうだ。ヴィアージュのような未来視の千里眼持ちで、物事全てを見透かしているように思える。


 だがそれは違うのだ。彼はただ答えを知っているのではない。持っている情報で物事を判断し、予測し、推理し、答えに辿り着いているだけなのだ。


 であれば与えられた情報が間違っていたり精度が低かったりすれば当然間違う。俺はクリスについてのことは話したが、ただそれだけだ。世界の特異点化などの話はする余裕がなかった。


 というより、知られたくなかったのだ。この世界が滅びる数歩手前にいるということを。世界の未来が懸かっているというこの重圧は、他の誰にも背負わせたくなかった。


 誰に期待されているでもないのに、勝手に俺は世界の圧を感じている。俺が負けることで零れ落ちるものが、さすがに大きすぎるのだ。もしこれが俺ではなければ、こんな風には感じなかったのだろうか。


「いやしかし、こういう形であるとはいえアーツを下すのは気分がいいね。……それと。君はアーツを信じているようだが、彼が裏切っている可能性だってあるんだ。僕と結託して君を貶めている可能性もあるんだ。本当に信用できるかい?」


 確かに、何を考えているのかわからないアーツは、裏切りに相当することを考えていても不思議ではない。だが。


「あいつの目的は一貫してる。そのために、お前が俺よりアーツのためになるとは思えないな」


 アーツが俺を裏切るとき。それはきっとアーツにとって俺が要らなくなったときか、俺が先に裏切ったときだろう。路地でもあれだけ敵対していたこの男が、アーツにとって俺より有益な存在とは思えない。であれば、俺のことを裏切る必要はないだろう。


「ククク、キャスリーン、まだあの女にご執心なのか。まあそうか。しかし、つくづくつまらない男だ」


 そう言う頭首はすごく嬉しそうだ。この男もアーツの真の目的を知っているような口ぶりだが、キャスリーンとは何者なのだろうか。


「なあ、キャスリーンってのは、何なんだ?」


「うん、せっかくだから教えてあげよう。そうだね、彼女は言うなればこの国の最後の希望さ」

次回、115:逸話のごとく輝いて お楽しみに!

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