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DECOY Act4/an Outbreak 2

「お楽しみの所悪いな」嫌に上機嫌な言葉使いで話す橘さんからの電話で悟る。


制止されたアリスの顔に影が掛かり、鬼の様な形相で睨みつけられていた。


”まずい”そう思う以外何も思う事は無いのだが引き下がれない。

もうアリスは烈火の如く顔を紅に染めている。


俺は心とは裏腹に眉を吊り上げ、人生でしたことも無いような怖い顔を造った。


アリスは俺の顔を見るや否や360度ふんぞり返り腕を組みながら壁とにらめっこしている。

そのアニメの様な素振りに俺は頬を赤らめながら橘さんとの会話に集中した。


「その口ぶりだと事件ですね?」

そう俺が言うと橘さんは笑う。


「さすが田辺だな」

この言葉までは毎度お馴染みが言葉に相応しい。


「それでどんな事件なんです?」

俺は世辞に聞く耳持たず即答した。


「釣れないねえ」

2テンポ程間を置いて話を続ける橘さんは饒舌だ。


「港区3丁目の郊外に位置する小さな喫茶店ポウンルーで殺人が起きた」

まるで機械の様に話出し先程の砕けた話し方とはまるで正反対である。

だがこの話し方もいつもの流れだ。


「まぁとりあえず急いで来い・・もちろん都我尻も連れて行くからな」

最後の一言は余計である。


「それがどうしたんです?」

俺は呆れていたし、俺はあいつがあまり好きじゃない。


「相思相愛だと思ってたんだが」

もう完全に俺を小馬鹿にしている。


「冗談・・」

俺は少し濁しながら言ったが確実に声から読み取られているだろう。


「あいつはお前を尊敬してる・・・それも普通の敬い方じゃない」

橘さんは真剣だった。

そうも真剣に言うのも無理はない。

俺は大の都我尻嫌いだからだ。


「わかってますよ態度には出さない様にします」

俺は嫌々思っている事の反対の言葉を口にした。


「それは助かるよ」


「精神検査に一度掛けてみたら良いかもですよ・・では現場で」

俺はそう言うと電話を早々と切り脱いでいた上着をすぐさま着た。


「なに?事件?」

アリスは壁ではなく俺を見て言った。


「あぁ」

俺は少し俯き立ち上がった。


「アリスは日本の観光でもしてろよ、俺は仕事だ」


「自分だけが大人ぶって行こうって訳ね」

アリスは完全に苛立っている。

やはり男と女は相容れないという事なのだろうか。

俺は女がわからない。


「私も仕事でここに来てるのよ、呑気に日本観光なんて嫌よ」

アリスは俺の両目を真っ直ぐ見つめ言った。


「・・・じゃあ同行願おう」

俺は少しため息をしながら言った。


ただでさえ事件だけでも頭がいっぱいでそれに加えて見知らぬ女性ととは・・・心労が絶えない事この上無し。

それに更に加えて嫌いな後輩のお守りとは今日は厄日だ。


足元は鉛の様になり心と体が別人の様な感覚だ。

だが行くしかないのだ。

それが俺の仕事なのだから。


店を出てすぐに道路に運良く止まっていたタクシーを捕まえた。

この辺は過疎化していて人通りが少ない。

つまりタクシーが止まっている事がかなり運が良いのだ。

思いとは裏腹に幸先が良いとは飛んだ皮肉だ。


「お客さん、お疲れですね・・・さてはこれの事件ですか?」タクシーの運転手はハンドルを片手から放し、左手の小指だけを立ててミラー越しに見ながら、振る。


危険運転で逮捕したい気分だが無駄な時間を使うつもりはない。

俺は沈黙した。

アリスは窓の方に目をやり運転手には何の気も見せない。


「何も言わないという事はYESですね」小気味良い運転手は気乗りしない客二人に話続ける。


「いやね、男と女ってのは、相容れないものですね・・・そうそう昔こんな事がありましてね、昔はこれでもモテた口でしてね、常時3股当たり前多くて5股?いや7股?・・・数はどうでも良い話ですね」


トミーガン張りの連射力で運転手の彼は話を続ける。

運転手はミラー越しにアリスの方に気を掛けるがアリスは景色にそっちのけ。


「ある時うっかり・・本当にうっかり一人の女性との間に子供が出来ましてね、そりゃあもう嫌悪感だらだら垂れ流しってなもんでねえ、終いには子供を堕ろすためにお金払ってやったんですわ」



「お金を渡して数週間経って、ふと思ったんですよ・・・」



”本当に子供は出来ていたのだろうか”



「気になってからは早かった・・産婦人科に片っ端から電話掛けてみたんですよ、そんな患者も子供堕ろす事もしていないって言うんです」


「確認しなかった私が悪かったんですがね、私は騙されたんですよ・・遊び人という糞を目当てに財布を漁る糞に騙されたんですよ、そんなもんなんですよ男と女なんて」


10秒程の沈黙が続きタクシーのエンジン音が心を平穏にする。


俺は話の大きさに少し唖然としているとタクシーの運転手は言う。


「お客さん、たとえ話ですよ、嘘ですよ、嘘、信じました?」ミラーで見える運転手の顔は目元が横たわった三日月型になっていた。


俺は少しバックミラーを睨みつけた

決して全てを信じていたわけじゃない、と思い込みながら・・・


「お客さんは良い人なんですね・・あまり人を信じちゃあいけませんよ!以外な嘘があなたを今も騙しているかも

しれません」


タクシーの運転手はそう言うと被っていた帽子を直し運転に集中した。

騙されているのは、お前だ・・・俺はあなたが思うほど善良ではない。


現に俺は女性一人の機嫌を取ることすら叶わず血なまぐさい場所に向かっているのだ。


「ここでいい」

俺は事件現場より少し離れた場所で止めた。


「まだ2ブロック先じゃない」

アリスは不機嫌そうな顔をこちらへ向けた。


「情報伝達は野次馬の方が早いんだ」

EYE PHONEのラグの無いチャットシステムなどが生んだ弊害である。

恐らく野次馬が今喫茶店を取り囲んでいるだろう。


アリスは何も言わなかった。

本国との捜査の違いが垣間見えた瞬間でもあるしお国柄なのだろうか。


アリスは頭が良い。

だからこそ不機嫌なのだと俺は思う。


俺がお金を払おうと自分の左目を差し出すとアリスが止める。


「私が払うわ」


「いや!でも・・」


「経費で下りるのよ」

彼女は少し得意げに言った。

俺は渋々タクシーを先に降りた。


ふと気になりタクシーの運転手の顔を見ると以外と若い。

多く見積もっても30歳といった所だろうか。

あの話し方は完全に齢40~50ぐらいと思ったがこれは飛んだ思い違いであった。


アリスは目を差し出していた。

EYE PHONEをスキャンしてデジタルマネーで金を払う。

だが俺はその時あることに気づく。

あのアリスが何かを話ししている。


不幸な事に俺はタクシーから3m離れており声は聞こえないがアリスは確かに口を小さく動かしていた。

アリスは費用対効果を一番に考える女性だとこの短い時間でもわかる。

アリスは自分に利益を齎す者にしか関係も持たない。


現にアリスは景子さんや居酒屋の店主とは一度も口を聞いては居ない。

先程の話で彼女に何か利益があったか?・・何だか悔しい事この上無し。


そうこうしている内にタクシーは街中のネオン街へと消えていった。

アリスは早歩きでこちらへ歩いてきている。


「何か話でもしてたか?」

俺は余りに気になり考えるより先戸惑いを捨て去り言葉が出ていた。


「ありがとうぐらい言うわよ、それに今は現場に急行」

強めに言うアリスは場所もわからないのに一心不乱に走って行く。


「おい待てよ」

俺はアリスの前へ行き2ブロック先の現場へと足を急がせた。


あの口の動きの長さはありがとう何かじゃなかった。

仕事に殉じた運転手に感謝の言葉を述べるにしては少々長すぎる。

彼女は挨拶を交わした程度に言っていたがあれは完全に”会話”の長さだった。


だがそんな事はどうでも良いのも確かだ。

まずは事件を解決しなければならないからだ。

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