―行動開始 とにかく何かしなくちゃ―
結局原則3人で行動する事にして、マンションを出る。
「俺のカード使えるのかな?」
「キャッシュカードでも監視されていると思った方がいいよ。とりあえず私が持ってる現金はこれだけだけど皇成は?」
「結構有るよ。戦闘に出る時は出来るだけ現金を持ち歩くものだからな。状況を脱出するためにタクシーや民間の船を使う事も考えてね」
「よろしい。では全部出しなさい。無駄使いしないように私が調整します」
「オイマテ。それじゃ俺が孤立した時どうする? つか、子供じゃないぞ?」
「私から見れば幼児だよ。いいから早く。ちょっと残してやるから」
「こんな時だけ歳魔属性使いやがって」
「はいはいいっ?」
メイリはわざとらしく耳に広げた手を当てている。
「もう、お腹空いたってば」
綾奈の一言でファミレスに行った後でポピュラーな服が安くてなかなかお洒落なショップによる。
昨日は暗かったしメイリの案内が案内だったので良く分から無かったがマンションは駅にも近いかなり便利な場所だったのだ。3日分位の衣類と厚手の上着類を各自買い込みマンションに帰る途中で皇成が
「車に行って無線を確かめる。先に帰ってくれ」
「ちょっとお兄ちゃん、3人で動くんでしょ? 私達も行かないと」
綾奈は携帯を戦闘時から持ってきておらず皇成は戦闘中に壊してしまっていた。メイリは最初から持っていなかったそうだ。
「私達は友達とか仲間とかの関係は作らないからね」
との事らしい。無線は仲間との唯一に近い連絡手段になっていたしコインパーキングに入れっぱなしも不自然なのでとりあえず乗り出す。
近くの公園脇の広めの道に路駐して無線機のスイッチを入れる。入れても何も喋らず様子を伺う。しばらくして送信ボタンを押してみる。スピーカーの雑音に少しの変化があっただけだ。
「この車はデヌリークの貸出しなの?」
メイリの問いに皇成が答える。
「そういう事になるかな。俺が買ったんじゃないからな」
「車を出して!」
突然メイリが叫んで命ずる。その声を聞いた瞬間、皇成も意味を理解する。
トレーサー。
考えていなかった訳では無かったが展開に流されてしまっていた。
「赤を殲滅する会」はもの凄い情報収集能力を誇る。ヴァンパイア達がそういった能力に長けている訳では無い以上デヌリーク市国が占領された今、当然赤を殲滅する会吸収は想定すべきだ。
メイリが叫んだ事で急に危機感がよみがえったのだ。5分ほど走り駅前に付けると不自然で無い程度に急いで車を降りてトランクからボストンバックにまとめた綾奈の銃と楽器ケースを改造したメイリの剣を収めたハードケースを取り出し駅に入る。
割りと早く電車が来て乗り込んでから窓から見える車を見やると3人の人影が囲んでいるのを確認する。
「ヴァンパイアだわ。私は気配を消すから話しかけないで」
早口でつぶやいた後で立ったまま石の様に動かず視線も虚ろになる。扉が閉まる迄のわずかな時間が異様に長く感じられて電車が走り出すがメイリはまだ動かない。5分ほど経って「ぷはあ」と息を吐き出すと共に
「やばかったあ」
と漏らす。
「俺が軽率だった。考えていない訳じゃ無かったんだが」
「一人で行くから万一の事態も無視してたんでしょ。結果としては良かったわよ」
「うん。バラバラになったら何処にも行けないよ」
綾奈も心底ホッとした様子を見せる。電車に揺られながら
「免許は持ち歩いているでしょ? レンタカー借りましょ」
「行く当てはあるのか?」
「まあね」
「免許を使うと足が着きやすい。赤の調査力を使えばカードの履歴すらワンクリックなんだ。仕方無い、ちょっとした知り合いから車を買う。なに、ボロだから何十万位も渡せればいい。ついでに持ち金を全部下ろそう」
「私のお金全部下ろしたらトラックが無いと運べ無いけど?」
メイリは金持ちなのか?
「ポケットに入るだけでいい」
皇成はなんだか負けた気がしながらぶっきらぼうに応じた。
皇成のちょっとした知り合いとは少し郊外に位置する中古車屋だった。街道沿いでヒラヒラキラキラと展示に努力している業者では無くたまたま土地を持っていて特に使い道が無いので車を並べている、という具合だ。知り合いからの預かり販売も多く商売っ気などこれっぽっちも感じられない。
「ご無沙汰」
「あれ? えっと下条さんでしたっけ? いきなりどうしたの、女の子2人も連れ歩いて」
後半のセリフは小声だった。
「ちょっと事情が有ってことでとりあえずすぐ乗れる安い車が欲しいんだけど」
「すぐ乗れるのは有るけど登録とかあるし書類は持ってきてる?」
「いや、とにかく移動手段が欲しいんだ。1日いくら計算で借してくれてもいい」
「ん? 追われているのかい? いくら出せるんだ?」
実はこの男、やんちゃに過ごした時期がありトラブルに強い。片足の1/3位裏道に突っ込んでる手相いと言う訳で、人間同士の問題であればその解決をお金で頼める相手だ。
皇成は神職とは言え結局暴力の世界で生きている者だから、ちょっとしたきっかけで見知っていた。何か起こった時に役に立つ男。その何かが起こってしまったと言うことだ。
しかし、もちろん対ヴァンパイアの問題など解決出来る訳は無い。
「訳と言うほどでも無いけどね。移動手段が欲しいだけさ」
「それを日本語では訳有りと言う。あっそういえば下条さんはイレスシス教の関係だったよね? テレビのアレとそんな感じなのかい?」
「そう思ってくれてもいい。出来る事をやろうとしているんだ。それ以上聞いてくれない方がありがたいな」
「なるほど。そういう事ならこれ使いなよ。俺が普段使ってるんだけど名義はあさっての人間だから足の付きようが無い。とりあえず100万もらえれば後は返してもらう時にでもさ。壊したら200万で買い取ってよ」
「それでいい。メイリ、金を払ってくれよ」
「はいはい。はい、100万円ね」
「いや、200万円払ってもらえるか。返せない可能性が高いしこの車は2度と使えなくなる」
男は皇成の顔をじっと見つめて言う。
「下条さんよ。小僧の癖して義理堅いっつうか人間出来てるっつうかいったいどんな育ち方してきたんだ? だいたいあんた堅気じゃねえだろ? つったって極道のパシリって柄でもねえ。もっとストレートに血生臭え。俺の知り合いでそんな風にひとつひとつを綺麗に後腐れ無くしていく生き方をしていた奴は殺し屋だったよ」
皇成は生い立ちや今の立場については何も知らないはずの男の勘の良さに少々驚く。
「いいさ。100万円で持ってきなよ。小銭稼ぐ気も無くなったわ」
メイリが100万円の束を帯をつけたまま渡すと男は数える事もせず内ポケットにねじ込んで言葉を続ける。
「なんだか知らんがヴァンパイアってのはなんなんだ? 文字通り吸血鬼ってことなのか? デヌリークには昔っから吸血鬼が巣食ってたのか?」
急に興味を思い出したらしく矢次早に質問が出てくる。
「デヌリークと吸血鬼が仲良しだったとしてもほとんど皆殺しにされたんだ。仲間割れなんてもんじゃ済まないさ。とにかくありがとう。あっもしかして携帯扱ってたりするかな? プリペイドのやつ」
「ああ、有るよ。今や貴重品だけどトバシも数出回ってるから高く売る訳にもいかないな。1万円分付けて1台5万でいいよ。安くしとからなんか話し有ったらかませてよ」
「3台欲しいな」
さりげなく後半の申し入れは無視する。どの道ただの人間にどうこう出来る相手では無いのだ。
「はい、お金。大繁盛だね」
「そうでも無いよ。最近はネット販売が多くてね……」
「行こうよ」
無駄に話しが弾み出したのを牽制して皇成が促す。皇成が一人で持っていたかなり重い武器類をトランクに収めて3人で車に乗り込んで走り出した。
10年前位の小型セダンだが走りはちゃんとしている。
「で、何処に向かうんだ?」
「高速道路に乗れる?」
「出来ればやめておきたい。監視しやすいし逃げ場も無いからな」
「そうね。じぁあとりあえず国道をずっと下って」
「行き先を教えないのか?」
「聞きたいの? 疑ってるの?」
皇成とメイリの会話中、急に綾奈はメイリに不安が高まるのを感じる。まただ。綾奈にはメイリに悪意は無く何らかの事情で住所が言えない事が分かる。しかし皇成がそれによりメイリを信じてくれない事を恐れている。
「別に。どうせ住所忘れたんだろ」
「あなたの頭と一緒にしないでくれる? 忘れたんじゃ無くて最初から知らないのよ」
メイリの声は怒っていても心はホッとしていた。綾奈のドキドキもおさまる。
「さいですか」
皇成が応じて車は走り続けていた。
右手の湖を通り越してから右折し少し狭いが綺麗な道路を走り続ける。途中ガソリンを満タンにして数時間走りっぱなしだ。
街から見える山とは大きさが明らかに違う雄大な山々の間を縫う様に登って行く。
「さすがにこの山道はこの車ではキツイな。俺一人ならまだいいんだろうが」
「ちょっとお兄ちゃん。私が重いっていうの?」
「まあ聞き捨てならないわねえ。皇成こそ降りて歩いて行けば? あなた一人で私と綾奈ちゃん二人分でしょ? つか歩かれても迷惑だから走りなさい」
「そうだそうだぁ」
メイリじゃないんだから車と同じスピードでは走れません、とか誰も綾奈の事言ってません、とか言い訳しか浮かばない皇成は一言、
「申し訳ありません」
とだけつぶやく。
「あっそこっ。左に入って皇成ちゃん」
簡易舗装された細い道に乗り入れてすぐに一度車を止めてトランクから綾奈とメイリの武器を出して外から露骨に見えない様に、だが何かに襲われたら即応出来る様に隠し置く。
さらにしばらく走ると鉄冊と扉が道を塞いでいた。手前で車を止めるとメイリは黙って降りて取っ手を下ろし扉を開く。開けた窓から皇成が
「なんだか知らんが不用心だな。カギも無いのか?」
と声をかけるが
「この取っ手は200キロの力が無いと動かないの。もちろんヴァンパイアなら誰でも開けられるけど元々こんな冊壊せるからカギが有っても無くても関係ないわ。綾奈ちゃんも挑戦してみる?」
「私は一応ヒトなのでムリぃ」
どこまでもとんでもない連中だ。メイリはほんの一捻りで200キロの力を出していたのか? やはり敵わない、と皇成は思う。
「本来は自動なのよ。監視システムが有るの」
車を進めると山裾を切り開かれた空間に伸び放題の芝に囲まれた大きな2階建ての建物が現れる。玄関前に車を止めて様子を伺おうとした時既に車の側に人影が立っている。
「イリーシャス」
メイリがつぶやく。イリーシャスと呼ばれた人影の登場が唐突過ぎて皇成は反応出来ない。ようやくその顔がコムネナの城にいた執事然とした男で有ることを認識する。
慌てて銃を取り出そうとする皇成にメイリは
「待って」
と声をかけてくる。それにしても美しい男だ。ブロンドの髪が長めな事もあって女性の様にも見えるが細っそりとしていてもスーツをしっかり着こなしている。
「大丈夫? 遅くなったかしら」
イリーシャスは軽くうなずく。
「お互いに味方よ。私が保証するわ。皇成、ここはエリコム社の日本拠点よ。正確には第2のね。第1はコムネナに押さえられていると思うけどここは存在を知らないはずなの。第1で十分用は足りていたから予備のここは話題にもならなかった。今回コムネナの混乱が深まった時点でイリーシャスと直属の部下だけで第1から武器装備類を移動しておいた訳。と言っても私たちは銃器類は基本的に使わないから綾奈ちゃん用の装備が多いわ。後は私が中心に開発していた剣の様な直接攻撃武器ね。今は装備類より安心出来る可能性の高い宿泊施設で有ることの方が重要かもね」
「なるほど。俺はメイリを信じているから心配はしていないがあえて確認したい。彼は大丈夫なのか?」
一言も喋らないがイリーシャスの眼が赤く色付く。
「ダメ」
綾奈が皇成をかばう様に半歩踏み出しイリーシャスを牽制する。
その綾奈からにじみ出す迫力は皇成でさえ怯ませるものであり、また迫力を感じさせてしまうのはまだ綾奈がヒトである証拠かもしれない。ヴァンパイアから威圧は感じ無いのだ。
「はいはいイリーシャスは気い短かすぎ。バカ皇成ウザすぎ。綾奈ちゃんイリーシャスより気い短くてバカ皇成甘やかしすぎ。皇成は私を信じてくれないの?」
「オーケーオーケー。信じてます。俺が悪かったから、えっとイリーシャスさん、許してくれ。綾奈も俺を守るとかやめてくれよ。これでも兵士なんだぞ」
「そかなぁ」
「そうだよ。忘れちゃったのか?」
「はいはいはいはいもういいでしょ。イリーシャスは母がずいぶん昔に転換させたダンピレス。やっぱり母の能力である精神感応力を受け継いで私と同じように耐性も高かったから染まらなかったみたいなの。コムネナ達が狂気に囚われて行く中で最初は何も分からず、分かった後は何も出来なかった気持ちを察してあげて。私が混乱せず事態を認識出来たのはイリーシャスのおかげよ。ダンピレスとは言えヴァンパイアの大先輩だしね」
「……良く分かった。しかしどうしてヴァンパイアってのはそういう肝心な事を先に言わないんだ? いつもそうじゃないか」
「そう? 私には敵じゃない事分かってたよ? それでも攻撃態勢になったからお兄ちゃんを守ろうとしただけ」
綾奈がシレッと発言する。
「もういいでしょ。中に入って食事にしましょう。イリーシャス、出来る?」
イリーシャスはメイリをチラリと見て軽くうなずくと中に入って行く。
「私たちは部屋に入るわよ。一人一部屋には出来るけど隣り合いがいいわね。着いて来て」
整然と10以上の玄関が並ぶ廊下で入り口から綾奈、皇成、メイリの順で部屋を割る。
「カギもかかるけどかけない様にしましょ? ちょっとイリーシャスに状況を確認してくるけど装備類のチェックをするから準備しておいて。ゆっくりしている時間はないわ」
「了解した」
「はい」
皇成と綾奈はそれぞれの部屋に入った。すぐに綾奈の携帯が鳴る。メイリからだ。
「はい?」
「あっ綾奈ちゃん、ちょっと入り口のトコまで来てくれる? コソコソする必要は無いけど皇成ちゃんには内緒でね」
「うん。わかりました」
買ったばかりのスゥエットを上下に着た綾奈はなんとなく忍び足で戸を開けて入り口に向かう。皇成は出て来なかった。入り口前のロビー状になった空間にメイリとイリーシャスが立っている。
「こっちこっち」
メイリは綾奈を促し隣の部屋に入る。
「よしよし。女子会だあ」
「えっと…女子って?」
思わず男モノのスーツを着こなしたイリーシャスを見る綾奈。
「お待ちしておりました、綾奈様」
「いえ、様って、てか喋れるの? よりもその声って?」
初めて聞いたイリーシャスの声はハスキーではあるが間違い無く女性の声だ。
「イリーシャスは喋れるよ。なにせ人生経験のレベルが違うから日本語もペラペラだしね。喋らないのはね、イリーシャスの声には電磁波が乗ってしまうの。ヴァンパイアは平気だけどヒトの脳には有害でね、溶けちゃうらしいわ。コムネナのところでも喋らなかったと思うけど綾奈ちゃんはともかくバカ皇成にはちょっとね。綾奈ちゃんも影響あるかなって思ったんだけどどお?」
「いえ何も。でもどうして男の格好なんですか? それに私に様なんてやめて下さい」
「男装の件は私も知らないのよ。教えてくれないけどずっと昔から」
「習慣のようなものです。私は奥様のダンピレス。そのお嬢様だからメイリ様。その……ご友人であれば綾奈様、と言うだけです。それからメイリ様、人生経験のレベルがどうこうは余計です。歳の事は言われたく有りません」
こだわって反応するところがメイリと似てる、と思う綾奈だ。
「はいはい失礼しました。母とはともかく私とは姉妹みたいなものなのにね。まっ好きにさせてあげてよ。きっとメイド根性が染み付いているのよ」
「……メイリ様、いらっしゃって早々に喧嘩売っておいでですか?」
「冗談でしょ? イリーシャスに敵う訳ないじゃない。綾奈ちゃん、イリーシャスはめちゃくちゃ強いわ。ぜひ皇成を鍛えてやろうと思ってね。あと、イリーシャスが喋れる事は内緒ね。バカなりに気にするでしょうから。女なのも内緒。これはねえ、そのうち最大効果でばらすわあ。顔が見物ねえ」
セリフの最後の方はとろけるような顔つきになっている。だんだん分かってきたメイリの性格のさらに奥底をかいまみた気分の綾奈だった。
「じゃあイリーシャスは食事の準備をお願い。綾奈ちゃんは皇成と今日出来る事をやりましょう」
部屋の前で皇成を呼び出し奥まった部屋へ入ると50畳はあるのではと思われる広さの隅に銀の機材ケースやメイリが使っているような楽器ケース、ズック袋がそれなりに整理されて置かれている。その脇に3つの人影が立っていた。
「運び出せたのはこれだけ?」
挨拶無しにメイリが話しかける。
「ああ、結局は急な話しだったからな。俺達の力どうこうより車がギリギリだった。2台分だからもう少し車には入ってるよ。とりあえず使いそうなものを出してみた」
「ありがとう。皇成、綾奈ちゃん、言うまでもないけど彼らはこちら側の者達よ。これからヨーロッパに飛ぶ予定だから次にいつ会うかは分からないけど顔は覚えておいて。その内役に立つかも知れない。あなた達もね」
「よろしく」
男同士の気安さで思わず右手を伸ばすが慌てて引っ込める。
「ハハハ。ヒトとの接し方は知ってますよ。よろしければ」
そう言って差し出された右手を皇成も握り返した。綾奈も軽く男達と握手すると
「あなたが綾奈さんですか。とにかく、コムネナは排除しなければならない。しかし敵とするには桁外れな相手ですから無理をせず頑張りましょう」
皆ヴァンパイアの例に漏れず綺麗な顔立ちのところへこぼれんばかりの笑みを浮かべる。こりゃヒトはかなわないな、と考える皇成だ。
「それからメイリ、例の新型はそのケースだ。もっと軽量化すべきだろうがまだ開発途中でね、ヒトが手持ちで扱うのは無理だろう。その代わり装弾数を多めにしておいたから使い捨てと考えてもいいかも知れない。弾もほとんどセットされている分しか無いしな。使い方は分かると思う」
「ありがとう。明日さっそく試射してみるわ。それじゃお互いに出来る事をやりましょう」
綾奈達3人は食堂へ向かうがヴァンパイア達は来ない。各個自由な事が信条のようでメイリも誘いすらしない。
皇成はヴァンパイア達がここを出る前に綾奈のマシンガンを手入れしてくれると言う申し出を受けてありがたくお願いした。皇成ももちろん銃器の手入れは出来るがエリコム特製だと言う事も有るし第一道具が無い。
適当な道具を見繕って置いていってくれるそうなので後で改めて点検すればいい。彼らを信用していない様だが自分の銃は自分で手入れするのは鉄則だから彼らにも分かっているはずだ。いくら自分のでも綾奈に任せる訳にもいかないのは当然だ。きれいになったかな? など考えながら銃口でものぞいて暴発させたらたまらない。
テーブルに並べられた食事を見たとたんに各自お腹が空いていたことを意識してやがてもくもくと食べ始めた。メイリが話題程度に
「彼らはエリコム本社に乗り込むつもりなの。ヴァンパイアが武器を使ったらどうしたってヒトに勝ち目はないわ。もうめぼしい兵器はデヌリークに運び始めているでしょうけどね。後はエリコム本社をこちら側の拠点にしようと考えてるわ。デヌリークへも近いし逆に近すぎてコムネナに従う者はデヌリークに行ってしまうと言うのが読みね。いずれにせよただ攻撃してもコムネナは絶対に排除出来ない」
「でも、私達に勝ち目はあるの? ヴァンパイアはコムネナだけでもないんでしょ?」
「分かっているのは合計20位ね。でも例のアンデットをどのくらい作っているのか分からないし理論上はいくらでも増やせるのがなんともね。とにかく出来る事を順番に、よ」
食事を終え片付けはイリーシャスに任せた。時間はもう夜半過ぎておりさすがに皆疲れが見える。各自部屋に戻りシャワーを浴び終わった頃皇成の携帯が鳴る。メイリからだった。
「部屋に来て」
少し不機嫌そうに短く言うと切れる。皇成は軽く首を振りながら身体を起こしてメイリの部屋に向かいノックする。すぐに戸が開き滑り込むように室内に入った。
「今日はイリーシャスの事信じてくれてありがと。暴れられたらどうしようか位には心配だったわ」
「良く言う。押さえるも殺すも手間無いだろう。確かにヴァンパイアは強い。その中でも最強のコムネナは敵としては彼一人だったとしても倒せる気がしないよ」
「私達もみんな同じ事を考えている。ヒトの様に集団生活しない私たちがコムネナそばにいたのは訳があるわ。今は20位だけど多い時は私も含めて150位が集っていたわ。彼はメガリオであり強い立場があった事、実際に強かった事、そして妻の存在。私に限らずまずは元に戻って欲しいと願っているでしょうね。今更謝って許される事も無いし元に戻る可能性無く排除しなければならないかも知れないけどいずれにせよ最後にキーになるのは綾奈ちゃんとあなたよ、皇成」
「なぜ俺が? 綾奈だってヒトにとっては希望だがヴァンパイアにとっては新たな一個体と言うだけだろ? キーと言えばむしろメイリなんじゃないか? どの範囲か分からないけどみんな協力的じゃないか」
「そうねえ。ねえ、この話しは今はもう終りにしたい。これからずっと考えて行かなければいけない事だしね。今は……ねえ、吸わせてえ」
「ああ」
右腕を出した皇成に
「今日は左い」
「何か意味があるのか?」
「ないしょぉ。はやくはやくう」
少女を通り越して幼児に戻った様にせがんで来る。
もちろん血に飢えての行動では無く強く拒否すれば大人しくやめるだろう。それどころかもしかしたら泣き出すかも知れない。
それが演技でも、裏の有る悪意では無い事は信じているので、黙って左腕を出した。昨晩と同じく腕の裏側をペロペロ舐め出している。唾液に含まれる成分が麻酔のような効果を出すのだそうだ。
ときおり吸い付くように唇を寄せながら楽しげでもあり一生懸命でもありそうな行為を続ける。
5分を過ぎて皇成も恍惚とした気分になり自然な感じで右手でメイリの頭を撫でている。15分ほど経ったころ、メイリは少し体勢を変えて吸い始める気配を感じる。
キューッと血が吸い出される感覚はあるが痛みは無い。皇成はさらに朦朧となりながらゆっくり眠りに落ちていった。
「これが新型兵器よ」
大きな鉄製の箱から取り出されたのは楕円筒に取っ手とトリガー部分を取り付けて肩にしょって構える武器で携行型のミサイル発射装置に似ている。マガジンは内蔵になっており後ろの上部分からセットするようだった。
「電磁加速砲、通称リニアガンね。まだ開発途中で重さが80キロあるわ。イリーシャス、お願い」
イリーシャスはわずかに重さを感じさせながらも滑らかに肩に担ぐ。建物の外に出て草が伸びきっていない50M程見通せる空間の先に的を付けてあり、イリーシャスは簡単に狙いを定めると無造作に撃ち始めた。
ウイイィィと言うモーター音とシュシュと言う擦過音が混じった独特の銃声は大きくは無い。イリーシャスはほとんどの弾を的紙のどこかに当てているようだ。レールガンがどの程度の集弾性能を持つか分からないが通常なら神業レベルである。
「どう?」
イリーシャスは深くうなずいて答える。
「ヨシ、綾奈ちゃんも試してみてよ」
「おい待て、綾奈に80キロが上がるはず無いだろう。変に頑張らせて腰でも痛めたらどうするんだ」
「ちょっとお兄ちゃん、上がるかどうかは分からないけど腰なんて痛くしないよ。いくつだと思ってるの? お兄ちゃんと一緒にしないでよ」
「いやお前俺だって若いよ。でもそうゆう油断がだなぁ」
「はいはい仲がいいのは分かってるから。お互いを甘やかし過ぎなのもね。皇成はウザい心配しない、綾奈ちゃんは怒ったんならひっぱたくくらいする、戯れて無いで早く試して。もちろん無理する必要は無いわよ」
「はぁい」
綾奈は上に向けられたグリップを握り力を込める。皇成が驚いた事にフラつきながらも肩に載せて狙いを付けて引き金を絞る。
ヴァンパイア達はもちろん、皇成も50m位なら的はしっかり見えているがイリーシャスの時と違って的の変化が分から無い。
1発目が中心を捉えて穴を開けた後で全ての弾がそこを通り抜けている為に見た目の変化に乏しいせいだった。
初速にして拳銃弾の約3倍、連射能力は6倍弱の勢いで超硬質カーボン製の弾を吐き出すのだから綾奈が持てば無敵の性能だった。
ヒトが100年以上前に考えて60年位前からより真剣に実用化の研究を重ねても未だ試作すらおぼつかない技術をヴァンパイアが本気になればエリコム社があった為とは言えアンデット渦と綾奈の存在が認識されたわずか3年で立派な試作品を作り上げてしまう。やはり頭脳も卓越している証左だった。
「さっすがねえ、綾奈ちゃん。重さはやっぱり駄目?」
イリーシャスが手を添えてゆっくり地面にレールガンを下ろしている。
「ただ撃つだけならなんとかですけど走ったりとか駄目です。支えるのがやっと」
「持てるだけでも凄過ぎる位なんだぞ、なんてセリフ吐く前にほら、皇成の番よ。さっさとやる」
「俺? 80キロだぞ? お前らと一緒にしないでくれ」
しかし皇成はメイリにジロリと赤い目で睨まれる。「お前」に反応したのだ。細かい。
「やらせて頂きます」
言ってみたものの、ベンチで120キロ上げるのとは訳が違う。持つところがグリップしか無いのだ。
「うん、えっ?」
確かに重いがせいぜい15キロ位の感覚だ。激しい機動をしなければ走って移動も出来る。
「なんだ80キロも無いじゃないか」
深く考えず的に向かって構え撃ち込んでみる。ちなみに綾奈が使った的は交換していない。
ウイイィィィの音と共に弾が発射される感覚はあるが的には当たらない。普通の銃と違い本体が波打つような反動があり上手く制御出来ない。それでも3連射目で何発かは当たるようになった。
「へったくそ皇成い」
皇成には返す言葉も無い。綾奈の超集弾は一種の超能力だが長年の訓練で仮に超能力が無くても連射集弾力は皇成以上になっていたのだ。いまさらだが皇成に特製サブマシンガンを使って単発でも100Mの的に当てる自信なんて無い。連射はいわずもがなだ。
ちなみに皇成の射撃力は間違い無く教官クラスである。連射集弾は超能力を別にしても綾奈の努力の賜なのだ。
皇成は軽々と80キロと偽られた新型兵器を地面に下ろす。しかし地面に着いた時明らかな重量を感じさせるものが有った。
「なんだこれ? やっぱり相当重いのか?」
「皇成ってさ、本当に私の事信じてないよね? もしかして嫌いなの? 私の事嫌いなの?」
「いや嫌いじゃ無いよ、好きですよ。でも俺が80キロの重さをこんな風に扱える訳無いじゃないか」
しかしさりげない会話に罠があった。
「キャーお兄ちゃんメイリさんが好きなの? いつから? だから血を吸わせてあげたの? でも異常な状況で芽生えた恋は実らないんだよ? 夜中に2人でなにやってるの? メイリさんの気持ちはどうなの?」
何か他に確認すべき事が有るような気がしているのに圧倒されて沈黙する皇成とメイリを見ながらイリーシャスは薄笑いを浮かべていた。