op06:王子の気持ち
「リア姉さん、ちょっと、カインの所に行ってくるわ」
「なんで? ある意味、地下室になっている場所だから安全だよ」
「でも、ご飯くらい食べさせてあげないと」
リアが、ルノアの持っているトレイを覗き込む。
「あ、トマトスープ」
「姉さんの分は食堂にあるわよ」
トマトスープはリアの大好物だ。幼い頃、トマトが苦手だったルノアは、よくリアに片付けて貰っていた。
「本当? それじゃ行ってくる」
言い終わる前にリアが居なくなる。そんな姉の様子を見てルノアはクスリと笑った。
「カイン、大丈夫?」
木製の階段を下り、扉を開けると部屋の隅で膝を抱えて座っているカインが居た。
「夕飯よ。食べたら」
カインの目の前にトレイを置くが、カインはちらっと見ただけで手をつけようとしない。
ルノアも、無理にすすめずにカインの隣に腰をおろす。
「あと2,3時間辛抱なさい。ミッシェイルが泣いちゃったし、リア姉さんにも掛け合ってあげるわ」
それだけ言うとルノアも黙る
5分ほどそうやって座っていただろうか。カインのほうから口を開いた。
「城から何か、なかったか?」
「レティアさまなら、回復に向かっているそうよ」
「そうか。おまえもあっちに行けよ。僕にかまうな。母上のように巻き込まれるぞ」
ルノアがカインの顔を覗き込む。
「護衛の人を病院送りにしたり、嫌われる言動ってわざと?」
「うるさい! あっちいけ!」
薄暗くてわかりにくいがカインの顔が赤くなっている。黙り込むカイン。また5分ほど時間が流れる。
「どうして? 教えてくれない? 教えてくれなくても私たちのやることは変わらないけど、教えてくれたほうがうれしいわ」
薄暗い中30分ほど、黙って座っていただろうか。
「……この間襲われた時、カリオが死んだ。ああ、カリオはずっと僕の護衛をしてくれていて、先日子供が生まれたと、とっても喜んでいた。でも僕の変わりに暗殺者の刃を受けて…… 死ぬ直前も、僕に怪我はないかって言って…… 本当は他に言い残すべき事があったはずなのに…… 僕の顔を見て怪我はありませんかって、笑ったんだ……」
カインが、涙を隠そうと顔をこする。
「僕は何も出来ないのに。母上にもカリオにも。僕は…… 何もできない」
カインの泣き声が地下倉庫に響く。しばらくしてルノアが口を開く。
「私ね、カインより小さい時に、両親を亡くしたの。私と村を山賊から守ろうとして、結局返り討ちにあって、私も斬られちゃった。今でもね、背中に斬られた跡が残っているの」
ルノアはカインの顔を覗き込んで、少しだけ微笑んでみせた。
「そのあとは死ぬことばかり考えていた。でも、ここに来てある女の子に会ったの。その子は、私に生きなきゃいけない。って言ったの。私を助けようとした人の為に生きて幸せにならないと、いけないって」
ルノアはカインの瞳を真っ直ぐ見つめる。
「カイン。貴方もそうだと思う。レティア様やカリオは貴方を愛している。貴方はその分幸せにならないといけないし、生きなければならない。それが命を助けてもらった者の義務」
「僕は、カリオや母上のように強くなれるかな? いつか、誰かを守れるように強く」
ルノアは、カインの頭をクシャクシャと掻き回した。
「大きく出たわね。カイン王子。大丈夫よ。その思いを忘れなければ、貴方はたくさんの人を守れる」
「ねえ、ある女の子って?」
「うん、フェンリア=ヒルデガルドと言うの。みんなはリアって呼ぶわ」
ルノアはカインの手を引いて立ち上がらせる。
「さあ、上に行こう。まずミシェイルに謝らないとね」
カイン王子、実はいい子ちゃんでした(笑
ただのクソガキじゃなかったのですねぇ。
彼には本編で名君の資質を示していただかなければいけませんから。
登場人物ですが、ルノアだけが本編1章で登場です。(1章のヒロインです)
フェンリア(リア)、カーライン(カイン王子)、ミシェイルの3人は本編2章からの登場です。




