5魔王、高校に編入す。②
週末はバイトやらで忙しく、更新が止まってしまいました。すいません。なんとか続きはノートに書き貯めしてるので更新頑張ります!
実に十年振りの制服だ。紺色のブレザーにチェックのズボン、ネクタイは学年毎に違い、青、赤、緑に分かれている。俺は二年だから赤のネクタイを付けている。
魔人となったことにより金色になった瞳は、目立つので魔法により色彩を変え自然な黒い瞳にしている。
中身は二十七なので今更なのだが違和感しかない。しかし、通信制とかではなく、普通に高校を卒業して欲しい。
という両親の願いを無碍にすることなど俺には出来なかった。
俺は今、教室の前の廊下に立たされていて、担任の先生の合図で入っていくこととなっている。
教室の中には、俺よりも十個も歳の離れたガキしかいない。約一回りも違うのだ。
何かあれば魔法で対処できるし、大人の対応力を見せてやろう。
ちなみに、編入する時は先生たちに俺の年齢は十七だと洗脳した。まあ当たり前だが、二十七歳が普通に入学できるわけないのだが、人間に洗脳をかけるって行為自体が魔王っぽくてなんか負けた気がした。
そんな事を考えていると、担任から入ってきてくれと言われる。まあ、なるようになる!と自分に喝を入れて教室に入るのだった。
教室に入ると、皆から好奇の視線が刺さる。こちとら戦争を経験しているのだ。このぐらいの注目、戦争前に同志達を鼓舞する演説の時と比べれば屁でもない。
そんな中、後ろの男女2人が好奇の視線とは別の視線を向けている事に気付き、魔眼の一つを使い、調べる事にした。探究者の魔眼と言うのだが、対象としたモノの名称から種族、能力などを見る事ができる。
鑑定の魔法と似ているが、魔力を飛ばさないので相手に悟られる事がないのが便利だ。
更に、指定した空間から特定の人物を探すことも出来る。戦争では、隊長格や魔法使いを見つけるのにも使えた。
東條薫子と高原悟、後ろの2人組の名前には見覚えがあった。見た目では気づかなかったが、昔に近所付き合いで面倒を見ていたガキンチョ達だった。当時の事も知っていそうだったので自分の口元に人差し指を当てて、黙っててと言う簡単な合図を送った。 少し周りがざわついたが、大方上手く通じたみたいだ。
自己紹介が終わり、俺の席は空いていた窓際の1番後ろになった。悟の隣の席となるのだが、まだ話しかけてくる気配はない。俺の周りにクラスメイトとなった奴らが押し寄せてきて囲まれてしまったからだ。
「なんでこの高校に?」
「前の学校ではなにやってたの?」
「学校を紹介するよ!」
「かっこいいね!」
などなど色々と聞かれたが、俺は聖徳太子ではないので一遍に言われてもわからないので、適当に愛想笑いを浮かべていたのだった。
ダンジョンのトラップでモンスターハウスに掛かり、スライムの群れに揉みくちゃにされてる時と似ている。一度だけ訓練中にヘマして掛かったが鬱陶しさがハンパじゃない。
ゼリーの中に落とされたみたいなもんで息も出来ないし、口の中にスライムが入って気持ち悪かった・・・。その時はすぐに吹き飛ばしてしまったが、それも出来ない今は悲惨だ。
俺が対応に困っていると、教室のドアの方でバンッ!と壁が叩かれる音が響いた。教室が鎮まり返り、助かった!と思ったのだが、どうやら違うようだ。
目を向けると、凄んでるつもりなのだろう、不良と思わしき人々が不機嫌そうに睨んでいた。
「おい、そこのてめぇ。表、出やがれ」
そう言いながら、クラスメイトの波を押し退け、俺の首根っこを持ち上げようとした。しかし、立ち上げる事ができず、終いには額に青筋が浮かんでいた。
「てめぇ!!早く立ち上がりやがれ!!」
なんとなく、何をされるか予想できたので自分と椅子を床に固定させる魔法を使っていた。まあそんな事をしなくても、ただの不良が持ち上げられるはずがないのだが。
「まあ、落ち着け。手は離していいぞ。一人で立てるから」
いい加減、質問の嵐にもウンザリしていたので、俺は不良達の提案に不本意ながら乗る事にした。
いつの時代も不良という生き物は校舎裏が好きならしい。転移する前の俺だったら震え上がっていただろうが、今ではこいつらとは力の差がありすぎる。気軽なものだ。しかし、編入してから僅か数十分でこの状況だ。俺が編入する前からシメる事を決定させてたに違いない。そういう輩には鉄槌を下す必要がある。
七,八人は居るだろうか。こういう群れたがる不良は弱い者いじめが大好物だ。舐められると骨の髄までしゃぶり尽くされる。あの王国を思い出して少し不快だ。
ボスは、あの緑のネクタイをした金髪くんか。『天道晶』という名前で、この中だと抜きん出た容姿と戦闘能力はあるみたいだ。日本の高校生にしては、というぐらいだが。
ちなみに、俺の首根っこを掴んだ奴は見た目は極道一歩手前みたいな風貌で凄かったが、一般人に毛が生えたくらいしかなかったので興味すらわかなかった。
荒っぽいことは極力避けたいのだが、こちらとて学校生活をしながら、異世界から妹を救出しなければならない。こいつらに構ってやる暇はないのだ。
「おい、編入生。この状況にブルっちまって声も出ねえか?いけすかねえ奴が入ってきたって聞いたから見てみたいと思っただけなんだが、確かにいけすかねえな」
しかし、こいつらの物言いには腹が立つ。粛清だ。
「あんたには負けるよ、天道晶さん。天下の天道組の跡取りが裏でコソコソと後輩の編入生いびりとは。派手な金髪とは裏腹に臆病なんだな」
「うるせえ!!!どこでそんな事を知ったかは知らねえが、俺様にそんな口聞いていいと思ってんのか?お前ら、やっちまえ」
魔眼で更に調べると、天道は組長の息子とわかった。その組がどれ程の大きさかは知らんが、こんなところでこんな事をやってる輩の器など知れている。
少し煽っただけで思った通りの動きをしてくれた。簡単だ。屈服させるのは、たいした手間でもない。圧倒的な力の差を見せればいい。
だが、兵隊だけ動き自分だけが安全地帯にいる。その精神がただどうしようもなく気に喰わない。人間の国王を見てるようで吐き気がする。
俺はその場を動く事なく、囲みながら殴りかかろうとした不良にほんの少しだけ殺意を放った。天道には届かない程度に加減した。
しかし、普通の人間、ましてやこんな卑怯な群れ方しかできない輩が、魔王である俺の殺気を手加減してるとはいえ浴びれば気絶くらいするだろう。
洗脳されてバーサク状態だった王国兵にはあまり意味なかったのだが、不良は失禁しながら気絶した。何が起こったのかすらわかっていないだろう。
「俺は今、虫の居所が悪いんだ。早くお前もかかって来い。手下がやられて、自分は降参だ、なんて言ったら一思いに殺してやるよ」
「この悪魔め!!テメェこそ一思いに死んじまえ!!!」
懐からバタフライナイフを取り出して本気で突っ込んできた天道には呆れてものが言えないが、馬鹿正直に向かって来た事に少し見直した。なので、俺は悪魔でなく魔王なので真っ向から捻じ伏せてやることにした。
刺されても傷一つ付かないのだが、大人しく刺されてやるほど俺はお人好しではない。
むしろ、刺されてピンピンしてたら人間じゃないとバレてしまう。
色々と考えた結果、ナイフを指の間で白刃取りしてやる事にした。すると、圧倒的な力で止められたナイフは壁に突き刺さったかのように止まってしまった。
天道は、突進してナイフに推進力を付けていた。それを硬い壁などに打ちつけたらどうなるか?
答えは簡単で、推進力は反力として持ち主に帰ってくる。ナイフは地面に転がるはずであったのだが。
前言撤回、俺は悪魔の才能すらあるのか?ついでに手とナイフを固定する魔法を使って衝撃が手首にいくように仕向けた。
あまりの痛みに天道は、立ったまま気絶していた。死んではいない事を確認して、満足した俺は予鈴が鳴り始めた校舎に帰る事にした。