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十九

「おい、賊ども。正直に話せ。何故俺達を襲おうとした」


「くっ。殺せ」


 ゴダイは自分の言った月並みなセリフに月並みなセリフを返されて失笑した。


「ならば望み通り」


 そう言って長剣を抜こうとしたジュリアをまた止めた。


「何故だ。ゴダイ殿。何故切らぬ。切ってしまえば良かろう。ああ、賊なぞ。忌々しい。人間以下なのだぞ。温情なぞいらぬであろう」


 ジュリアは二度の制止に我慢ならず激怒してそう啖呵を切った。


「ええい、冷静になれ。相手は賊だろう。それは可い。よく見ろ」


 ゴダイにそう諭されて収まりきらぬ激情の中、視線を二人に向けた。


 賊二人の格好は泥や汚れてはいるものの、白い――山伏の法衣であった。


「霊峰の修験者、なのか。何故またそんな格好を」


 だからゴダイは、短気で切れ切れなぞ言わない方が良い。と言って嗜めた。気が短い所はあのジャックとそっくりであった。


「すまん。ゴダイ殿。私はどうも短慮なところがある」


 そう言って柄にかけた手を引っ込めた。ゴダイは賊どもに向き直って言った。


「おい、賊ども。もう一度問う。正直に話せ。何故俺達を襲おうとした。答えぬなら、俺の後ろに控える姫騎士が相手になるぞ」


 二度目のゴダイの問いにジュリアは顔が焼ける思いであった。山伏風の賊二人は、くっ。とか、ぐう。とか唸ってしばらく唸ったりしていたが、ややあって、とつとつと話し始めた。


「ジャック様をやろうとしている者が王国から、ウルマから来ると言う知らせがあった。名前はゴダイ。お前さんがそうだろう。だから襲おうとした」


「ジャックは既に死んだんじゃないのか」


 ゴダイの問いに、賊の細いほうが答えた。


「まさか。やられてなんていないはずだ」


「そうか。そうならば、そうなのだろう」


 と、ゴダイは一人で納得して頷いた。


 これらの会話を聞いていてジュリアは、話が食い違っているような不自然さを感じた。


 ジャック死亡の報告はすでに上がっている。しかし、賊どもは死んでいないと言う。


「俺はやつに一物あるが、殺したいとは思っていない。なあ、どうだ。俺をそのジャック様に会わせてくれないか」


 賊二人はねめつけるように下を向いたままゴダイとジュリアに分からないように目配せしてはぶつくさぶつくさしゃべって、ああだこうだとやっているから、ゴダイは待っていられなくて言い放った。


「なに、騙まし討ちなぞするものか。こちらにおられるのは、ジョン=ジャン=ウルマが三女のジュリア女史にあらせられるぞ」


 賊もとい山伏の二人はゴダイの言葉に「ははぁ」と言っては、足を折り、その身ができる最大限に低い姿勢で頭を垂れた。


 それからゴダイとジュリアの二人は山伏の二人に付いて霊峰を登っていった。ゴダイが先日休んだ小さな窪みのような洞窟を横目に過ぎてから三時間は歩いただろう。


 すると次第に先の窪みのような洞窟より更に小さい窪み、のある祠を岩肌の側面に見つけた。


「ここだ」


 山伏の一人が、その腰くらいの高さのへこみに入っていって、短い呪文を唱えた。


「入れ」


 促されるまま、ゴダイとジュリアは屈みながらもう一人の山伏の後ろを付いて行った。入ってみてゴダイはここがただの窪みではなくて、先の呪文で開いた洞窟であることに気付いた。


 中は広い空洞で、角灯を脇に置いた山伏たちが、ゴダイの目算三十余人、静かに座禅を組んでいた。


 座禅を組んだ彼らの対面に一人、体の黒い僧が同じように座禅を組んでいた。


「ここで待たれよ」


 体の細いほうの山伏が、すすっと足音をさせず、また走ることなくその黒い僧に近づいて片膝立ちになってから耳打ちをした。


 すると相手はゆっくりと頷き、すっくと立ち上がった。


 周りの修験者たちや黒い僧の脇に置かれた角灯なぞではあまりに光が弱すぎて、ゴダイとジュリアの二人には黒い塊が、縦長に伸びたように錯覚した。


 その塊がするりするりと歩いてくるさまは、先の体の細い方の山岸の男の歩き格好よりもなめらかであった。


「あなたがゴダイ殿であったか」


「ああ」


「先に、彼らの無礼を謝りたい」


「それは可い。結果、俺が初めに一撃いれている。謝るべきは――」


 ゴダイはそう言いかけたところ、ジュリアが遮るようにして言った。


「謝ることはなかろう。不意を突いてきたのはそちらだ」


 それよりも、と続けたのはジュリアだった。


「お前は誰なのだ」


 彼女の言葉にジャックは目を細めて口角を上げるだけであった。


 ゴダイもジュリアも彼の顔立ちや背格好を見て、到底あのウルマのジャックに似ているところなぞ一つもなかった。


「私はジャック。ここで修行に励むものたちの一人です。それ以外の何ものでもないのですよ」


 ゴダイとジュリアが山岸の修行場を後にした頃、日は傾き始めていた。


「さて、ゴダイ。これからどうする。今から下れば日没には間に合いそうだが……」


 ゴダイは頂上のあたりで野営をするつもりであったから、ジュリアの言葉に、ううんと唸ってから黙った。長い沈黙が嫌で、


「野営でもする気だったか」


 と彼を推し量って言うと、首肯したから、


「なら、良い場所を探そう」


「ちょっと歩けば頂上だ」


 ゴダイは彼女の後に続いて歩いた。

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