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105:殺し屋の矜持

 一旦頭首は沈黙したようだ。腹にかなり強烈な一撃をお見舞いしたし、しばらく動けないだろう。吐血までしていたし相当なダメージのはずだ。


 クリスと戦う路地まではあと少し、頭首が起きる前にどうにか殺さないと。


 曲がればすぐにクリスのいるところまで辿り着くというところで、脚と息を止める。ちらりと覗くと、しっかり姿を確認することが出来る。


 真正面から突っ込めば、さすがに勝てない。俺にかなり肉薄した技術を持つ男だ。クリスの実力は本物、頭首から逃げるよりも厳しい戦いになる。


 ならば奇襲だ。俺は建物の壁をよじ登ると、真上からクリスを見下ろす。ここから飛び降りれば互角以上の状態には持っていける。


 ふわりと飛び上がり、急降下する。それは少し前に王を殺したときのように。だんだん大きくなっていくクリスの顔目がけて。


 魚を獲ろうと鳥が川に飛び込むのと似ていた。一瞬で命を絶つための、高さを味方にした攻撃。


 さすがに気付かれてしまったが、一回転して振り下ろした踵はクリスの右腕をしっかり破壊した。頭に叩き込もうとしたものを防がれてしまったのは残念だが、これで戦力はかなり削げただろう。


 着地と同時に、間髪入れず顔面に蹴りを叩き込む。クリスは壁で跳ね返り、地面に転がる。俺も衝撃でかなり脚が痺れているが、あと一息、あと一歩だ。


「──セル」


 悪寒がした。路地の奥の奥、暗闇の中から聞こえてきたのは俺に絶望をもたらす一言だった。


 きらりと光った閃光が、まっすぐ心臓に突き刺さる。あまりの威力に、ナイフが柄ごと貫通していったのだからこの威力は本物だ。


身体補強・防御特化フィジカル・シフト・ガードッ!!」


 あまり一機能に特化させるのはバランスが良くないから避けた方がいいが、この場はこれで凌ぐしかない。ハーグの業火さえ火傷程度で防いだのだ、ナイフの数本くらいどうということはない。


 とはいえそれだけでは死ぬので同時に身体に空いた穴も修復する。激しい運動のせいで開いてしまったグラシール戦での傷も、一緒に治さなければ。


 かの剣士から受け継いだといわれる力、防御に集中させればかなりの効果を発揮する。さっきまで身体を貫いていたナイフも弾かれ飛んで行くほどだ。


 脚の痺れもどうにか収まり、普通に戦闘するだけの機能は戻ってきた。しかし、俺が回復するということはそれだけの猶予が相手方にもあったということで、クリスも左腕でではあるが、剣を握って立っていた。


 先程頭首の話を聞いていてわかってはいたが、この二人は現在結託している。時を戻し、カイルを救うにはこの二人を打倒しなければならない。


 厳しい戦いだが、自分で蒔いた種だ。絶望の大樹へと成長する前に、その芽は摘み取っておかなければ。俺自身の手で。


 身体を低く下げ、相手を睨みつける俺の姿はさながら獣だ。貪欲に血と肉を欲する、飢えた肉食獣だ。


 たとえ獣と化してでも、俺はこの戦いに勝つ。これでも俺は元殺し屋だ、こと戦いにおいて、俺には殺し屋だったという矜持がある。


 たとえ相手が何者であろうと、どんなに不利な状況だろうと、殺さなければいけない時には殺すのだ。自分の命を懸けず、誰かの命をないがしろにするなんて許されるはずがない。


 最優先なのはクリス。彼さえ殺せば世界の時間は逆転する。しかし、クリスばかりにも集中していられない。頭首の妨害が絶対に入る。無視してクリスに集中してもいいが、それでは俺がクリスよりも先に死んでしまうだろう。


 だが、頭首の回復は思っている以上に早い。時間の魔術を操るようだし、傷の部分の時間を加速させて、疑似的に修復力を上げているのだろう。


 俺の今使える武器は、実のところ一つだけある。うっかり取り出し忘れて持ってきてしまっていたものだが、ある程度の効果を発揮してくれるだろう。


 身体補強フィジカル・シフトを各機能にまんべんなく行き渡らせ、地面を蹴る。この距離ならば、まだナイフを避けるのも不可能ではない。


 反射神経と勘を総動員して二人に接近する。ナイフの軌道は加速させているだけあって直線だ。一度避ければ曲がってくることもないからアーツの鎖よりも楽だろう。


 だが、ある程度近づくともう完全な回避は難しい。身体に掠る程度の、多少の切り傷を生むような一撃は見逃さないと致命傷を受けてしまう。


 クリスと頭首に肉薄する。5本のナイフが突き刺さるが、俺はそれに抗い懐から取り出したそれを頭首の身体に叩き込む。


 ずぶりと深く刺さったそれは、アダマンタイトの弾丸。以前闇市で購入したうちの一発だ。どれほど効果があるかは分からないが、この金属の魔力遮断性は非常に高い。魔術行使をかなり阻害してくれるだろう。


 俺は振り返りクリスと対面する。左で構えているが、そこに隙は無い。右腕を壊したのは効いただろうが、それでも強敵であることに変わりはない。


「くくく、そっちに集中するのはまだ早いんじゃないかなぁ?」


 まさか、そんなことが。声のする方に振り返ると、どこから取り出したのか漆黒の剣を振り上げた頭首が、俺のことを見下ろしていた。

次回、105:絶対的窮地 お楽しみに!

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