プロローグ2
玉座の間に着いた青年はありえない光景を目にする。
竜をも倒した兄貴が、輝かしいオートメイルの鎧を着た勇者に光の剣で貫かれていた。鎧には傷一つ付いていなかった。
すぐさま青年は飛び出し、兄貴を救うべく勇者を殴り飛ばす。一瞬の事で反応の遅れた勇者は吹き飛び、その衝撃でヘルムが取れて素顔が晒された。
素顔をみた青年はまたありえない光景を目の当たりにする。
「咲・・・か・・・?」
そこには、日本で生き別れたはずの成長した妹の姿があった。
しかし、反応はなく、虚ろな目をして涙を流しながら、こちらへ向かってくる。その姿を見た時に青年の中でドス黒い渦巻いている何かが身体を支配した。妹が、咲が、助けてくれと泣き叫んでいるようで胸がしめつけられた。
『汝、力を欲するか』
俺の中で何かが囁いた。
『あぁ、もう悪夢は充分だ。全てを覆し、こんな事を起こした奴らを皆殺しにできるだけの力が欲しい』
『ならば我を求めよ。戦場にて彷徨える魂を喰らい真なる魔王となるのだ。アマノテルよ』
「やめろ!テル!世界が滅ぶぞ!!」
「・・・・あぁ兄貴。生きていたんだね。よかった。けど、もう無理だ。憎んで、殺して、憎んで、殺されて、もう疲れた」
魂の吸収は終わり、進化がもう始まりかけていた。意識が飛びそうだ。今までの事が走馬灯の様に駆け巡る。
こちらに来るまでのことも、こちらに来てからのことも。
もうこちらの世界に来て十年か・・・。兄貴に召喚されて、それなりに楽しかったなぁ・・・。
ただ心残りがあるとすれば、一目でいいから両親にまた会いたい。元気でやってるかな・・・。咲は可愛く成長していて、兄としては喜ばしい限りだ。あんなに小さかったのに。これからこの世界もろとも殺してしまうのだろうな、嫌だな・・・。
「全く手のかかる弟だぜ。諦めた様な顔しやがって。本当に俺の血入ってんのか!?漢って言うのはな、絶望の中でも笑っているもんだぜ?俺がなんとかしてやる。安心して眠ってな。」
「・・・兄貴!!!!」
俺は眩い光に包まれ意識を飛ばした。