~八月二十四日(朝)~ 寺子政樹
いよいよ、この島ともお別れの日がやってきた。
月に一本しか来ない連絡船には五人の乗組員がいた。昨日この島にやってきて、一日この島で休憩してから帰る。昨日の時点で僕と京子さんの二人を乗せて本土まで連れて帰って欲しいとお願いしておいた。この島から出る人が珍しいのか、乗組員の人達は驚いていたけれど金額の交渉をしたら快く引き受けてくれた。
「ところで、いつも挨拶に来られる村長さんは今日は来られないのですか?」
「ええ、最近村長が代わりまして立て込んでいるのだと思います。持ってこられた荷物はいつものように波止場の隅に置いてもらえれば、あとから担当の者が取りにきます」
「はぁ」
僕の適当な受け答えに乗組員は気の抜けた返事をした。
「それではそろそろ出航します。準備はよろしいでしょうか?」
船長が僕に尋ねる。
「はい。お願いします」
僕は元気良く答える。
振り返り、京子さんの手を取る。
「行こうか」
「はい」
京子さんと手を繋ぎ、船に乗る。
「本土は楽しみ?」
「うん」
京子さんは楽しそうに頷いた。本当に楽しそうに無邪気に。
僕と二人で、島の人間を百人殺したことなんて嘘だと思えるくらいに爽やかな笑顔だった。