「一番星」
誰かに体をゆすられる感覚で目を覚ます。
重い瞼をあけると、「あ、起きた。」という誰かの声が聞こえた。
眠たい目をこすりながら俺は声の主を見た。
声の主は俺と同じくらいの年の女の子だった。
それもかなりの美少女だ。
長いまつげに、大きくてパッチリした瞳。
透き通るような白い肌で、頬だけが薄いピンク色にそまっている。
黒くつやのある髪は時折吹く風になびいて、とても綺麗だ。
俺は言葉を失い、思わず彼女に見とれた。
俺が黙って見つめていたことを不思議に思ったのか、
彼女は小首を傾げると「あのー、大丈夫ですか?」と言った。
「あ、えっと…はい!大丈夫です!」
俺は慌てて返事をした。
俺の慌てた様子がおもしろかったのか彼女はクスッと笑い、言葉を続けた。
「こんなところで寝ていたら、風邪をひきますよ?
もう日も沈んできてますし、お家に帰ったほうがいいのでは?」
彼女の言葉に俺は苦笑しながら答えた。
「いやー、実はここがどこかわかんなくて。家にも帰れないんっすよ」
彼女は一瞬驚いたように目を見開いた。
でも、すぐに柔らかく微笑むと
「それなら私の家にきますか?」と言った。
「い、いいんですか?」
俺はおそるおそる彼女に聞いた。
彼女はにっこりと笑うと
「もちろんです!困ってる人は見過ごせません」と言い俺に手を差し伸べた。
困ってる人…か。今の俺はそう見えてるんだな。
彼女の悪気のない言葉に少し苛立っている自分がいた。
けれどそんな感情は全く見せず、俺は少しためらいつつ彼女の手をにぎり
「じゃあ、お願いします。」と言った。
彼女は俺の手をギュっと握ると
「では、行きましょう!」と言って俺の手を引き、走り出した。
俺は彼女に手をひかれながら田んぼの脇道を通った。
まわりはもう暗くなりはじめ、空には1番星が光り輝いていた。