-3-A-夕暮れのカルチャーショック
屋敷から出た俺は人目の少ない路地で姿を変えると孤児院へと足を進めていく。
「異世界だなぁ」
前世の記憶がある為か、それとも以前は気にも留めなかったのか、きっと両方だろう。
道行く人々や魔法の光で道を照らす街灯、普段なら当たり前のものが物珍しく感じられた。
ゲームではこう言った町並みはドッド絵で描かれていた事もあり中々に新鮮だ。
そうして改めて周囲を観察しながら歩いていると直ぐ孤児院へ着いてしまった。
門を潜ると塀に囲まれた庭では子供達が球蹴りをして遊んでいた。
「あー!メイソンおじさんだ!」
獣人の少女がこちらに気づいて走り寄ってくる。それに合わせて他にも遊んでいた子供達がワラワラと集まってきていた。
メイソン、それは俺がここへ来るときの偽名だ。俺は変身した人の良さそうなオヤジ顔をより一層優しげに見えるように笑みを浮かべる。
「やぁ、エリーちゃん。調子はどうだい?」
この娘は俺が頃合いを見計らって屋敷へ持ち帰ろうとしていた孤児の一人だ。
「すごくいいよ!おじさんも遊ぼ!」
目論見通り、中々に気に入られているらしい。
だが今日ここへ来た目的は少女を垂らしこむ事ではなく証拠隠滅だ。
「悪いね、今日は院長さんにお話があって来たんだ。どこにいるかわかるかな」
「おはなし~?院長さんなら書斎にいると思うよ!」
「そうかい、ありがとうね」
「うん、終わったら遊ぼうね!」
「ははは、時間があったらね」
適当に返しつつ手を振って、俺は書斎へと向かった。
書斎へと近ずくにつれ何やら音が聞こえてくる。
断続的な水音とそれに合わせた男女の喘ぎ声、
どうやら院長はお楽しみ中のようである。
いいご身分だな、少し拝見させてもらおう。
俺は書斎へ着くとドアにノックを2回、
「メイソンだ、トロバス院長。いるか?」
そう言うと先ほどまで聞こえていた音が止む。
「め、メイソン殿!少々お待ちください!」
ゴソゴソと音が聞こえる。
大方、服やら女やらを隠しているのだろう、
俺は気にせずドアを開けてニヤニヤと中に入った。
「メイソン殿!!まだ入ってきては、、、」
「トロバス!、何度も言うが奴隷で遊ぶなら地下でといつも言っているだろう!」
案の定、色々と隠していた院長は俺と目を合わさずにアウアウ言っている。
チラリと視線を横に向ければ服を着崩した猪人の女が顔も隠して下を向いていた。
俺はいつも院長が座っているだろう椅子へ腰掛け、
「まぁいい、それよりも早急に話さなければならん事がある。服を着てサッサとそこへ座れ」
「もも申し訳ありません!」
「そこの女、お前はお茶でも組んでこい。熱いヤツだぞ」
「は、はいぃ!」
未だ羞恥で顔の赤い猪人女は脚の隙間から何やら垂れ流しながら部屋を出て行った。
いいねぇ...豚ってのが萎えるが、
、、、出て行くときに踏まないようにしよ、そう肝に銘じながら院長へ顔を向ける。
「トロバス院長、お前もいい年した豚人なんだ。少しは身綺麗にしたらどうだ。この部屋、匂うぞ?」
「た、確かに我々の種族の者は綺麗好きの多い趣向にありますが、私の方はどうも...」
「香くらい焚いておけと言う事だ、保育士は如何した?」
この部屋に来るまで一度も姿を見なかった。普段なら孤児達を見る為2、3人はいてもおかしくはないだろう。
「先ほどの女がそうです。他の職員は夕食の買い出しや地下で顧客と商いへ向かいました」
、、、腐ってるな、俺が言えた義理でも無いが。
「ーー今後はもう少し孤児院らしい体制を整えろ。前の職員も残っていただろ?」
「あの者達がいる時はあまり自由に地下へ顧客を迎えられませんので、客が多い日は休みを取らせるんですよ」
という事は今日は奴隷市場の客が多いという事か、
と、思っていた所でノックがするとお茶を持った女が部屋に入ってきた。
いそいそと俺たちの目の前にお茶を置くと部屋を出て行った。
「ーーー今日は地下を見にいらっしゃったので?」
「まぁそんなとこだ、だがこの施設の今後の方針を決めようと思ってな。まだ甘い所が多々ある」
「そうでしょうか、他の裏市場より地下の市場が露見する確率は低いのでは、、」
確かに奴隷達の食料を孤児達の分と一緒に買っているのだからそれなりに隠せてはいるのだろう、だが
「それは表から見た場合のみだろう、裏の者達からはすぐにバレる、何の為の会員制だ」
「そ、それはそうですがそれでは顧客を増やせません。裏からこの孤児院を探られたとしても騎士団が動く事などありませんよ」
「なぜそうと言い切れる?事が露見しても孤児院らしく取り繕える体制を整えろ」
「で、ではその様に致しましょう。予算はいつもの所からでよろしいので?」
「あぁ、任せる。地下を見て回るが鍵は開いてるのか?」
「いえ、先ほど閉めたばかりで御座います。ご案内致しましょう」
「いや、いい。鍵を渡せ、一人で見て回る」
「わ、わかりました」
残ったお茶を啜ると院長から鍵を受け取り部屋を出る。
確かに地下への入り口は職員室の隣だったはず、
ツカツカと音を立てて廊下を曲がると部屋の隣にもう一つドアがあった。
「ここだな」
鍵を開けてドアを開けると薄暗い光を放つ魔光灯が地下へと続く階段を照らし出していた。
鍵を閉めてゆっくりと降りていくと饐えた匂いが鼻につく。
階段を下り終えるとそこは半径50メートルほどの地下牢であった。
将棋盤のように所狭しと並べられた牢には多種多様な老若男女が足枷をつけながら座り込んでいる。
ふと視線を這わせれば奥の牢の前で見覚えのある精人の職員と蟲人の男が話し込んでいた。
そういえば先ほど院長が客が来ているとか言っていたな、
特に話す事もないので逆側の通路を見て回る。
目的の人物は居ない、
ゲームの通りならここで主人公の幼馴染、ナッツ=ポウが妹と共にこの市場に売り出されている筈なんだが、
そう思いながら逆側の通路へ穂を進めていくと...
「この無礼者めがぁ!」
怒声に続きメコリと音が聞こえ目を向ける、
どうも奴隷が先ほどの蟲人の客に殴られている様子だった。
興味心から近付いて殴られた奴隷を見ると妖人の女が頭から血を流して痙攣していた。
「申し訳ございません!この者はすぐ処分しておきます!」
「私の方で処分する!先ほどの選んでおいた奴隷と共に契約させておけ!」
そう言って蟲人男は苛立たしげな様子で別の通路へ進んでいく。
精人の職員は頭を下げながら奴隷女を背負うとその背を追って行った。
ありゃあ結構な値切りをされるなぁ、俺は改めて奴隷達の顔に目を向けていく。
そうして1時間ほど、すでに売れてしまったんだろうか、先ほどの蟲人が買って行った奴隷も覗き、別の通路も見て回ったがナッツは居なかった。
諦めて別の手を考えるか、そう考え始めていると後ろの牢から押し殺した様な泣き声が聞こえて来た。
振り向いて覗いてみればナッツの妹、ピイが一人座り込んでいる。
ナッツの方はどうしたんだろうか。
「おい、そこの娘。ピイだな?兄のナッツはどうした?」
「ヒック..ヒック...、ふぇ?おじちゃん、お兄ちゃんを知ってるの?」
「あぁ、知っている。お前と同じ獣人の虎種で髪の黄色い奴だろう?どこに行ったか分かるか?」
「お、お兄ちゃんは昨日、黒い服を着た女の人達に買われちゃったの。おじちゃん、お兄ちゃ...「ならいい」..え?」
「兄貴が居ないのならお前を買ってやる理由もないしな。情報をありがとう、安らかに逝けよ」
そう言って俺は牢の前から立ち去る、ゲーム通りならナッツは剣闘士として興行師に買われたのだろう。
片手を失って逃げて来た所でを主人公家のお隣で義手を作っている夫婦に拾われる筈だ。
片手があれば楽にクリア出来たストーリーもあった為ここに来たがそれならそれで良いだろう。
「ま、待って!助けてよぉ!お兄ちゃんに会いたいの!おじさんはお兄ちゃんの知り合いなんじゃないの!私を助けに来てくれたんでしょ!?ね、ねぇ!待って!待ってってばぁーー!」
ーーー後ろからは絶え間なく先ほどの少女が泣き叫んでいるが気にせず俺は地上へと続く階段を登った。
この後あの少女は確か娼館に売られた後、ナッツに出会い汚れた自分の姿を見せては兄が悲しむとかで何も言わず相手をした後自殺する筈だ。
あのシーン、結構気に入ってるし特にこのままで良いと思うんだ...
俺は院長に鍵を返すと夕闇に照らされた街を見ながら屋敷への帰路へ着くのだった..




