記憶は?
それから後の生活は、基本学ぶことが一日の大半だった。
慣れない事ばかりなので大変だった。
朝は井戸で水を汲んでくるし、魔力の操作や発動条件などを頭に叩き込まなければなかった。
一日の学習が終わった後、図書室で興味のある本を読んでいたときは、
「学習が終わった後もそんなに読めるのか!
私の時は学習が終わったら文字なんて見たくも無かったのに」
と、驚かれた。元々読書が好きだったのもあるし。一応成績はいい方だったから。
あと、自分の部屋をもらった。8畳くらい。わりと広い。中にはベットとクローゼットと机。
自分の部屋に行くと暇だったので、裁縫で色々作っていたりした。
簡単な日本人形を作った次の日の夜にびっくりして腰をぬかしたのはどうでもいい話。
師匠あらためライクの部屋に行った時は少し呆れた。
部屋に置いてある机に、薄い本があり、中身は女性向け。
ちなみにこの師匠の家は平地らへんにぽつんと建っている。
異世界生活を送ること一週間で気づいたことがある。
「思い出せない・・・」
あっちの世界、元々いた世界の出来事が思い出せない。
全部思い出せないということは無いが、ところどころ抜けている。
抜けているところで一番重要なのは、『名前の意味』。
『双羅』の意味がどうしても思い出せない。しかし、この名前で裁縫が好きになったのは
覚えている。
「なんなんだ・・・」
なんで思い出せない?
考えその1、召喚の失敗。
あの師匠の言う事だと、召喚するとき錬金術と魔法で一度解体、または分解され、
体を構成している成分で世界の枠を出る。それからこちら側に引き込み、再構築されるらしい。
その際に、成分の一部などが『狭間』に引っ掛かり、『狭間』で体を再構築されることが失敗らしい。
俺は、狭間に行った時、記憶の一部を落としてきたんじゃないだろうか。
体が分解されるのなら、記憶や魂も分解されてくるとする。
死神は「なら送ってやろう」とか言ってたが、なんか軽そうな奴だったし。
案外、適当にやって記憶は置いてきたとか言うんじゃないか?
しかも『タナトス』って『死』を神格化したものだから、あいつ自体は『死』みたいな者なのか?
考えその2、死んだから
俺は死んでしまったので、体は召喚されなかった。記憶は魂に溜まるということがわかったが、
科学では記憶は頭、脳に溜まっていると証明されている。ここで仮説を出そう。
基本的な記憶は脳と魂に刻まれているとする。しかし一部の記憶が脳か魂、どちらかにしか刻まれていないとしたら?どちらかを失うとその記憶も失われるのではないか?
俺はあちらの世界にいた時疑問に思ったことがあった。
それは「脳は体を動かすことや生かすことなどをしているのに、記憶を収めるだけのスペースが余っているのか」だ。
俺の仮説があっているとしたら、この疑問の答えは簡単だ。
「脳には記憶の一部だけ収まっていて、大半は魂に収まっている」
っていうことだ。
考えその3、記憶が弾けてばらばらになった。
これは考えその1と近い。というか同じかもしれない。
召喚される時、ばらばらに分解されることはわかっている。
それから再構築される時、体がホムンクルスになっているので記憶の一部が慣れず、弾かれた?
その弾かれた記憶は狭間または元居た世界、この異世界に散らばっている?
さすがにこの考えはないか。