その三
三です。
「へー、ここが風魔法の城か。うちの土塔よりずっと城っぽいね。」
「おい!」
「それにしても…」
目の前の城は空気で造られている。つまりは何もないのかと、そういうことではない。そこらへんにあるありとあらゆる物を風魔法で浮かせて形を作っているのだ。
そしてその上で、城全体を固めた空気が覆っている。
「なんだか落ち着きのない城ね。」
「ああ、ガラクタをかき集めたみたいだ。」
「ガラクタじゃないわ。処理に困ったゴミよ。」
城の一部の風が止んで、出てきた人物が、
「ヴァレイア。」
「バ、バー…ヴァレイア?」
ナビゲーターNo.02《空気》のヴァレイアだ。続いて出てきた少年ははおそらく風の加護を受けたものだろう。
「よー!というか、来てやったぜヴァレイア。ゴミ城に。」
「ちょっと、アース。」
「良いのよ、…あなたがアースの加護を受けた子ね。」
「アースって、あ、そっか知ってるんだ。」
ルクリアが恥ずかしそうに口に手を当てる。
そしてその肩に触れる手。
おいおい、、
…ま、僕なら大丈夫だろうが。
ルクリアがその存在に気づくと同時に少年の手のひらから光があふれ出す。
「えっ」
次の瞬間、ルクリアの周りの景色が消えた。
「え…何今の、」
「は、お前なんで…」
聞いてはいたがこの威力、実際見ると…うん、なんて言うか、凄いな。
風魔法の威力を極限まで高めた上で、対象に触れながらの攻撃、
僕が加護を与えたはずのルクリアの衣装の一部が引き裂かれている。
もちろん、肌には傷ひとつついていないが、、
「大丈夫か?ルクリア。」
「え、うん!なに、何今の、一瞬で周りが吹き飛んで…って、君は誰?」
「ま、マジかよ。この100分の1の威力で町一個は丸ごと吹き飛ぶぜ…」
ルクリアの後ろには、すっかり腰を抜かした少年が1人。
さっきの、ヴァレイアのパートナーだ。
「ダメよ、コウト。あなたと違って、アースの加護を受けたのはほんの数時間前なんだから。」
「す、数時間前…」
ーーーーーーーーーー
「それじゃあ改めて。ナビゲーターNo.06《大地》のアースだ。んでこっちが…」
「大地の加護を受けたルクリアです。、、、」
空気の城の中、空中に浮かんだ古臭いソファに座って、《空気》の2人に名前を名乗ると、落ち着かない様子で周りに視線を向けながら、ルクリアも小さな声で名前を告げる。
「えっと俺は」
「私は!…ナビゲーターNo.02《空気》のヴァレイアよ、ルクリア。ようこそ、空気の城へ。」
「……俺は、コウト。」
コウトが口を開いた瞬間にヴァレイアの大きな声が空気を揺らす。
そしてようやくヴァレイアが黙ったところで、かなり間を空けてから、コウトはもう1度口を開いた。
もうちょっと優しくしてあげれば?
そんな意味も込めて僕は密かに苦笑した。
「なあ、」
「コウト!」
「あ、ええっと、少し訊いてもいいですか…?」
僕がチラッとルクリアを見ると、相変わらず空気の壁に興味津々のようだ。
「ひゃっ、、何よ、びっくりした…。」
「ああ、俺の手冷たいだろ?今度は背中に手、突っ込んでやろうか。」
「な、やめなさいよ!」
「あ、あーっと、質問しても…?」
「え、あ、ごめんなさい!私ですか?」
やっと聞く気になったか。
っつーか、ヴァレイアのパートナーに会えるかな?って楽しみにしてたのはどこの誰ー?
「さっきの攻撃はどうやって防いだ、んですか?」
まだ腰が引けた状態でコウトが質問を投げる。
「え、えーーとね、うーん。えーっ…と。」
チラッ
わからないのか?
「僕の加護の影響だよ。風邪魔法による攻撃は、《魔法攻撃完全防御》で防がれる。」
「あー、そっか。」
「なっ、それ反則じゃね、じゃ、ないですか。。」
「お前もそれに見合う能力もらってんだ。僕たちがついたら誰だって反則級だからね。」
「あー、まあ…」
パンッという音。
場の空気を切り替えるようにヴァレイアが手を打つと、話はそれほどにして、と僕を自分の側に呼び寄せた。
実際、宙に浮いている空間なわけで、僕は自分で土の床を作りながらヴァレイアに歩み寄った。
「なんだ?」
「向こう(もとのせかい)から緊急連絡がきているわ。他の5人は合流してるみたい。」
「緊急…?わかった。2人を連れて僕らも行こう。」
僕は不思議そうにこちらを見ているルクリアとコウトに一旦目線を向けて、そう言った。
このタイミングで"緊急"とは何事だろうか。
…確かこの後今日は、追加で様子見のスタッフを何人か送ってきて、その後はテスト期間終了までこのまま進めるって話だったよな。
「それで、場所は?」
「ーー解放済みの、水の地区緊急通信センター」
読んでくれてありがとうございます。