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―誰にも怪我してほしくありません―

 綾奈が住む街から車で3時間とちょっと。一応市制のはずだか駅の周りにしか建物が無い地方都市の小さな街が舞台だった。


 駅から伸びるそこだけやたら広い道を中心に左右500Mの地点で警察が出入りを封鎖している。住民には不発弾が発見された事になっているらしい。


 死体が発見されたのが午前11時過ぎ。あまりの無惨さと3人分が混然一体になっていたので最初は死体とさえ思われず何か動物の死骸の不法投棄かと思われた位だったらしい。他に2つの死体が発見され警察は仕事ゆえに淡々と必要な処理は行われたが、現場は一種のパニックに陥っていた。


 警視庁に報告が上がってから赤を纖滅する会に連絡が入るまで20分。ヘリで現地入りした先遣は不発弾をでっち上げ住民を避難させると共に駅も封鎖して電車は全て通過とした。とりあえず代替バスを運行させる事で目をそらさせるのは手慣れた手配力を伺わせる。


 エクソシスト1名を伴った偵察班が付近を捜索中、倉庫を見つけ不用意に中に入ると暫くして無線で送られてくるバイタルサインが唐突に消えた。同時にヘルメットに装備されたカメラ映像から推定10体のアンデットが確認されたのだった。


 本来なら、また状況が許すなら倉庫ごとナパームで焼き払うべきだった。赤を纖滅する会サイドからも意見が出たと言うがいくら田舎街と言ってもれっきとした市街地、流石に政府は決断を下せない。


 その内アンデットの活動が強まる夕刻がせまり、陽が落ちて行った。  


「ぷぅ」


 車からユニフォームをしっかり着込んで降り立った綾奈は小さく息を吐く。学校から帰り自宅から車で支部のアジトへ急行した。そこで黒づくめの戦闘ユニフォームに着替えている。


 この黒づくめユニフォームには機会の少ない研究の成果が詰まっている。奴らは銃を使わないか少なくとも使った事が無いので、防弾性能は大した事は無い。まず防刃性能、これは咬まれる対策と奴らの武器として確認されているナイフ対策、それに対衝撃緩和性能、そしてフルバイザー付きのヘルメットはとても軽くインカムを始め様々な機能が盛り込まれていた。


 動きやすく機能的なユニフォームだが防御力として決して高い訳では無い。これは多少防御力を上げてもアンデットのパワーが有りすぎて例えば30M先の壁に勢い良く叩きつけられる様な衝撃は、ユニフォームは良くても中の人間はどうしようも無いからだ。車と一体化して射撃できる道具も考案されたが車ごと吹っ飛ばされる程なのだから始末に終えない。


 結局出来るだけ軽く、そこに出来る対策を詰め込んで機動性を高める案が採用されていた。腕を引き抜かれた死体も多い事から肩回りは関節の動く範囲以上の引っ張り張力を3tまで高める工夫もされている。


 綾奈の装備は9ミリ拳銃弾を使う特製サブマシンガン2丁と100発用の長い特製マガジン20本、それと訓練最初から使用しているバックアップ用のグリップを小さく削り出した38口径の特製レボルバーだ。


 綾奈は体格も力もあくまでも普通の女の子であり厳しい訓練でなんとかこれだけ装備している。格闘訓練も受けているが何しろ屈強な大男が瞬殺される相手だからあまり意味はない。それよりも走る、飛ぶ等の基礎機動訓練が余程大事でありこの分野において軽く平均以上の数値を示したのは皇成にとっては嬉しい誤算だった。


 皇成が偶然目にした遊技場での幼い綾奈の異常な射撃能力は、赤を殲滅する会により研究が行われた結果、綾奈には超能力としか呼べない力があり弾道を制御しているとしか思えないとの結論が出た。


 弾道制御自体信じがたい事だが極端な、例えば目標と90度ずらした真横に撃った弾をねじ曲げて着弾させるほどの力では無く、ある程度限られた、多くても数センチ単位しか調整出来ない事、当初訓練に使っていたエアガンから実弾に変えた時精度が大幅に落ちた事から弾の重さや弾速によるトルクの大きさにも制約が有ること等が分かっている。


 結果として特製専用弾が開発され弾の火薬を減らして弾速を落とした拳銃弾を使用した市販のマシンガンをベースに、少女の筋力を考慮して徹底的に軽量化された特製フレームのサブマシンガンが開発された。コンピュータによるシミュレーションでも綾奈の持つこの力を使う以外に「敵」に対する有効な手段が見つからないのが現状だった。


「綾奈さん今日も宜しくお願いしまっす」


 23歳になったばかりと言う班員の一人の声がささやくようにインカムに響く。ささやいたところで皆に聞こえているから内緒話しではなく敵の存在を意識しての事だ。


 綾奈の正式な戦闘参加に伴い皇成はいくつかのルールを定めた。綾奈はあくまでも可愛い女子中学生であり班員は大人とは言え男だ。行き過ぎた不祥事は論外としても男女としては離した存在としたい所だ。しかし現場では命を預け合い、綾奈の弾は班員達の身体の数センチ、場合によると数ミリ先に100発以上の弾丸が通過する事になり信頼関係は欠かせない。


 まず、綾奈を「ちゃん」で呼ぶ事を厳禁し「さん」付けで呼ぶ事を公私共に強制した。あくまでも対等な仲間として意識させる為だ。さらに普段はいかなる理由でもボディタッチ厳禁、戦闘中は例外だ。


 逆に常識の範囲で2人きりで出掛ける事は禁じず恋愛そのものも禁じ無かった。綾奈の自主性を尊重するとのコメント付きだが、裏で「俺の兄としての許可が必要」とクギを刺したのは綾奈には内緒だ。


 ちなみに班員に素手ガチで皇成と争うなど考えられる者はいない。あるいは痩身でウエイトも決して大きい訳で無い皇成に上背も体格も勝り、自衛隊入隊後数年目で有っても教官すらなめてかかるようなメンバーなら素手なら勝てると思っている者もいるかも知れないが、皇成の格闘はゲリラ仕込みで有る事は皆の周知であり素手であっても一度始まれば相手を殺さずに終了させる方が難しい。


 さらにナイフアクションが神業だった。身体も小さい本当の少年期にも仲間内に居続ける為だけに極端に高い戦闘力の誇示が必要だった故に必死に身につけたものであり喧嘩が強い等とは本質的に違う。全員が年上で、それぞれが腕自慢である班員達にも必要が有れば披露していたから、班員達も皇成に対してはその実力を認めてデヌリーク市国のバックと関係なく尊敬し、怯えていた。


「こちらこそよろしくお願いします。みなさんも、怪我しないで下さい」


 涼しげな落ち着いた声が皆のインカムに廻る。


「Aグループ右、B左」


 皇成の短い指令が出る。今回は10体と敵が多いのでまとめて一度に攻められるのはマズい。不安は有るが6名づつ二手に分かれて敵も分断したかった。その作戦が正解かどうか誰にもわからなかったし敵が二手になってくれるかどうかも分からない。


 アンデットが発見された倉庫の前の道からゆっくりと索敵に入る。倉庫には入らず倉庫の前の広い駐車場に黒くて平べったいコーヒー缶位の大きさの物体を各自置いて行く。綾奈は全員が見渡せる後方でマシンガンを前に突き出して待機していた。


「カタッ」


 ご丁寧に通用口らしいドアが開きフラフラとアンデットが現れる。一体、二体、三体、四体を数えたところで全員のインカムにピッという高周波音が響く。尚も出てくるかも知れないが皇成は最初の四体に意識を集中していた。


 五体目も姿を現し六体目がチラと見えた時、突然辺りが昼間と化した。いや、昼間どころかそこにいる全員が強力な投光器の光を直接浴びたような強烈な光に包まれる。


 スタングレネード。


手留弾の一種で暴動鎮圧用に使われる大きな音と光のみを発する爆弾で、今回使ったのはさらに閃光のみを発する様に改造された代物だ。仮にアンデット共を地雷源に誘い込めたとしても、破片が身体に食い込んでも行動不能にならない為リスクが高い。爆発後はこちらの動きも制約されるのでアンデット共の復活がこちらより早ければ目も当てられない。そこで考えられた作戦だった。


 奴らにも視神経が有るならば、まともに強い光を見れば眩んでしまって目が効かなくなるのではとの推測だ。もちろんこちらはバイザーの機能によって影響は最小限に抑える。四体目で合図したのはターゲットを四体に絞るの意であって、効果を考えたアンデットの視線や身体の位置を四体のみに絞ったタイミングで爆発させたのだ。


「いける」


 予想通りこちらを見てはいるがその目は明らかに焦点を失い呆然とするアンデットを綾奈が捉える。


 タタタタタタタ


「当たれ、当たれぇ」


 たちまち三体が微塵に消え去り一体は上半身と下半身に千切れ下半身が微塵になる。これは打ち合わせた作戦で上半身のみの動きを確かめたかったのだ。そんな余裕が有ったのなら、だったが。


 ダダダダダ


 パスン、パスン、


 綾奈より強力な弾丸を使う他の班員も撃ち始めると同時に何かを撃ち出す音も混じっていた。わずかな時間を置いてボンッボンッボンッと強い火柱がいくつか上がった。


 テルミット弾だ。銃弾さえ避ける機動力の前では撃ちだしてからの飛翔スピードが目で見えるほど遅いテルミット弾は本来無力だが、動いていないなら別だ。フラフラと出始めだった二体も掃射を受けているところにで炎に包まれる。


 たちまち6体を滅したのは作戦勝ちと言える。


 タタタタ……


 綾奈が左右4回づつのマガジン交換で800発を撃ち尽くしたところで


「止め」


 の声が響いた。三体と半分は完全に塵となり二体と半分は強い炎に包まれている。作戦勝ちでは有ったがこれも綾奈の圧倒的な集弾能力が有っての事だ。足を止められても通常の掃射では5人がかりの集中砲火でようやく一体倒せるかどうか、だ。


「A班、B班に分かれて待機。」


 誰しも油断無く出口を見つめている。ドンドンドンと何かが破壊される音が聞こえると緊張が倍加するが出口付近に変化は無い。


「上っ!」


 班員の一人が叫ぶ。多機能ヘルメットには動態センサが組み込まれており勘良くモードを切り替えていた班員が最も早く気付いたのだ。屋根の上のアンデットは既に戦闘態勢でありフラフラしていない。


「ガアッ」


 右舷Bグループの最初に綾奈に声をかけていた班員が悲鳴を上げて倒れ込む。距離10Mをジャンプしたアンデットに上からぶっ叩かれたのだ。倒れたところに肩口を噛まれ、なんとかユニフォームが耐えたらしいが反対の肩を上から叩かれ再び倒れ込む。肩の位置が明らかにおかしい。 


「イヤッ」


 綾奈は前回が初めての参加であり緊張も有って怪我人の事など気にかける余裕は無かった。また、15Mも飛ばされた怪我人は着地後はすぐ起き上がって戦闘に参加していたのだ。しかし今回襲われた班員はピクリともしない上身体の形が変わってしまっている。


「イヤアァァァァァァ」


 その叫び声と共に綾奈は進化した。


 班員を攻撃した結果として一瞬動きを止めたアンデットに200発をぶち込むと物凄い速さでマガジンを交換する。続いて屋根から出てきてジャンプしたアンデットに素早く対応しその身体を連射線で止めて垂直に落下しきる前にその身体が3つに千切れる程弾を叩き込む。


 右の方では次に出てきてジャンプしたアンデットをAグループの放った弾が偶然捉えたらしく落下し始めると、気がついて素早く標的を変更した綾奈も捉えた。綾奈のマシンガンは数十発で弾が切れるがマガジンを変えるのも速すぎて連射が止まったとすら他の班員には認識出来ない程だ。空になったマガジンを交換して撃ち始めたのは落ち始めたアンデットが地に着く前だったのだ。


「アアァァァアァアァァァァ」


 気がふれたように叫び続ける綾奈の悲鳴はインカムの音量規制機能が働く程だったが誰も声をかける余裕は無い。皇成でさえ撃ち止めた後も警戒の緊張感で気にかけていない。


 辺りはテルミット弾の炎が倉庫に燃え移った為に明るさはある。いつしか綾奈は叫ぶのをやめており2人の班員が下半身のみになったアンデットに放つ銃声はしているものの皆は静寂の中にいる様な錯覚すらしている。


「見える、感じる。もう、誰にも怪我はさせない」


 つぶやいた綾奈は走り出す。綾奈は一番後ろにいたのだから撃ち続ける2人の射線は分かるので当然避けながら前進しているが驚くべきはその速さだった。


 アンデットには及ばずに皆の目にも見えてはいるものの、人間が出せる速さとは思えない勢いで走る綾奈は塵になろうとしている倒れたアンデットの手前に来ると右前方にジャンプする。


右手のマシンガンをホルスターに納めながら軽く3Mは飛び上がるとそこに立っているポールに右手をかけ両足の底をポールに付け膝を曲げていく。横向きである事を無視すればポールにしゃがみこんでいる様だ。


次には一気に立ち上がるように左上方にジャンプして倉庫の屋根より高い位置に達する。そしてそこには死角になって下からは見えないが10体目のアンデットが屋根に開いた穴から這い出しきってこちらを見上げるところだった。


 空中で左手のマシンガンを掃射するがアンデットが飛ぶ方が速い。


一瞬で綾奈の目の前に迫るが綾奈は弾の切れた左手のマシンガンの突き出た特製マガジンを右手で握りアンデットの頭に振り下ろした。


カウンターになって威力が増したとは言え空中の身体が浮いた態勢とは思えぬ力でアンデットは再び屋根に叩き付けられる。


 アンデットが屋根に接するほんの前にアンデットを叩いたエネルギーで更に1M程高く舞い上がっていた綾奈の右手にはホルスターから取り出したマシンガンが必中の連射を始めていた。


「当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれぇぇぇぇ」


 再び叫んだ声を下から班員達が凝視している。マガジンが尽きる頃には屋根のアンデットから少し離れたところに着地しマガジンを替えて撃ち続ける綾奈。アンデットは塵と消える。


 その時、下の燃え落ちた扉付近から更に一体のアンデットが飛び出して皇成に迫る。10体で全てでは無かったのだ。皇成には認識はしていても30M近い距離を2秒程度で移動するアンデットには反応出来ない。


 が、屋根の上の綾奈はむしろ落ち着いた動作でマガジンを替え皇成そのものに狙いを定める。アンデットが皇成の前に立ちその圧倒的なパワーを皇成に叩き込む一瞬前に綾奈の放った弾がアンデットの背中に着弾する。


「当たれ当たれ当たれ当たれ当たれぇぇぇ」


 幾分抑えられた声が呪文の様に繰り返された。


背中から溶けるように弾に身体を削られて倒れ込んだアンデットに三方の班員から弾が撃ち込まれた。塵と化したアンデットを見ながら皆が撃ち方を止める。


「Aは戸口、Bは屋根を警戒」


 もうアンデットが残っていない証拠は無いのだ。


「お兄ちゃん、終わっているよ」


 綾奈が言う。なぜ綾奈に分かるのかと言う疑問は誰にも湧かない。綾奈が言うなら正しい。


作戦は終了したのだと皆が自然に認識した。綾奈の圧倒的な活躍の結果であり指揮官が誰か、とか綾奈はまだ子供だ、とか関係ない。全員が綾奈に命をつないでもらったのだ。


「でさ、何とかしてよぉ」


「は?」


 綾奈の戦闘中には考えられない情けない声と皇成の間の抜けた返事。


「だからぁ」


 屋根の上の綾奈が文句を言う。


「怖いから下ろして」


 皇成は呆気に取られた後で軽く笑う。


「終了。終わりだ」


 アンデットに叩かれ身動きしない班員に2人程駆け寄る。屋根の綾奈はペタンと座り込んで皇成の方を見つめていた。


 その綾奈を見つめながら、皇成は綾奈が見せた動きをどう解釈すべきか考えていた。


他の班員達は戦闘が終わった以上、綾奈に触れずにどうやって屋根から下ろすか考えていた。




 “赤を殲滅する会”はデヌリーク市国に古くから存在する組織で、英語の“PARTY TO DESTROY THE RED”を直訳したネーミングの組織だ。少々間抜けな感も有るが皇成は気にしていなかった。


 皇成の両親がイレスシス教徒だった為、軍事訓練を受けた洗礼者としてデヌリーク市国の目に止まったのだ。


 皇成は小さな頃から父の仕事の関係で中東のある国で育ったが、そこは世界第二の規模の教義を持つ宗教国家であり、国勢は内紛が絶えずイレスシス教徒大虐殺事件で両親を失ってしまう。


幼かった皇成だけでは日本に帰るどころか出国する手段もわからず、金も無く頼れる者も皆殺しになってしまった事でストリートチルドレンになり生きて行く為にゲリラになるのはやむを得ない流れだった。


 両親を殺した敵の宗教に与する事は出来なかったから、少数民族の集団に身を投じて戦闘員となった。そして訓練より実戦が多い毎日の中で、もともと運動神経が良く射撃センスが有ったらしく、たちまち一兵士として活躍するようになる。


 戦いに明け暮れて数年経った頃、政府、宗教指導者、各部族代表が結んだ形だけの停戦合意を真面目な顔で確認しに来た国連監視団が来国した折に、偶然近くにいた事もあり出かけて行って監視団の一人に話しかけてしまった。


 始めは若いとは言え銃を持つ姿勢も様になっている立派なゲリラの皇成を警戒していたが、皇成が頭に焼き付いて離れない虐殺の光景を説明すると、あまりのリアルさと見た目からして明らかに同国人では無いのにパスポートを所持していない事から調査対象者とされた。


 日本人夫婦と子供一人が虐殺事件時に行方不明になっていて、当時の大まかな居住地や父の仕事内容が一致した事で血液が採取され日本の医療機関に有った該当日本人のDNAと照合された結果、行方不明の子供である事が判明したのだ。


 ゲリラ活動は一種の犯罪行為であり、当事国では極刑も有りうる犯罪者扱いもされかねないが、これまでの事情と13歳と言う年齢を考慮して高度な政治的駆け引きで超法規的措置が取られ、日本へ強制送還の形で戻って来られたのだ。


帰国しても身寄りが無い為とりあえず日本政府に紹介された施設で過ごしていたが、近くに有ったイレスシス教会には何度か足を運んでおり神父にこれまでの境遇を話しもしていた。


 本格的な戦闘経験者。ヨーロッパでは珍しくないそんな属性も日本人では稀だ。一信徒に過ぎない両親のしかも礼拝などろくにしなかった敬虔とは言えない子供だが、日本人でイレスシス教徒であり本当の戦争を知っているのは確かに稀だろう。


 それでも初めて神父経由でオファーを受けた時には意味が分からず保留とした。


 イレスシス教の総本山国家と言うべきデヌリーク市国直属の戦闘部隊へのスカウト。アニメか漫画な世界の話しに疑いを通り越して怒りさえ感じた。しかし赤を殲滅する会会長のアンドリュー・グレゴリオ司教が直々に日本まで面談に訪れ


「これは映画の話しでは無い。デヌリーク市国はエクソシストを養成しているし実戦実動組織も持っている。もちろんむやみに戦いを挑む為では無く国連決議が有っても国家紛争解決に派遣する訳でも無い。要人がそんな地域を訪問する際の護衛任務は有るかも知れないがイレギュラーだ。我々の会は悪魔やそれに準ずる化物を退治する事を目的として何百年前もから綿々と引き継がれて来たのだ。日本には支部が無かったが近い内に必要になるとのお告げが有ったのでそのスタッフに君が選ばれた訳だ」


 眉にツバを付けるのも面倒な話しだった。しかしグレゴリオは確かにデヌリーク市国から派遣されておりそれは間違いない。彼も3年前に従軍経験の有る司祭職であるとの理由でスカウトされたらしい。


「君はデヌリーク市国と言う地球上で最も古い国家に雇われるとでも考えるといい。原則として国籍もデヌリーク市国になるし余程の不祥事でも起こさ無ければクビも無い。司祭として出世を狙ってもいい。だが、お告げ通りの事が起これば世界の為に命をかけて貰う事になるな」


 自分と同じような道筋で今の立場に有るグレゴリオ会長の言葉には真実味が有った。二ヶ月後、皇成はデヌリーク市国の従業員になっていた。



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