「家族」
不安な気持ちを隠しつつ、俺はあきこの家に入った。
「お邪魔します…。」小さく呟き、靴をそろえる。
あきこに案内され奥の部屋に上がると、ふわっと夕食のいい香りがした。
そういえば、昼のイチゴ・オレ以来なにも口にしてないな…そんなことを考えると思わず腹が鳴った。
俺は慌てて腹をおさえた。
あきこは、それに気づくとクスっと笑い「もうすぐ夕食よ」と言った。
俺はなんだか恥ずかしくて「すみません」と苦笑した。
それとほぼ同時に女の人が夕食を持ってきた。
食卓に淡々と料理が並べられ、あっという間に夕食の準備ができた。
すると、あきこは家族の方へ行き「紹介するね」っといい、俺を指さした。
俺は、深々とお辞儀をして軽く挨拶をした。
「ゆうと言います。えっと…その帰る場所と言いますか…家が無くて…」
俺はだんだんと口ごもってそういった。
すると、あきこの母が優しく微笑み
「大丈夫よ。こんな小さな家でよければ、居てくれて構わないから」と言った。
あきこの父も隣で、うんうんと頷いた。
俺は、なんだか温かい気持ちに包まれて、もう1度深々とお辞儀をして
「ありがとうございます!」と言った。
顔を上げると、今度は小さい男の子と女の子が俺の前に立っていた。
「あのねー、僕ね、こうたって言うの!」
男の子が元気よく言った。
「私、はなちゃん。おにーちゃんよろしくね。」
女の子が照れ臭そうにそういった。
俺は身をかがめ、2人と同じくらいの目線になると
「よろしくね、こうたくん、はなちゃん」と言い2人の頭を優しく撫でた。
あきこは、そんな俺たちを微笑ましそうに見ていた。
「こうた、はな、ゆうくん、もうご飯だよ。こっち来なよ」
あきこに呼ばれ、3人で慌てて夕食の並んでいる机に向かった。
「それでは、食事にしましょうか」
あきこの母の一言で、みんなが黙々と箸を進めていった。
俺も、食事を口に運んだ…が、さすが戦争時代というか、
料理がものすごく質素だ。まぁ、文句は言えないが…。
「お口に合うかしら?」あきこの母が心配そうに俺に問いかけた。
「はい!すっごくおいしいです。」俺は慌ててそう答えた。
「よかった。あ、そうだわ。私の事は気軽にさえこって呼んでちょうだい」
あきこの母が、口元に手を当ててそう言った。
「僕の事も、たいすけと呼んでくれ」
あきこの母に便乗して、あきこの父もそういった。
「はい、わかりました。さえこさん、たいすけさん。改めてよろしくお願いします。」
俺は箸をおき、ペコっと礼をした。
あきこが肘で俺の腕をつつき、囁いた。
「そんな難くならないで、普通の家族のように接していいのよ?
しばらく一緒に暮らすんだろうし…。そんなかしこまってたら疲れちゃうよ?」
「そうですね…。」
俺は苦笑して答えた。
久々に大人数で食べた夕食は、質素だがとても暖かくおいしかった。