#2 もし、やり直せるなら
目が覚めると俺は大勢の人間に囲まれていた。
『〜ッ!!-ー・ーー!!』
真っ先に目に飛び込んできたのは綺麗な赤髪の、妙齢の女性だった。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔と、目の下の深いくまのせいで陰気な顔に見えるが、恐らく相当な美女と見た。
顔立ちも西洋風と言えばいいのだろうか。
とても整っているように思う。
ちなみになにを話しているのか、その言葉は聞き取れない。というか、聞き取れはしても理解はできないのだ。
ただ俺は、泣き腫らし澱んでいた黄色の瞳に、光が戻っていくのを見た。
うん、笑うとやはり美人だ。
……で、この人誰だっけ?汗
俺にこんな美人の知り合いはいない。
他にも周囲に人はいたが、知っている顔はだれ一人いなかった。
ただ、誰もが喜び、ある者は涙を流していた。
落ち着いて観察してみると、彼等は不思議な服を着ている。
中世ヨーロッパ……もしくはファンタジー風とでも言おうか。
どちらにせよ、現代日本におけるファッションとは異なる。
……俺は、火事によって死んだのではなかったのだろうか。
もしくは運良く救出され、今この瞬間に目が覚めた?
いや、だとしたらここはいったいどこなんだ。
見たところ病室や手術室ではない。
質素で、それでいて落ち着く雰囲気の部屋。
それに、周囲にも見知った顔は無い。
とりあえずはこの状況について聞きたくて、俺は口を開く。
「あー、ぅあー……」
声が出なかった。
頭ではわかっているのに、それが言葉として喉から出てこない、変な感覚。
喉か、もしくは舌がやられてしまったのか。
それならせめて体を起こそうと試みるが、それも叶わない。
ただ、小さい手が伸ばされるだけ。
もしや、火事で全身に火傷を負い、寝たきりになってしまったとか……。
「小さい手」
小さい手……?
俺は再度、伸ばした手を見た。
それは、いつも見ていた自分の手ではなかった。
一言で表すなら、そう。赤ん坊の手だ。
『……_______________。』
言葉にならない声を発し、手を伸ばす俺を、その女性はそっと抱き上げた。
人に抱かれる感覚は久々過ぎて、俺は目を見開く。
この女、怪力か!?
栄養不足とストレスで平均的な成人男性より若干軽いとは言え、仮にも29歳の男。
それを軽々と持ち上げた!?
そして、それをその女性の夫と思しき男性が包み込むように抱いた。
癖毛の茶髪に蒼い瞳。細身だが、その体に触れると引き締まった筋肉を持っているのがわかった。
男に抱きしめられるなんて不本意なこと甚だしいが、不思議と嫌な気持ちではなかった。
むしろ、暖かくて安心してしまう。
ああ……人ってこんなに暖かかったんだな……。
うとうとと、薄れゆく意識の中で俺は一つの仮説を立てた。
俺は人生をやり直すチャンスを得たのだと。
_______________俺は、転生したのだと。