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97:無欠の廻転

 巻き戻った世界で、俺はクリスの魔術の弱点を求めて本を買い込む。どうせ今日では解決しきれない。俺は少しやけくそな気持ちだった。


 買ってきたのは主に時間、それも負方向の魔術について書かれた本。術者がほとんどいないせいで数は多くないが、在庫だけは余っていた。


 片っ端からそれらしいものを見繕って買ってきたせいで、教科書のようなものから伝説や言い伝えをまとめただけのなんとも信じがたい内容のものまである。


 まあ、こういう伝説のようなものに惹かれてしまうのも事実なのだが。本当にこうだったら面白い、そんなことが書かれていることが多いから。


 だが俺が手に取ったのはその中でも特に突拍子もない、神代の時間魔法に連なる話ばかりをまとめたものだった。


 自身の中の時間を加速させて他の目に留まらぬスピードで動く、というようなありえそうなものから時間魔法は神に排斥された黒の種族の系譜だとかいう、訳のわからないものまである。


 黒の種族というのはそこそこ有名な伝説だから俺も知っている。五大神のカウンターとして誕生した、第六の神とそれに連なる者たち。冥界の牢獄を用いて閉じ込められたことになっているが、それらが存在した証拠はない。


 それに、彼らが時間魔法を使えるなんていうのはもはや根拠の欠片もない。まだ黒の種族の存在自体は神のカウンターという理由が一応あるからいいが。


「レイ、勉強中? えらいね」


 少し満足げなリリィが部屋に入ってくる。手がインクで汚れている、シーナへの手紙を書き終えたのだろう。


 こうして頑張って書いた手紙が届くことなくまた同じ日を迎えると考えると、さっきどうせ戻るし本をいくら買い込んでも問題ないと思っていたことを申し訳なく感じる。


 濡らした布で手を拭いてやると、適当な木箱を引っ張り出してきて座らせる。リリィが座るには少し高くて足が床についていないが、椅子の役割自体は果たせているだろう。


「ちょっとまあ、いろいろな。あ、そうだ。ちなみに『蒼銀団(アビス・インディゴ)』について知ってることとかないか? さすがにない──」


「特務分室に資料あるよ。持ってきてあげる」


 まさか、こんなところに資料が揃っているとは。俺は端から明日の今日にでも憲兵団か遊撃隊に行って資料をもらってくる予定だったのだが、灯台下暗しとはこのことだ。


 リリィが持ってきてくれたのはかなり分厚い資料だった。それもそのはず、魔力特性などが割れているメンバーすべての情報が載っているのだ。


 人によって名前と役職だけの者から、魔力特性、生年月日まで詳しく書いてある者まで様々だ。姿が分かっている者には念写や似顔絵が貼り付けられている。


 薄い別冊には個人個人ではなく組織全体の情報が書かれていた。総構成員数や大まかな資本力、それから根拠地の位置まで。


「待てよ。居場所割れてるのか?」


 根拠地はばっちり王都西部の館だと書かれていた。あれだけ謎の秘密結社とされていたのに。


「これだけ情報が割れているなら潰しちまえばいいのにな」


「つよい人が多いから、攻撃すると街がこわれちゃうんだってさ」


 なるほど、そういうことか。確かに上位の構成員なんかは親衛隊とも一対一で渡り合えそうな者も何人かいる。これが全員揃っていれば数の力で押し切るのは難しい。最悪泥仕合になって王都西部を滅ぼしかねない。


 しかし、反王政府組織だ、あの王が黙っているとは思えないのだが。それこそあの好戦的な性格からして親衛隊を全員差し向けて潰すくらいありえそうだ。


「頭首の力が割れていないのも攻めにくい理由の一つさ。完全な実力主義のあの組織でトップを保ち続けるほどの人物だ、相当の実力者なんだろうね」


 リリィが資料を持ち出したのを不思議に思ったのか、キャスも俺の部屋に入ってくる。キャスの言う通り頭首に関しての情報は一つもない。名前すら割れていないのだから徹底している。


「噂程度の話だけどね、頭首の魔術は時間を操作するとかなんとか。もしかして手掛かりでも見つけたのかい?」


 キャスの目は机に積み上げられた俺の本に向いていた。完全な偶然だが、その噂話を知っている人にとっては関係があるように見えても仕方がない。


「いや、それとこれは別件だ。関係ないわけじゃないがな」


 だが、いいことを聞いた。時間を操る者が頭首だとすれば、そこに何かクリスを狙う理由があるのかもしれない。


 俺はその噂話を手近な紙にメモしようとして、辞める。どうせこのメモは残らないのだ。頭の中にきちんとメモしておく。


 さて、謎を究明するはずが調べることが随分と増えてしまった。『蒼銀団(アビス・インディゴ)』については今日は置いておいて、今日は時間魔術について学ぶことにしよう。


 リリィとキャスの話を聞きながら、俺はクリスとの約束の時間まで、本を読みふけるのだった。

蒼銀団(アビス・インディゴ)』も、この先物語に関わってくる重要な組織の一つです、ぜひ覚えていてもらえたらと思います。

次回、97:死の約束 お楽しみに!

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