―青春おじいさまと呼ばせてください―②
そして今日、9時出発の為に8時45にバスの前に集合と言う遠足の様なスケジュールに8時を過ぎても眠りこけていた皇成をかなり強いビンタが襲い脳震盪で別な眠りにつく危機が訪れ目を覚ます。
当日の出発の前に準備する事を前提にしていないため前日は遅くまで用意をしていたから結構疲れたのだ。目を開けるとイリーシャスが仁王立ちに睨みつけている。
この部屋は皇成が一人で使っており女性であるイリーシャスやメイリは入って来ないはずだ。
一応男の部屋だから。
入って来ても文句は言えないが。
「起きて下さい皇成。ルミノフが部隊を率いて出撃してしまいました。すぐに後を追います」
攻撃モードでは無いイリーシャスの声。聞き終ると同時に重大性を理解する。
「なぜ元帥が? まさか本当に捨て駒になって弾薬を消費させようと言うのか? バカな」
急いで戦闘服を着込みながら叫ぶようにイリーシャスに聞き正す。
「他に考えられません。私は夜中ほとんど起きていましたが気づきませんでした。宿舎をここに指定した時に既に考えていたと思われます」
バスの中で武器を手入れしていた時に元帥の部下が来て宿舎の変更を頼んできた。比較的入り口に近い元の場所から車でも5分くらいかかる外れの一画に彦助達と合わせて移動させられたのだ。車で5分と言っても信号も何も無い道路を5分だから全く違うブロックだ。夜の内に他国の増援部隊が到着することになったからと言う理由だった。
バスに近付くと綾奈がハラハラする前でメイリがバスのドアを塞ぐ様に立つ彦助をどなり飛ばしている。
「だから走って行った方が早いでしょ? 武器を取るからどいてちょうだい」
「江戸の時代は甲賀から江戸まで5時間程度で走り抜けた事もあるがその後すぐに本格的な戦闘に入った事は無い。我々だって疲労するんだ」
「いいからどきなさい。力ずくで排除するわよ?」
「メイリ落ち着け。300キロを全力で走った後に戦闘なんて無理に決まってる。とにかくバスに乗って出すんだ」
皇成も状況を察してメイリを説き伏せようとする。
「うるさい。誰に命令してるの?」
その時忍び一派の一人が戻ってくる。
「パトカーの先導を付ける。街道筋も出来るだけ封鎖させる。説明している時間が惜しいから洗脳をかけたし、2人が先導のパトカーに乗って道路に飛び出して来ない様に洗脳波を飛ばしながら行く。とにかく出よう」
最初にメイリ達と接触し相性も良かった彦助が表に立って話してきたが忍び一派に上下関係は無く必要なら誰もが一騎当千の能力を持つ。今はそれぞれが独自に行動して最適な結果を出していた。
尚も彦助に詰め寄ろうとするメイリを後ろからしっかり抱きしめた皇成がメイリの耳元に口を寄せてやさしく囁く。
「行こう」
とにもかくにも出発したバスはイリーシャスが運転している。
ヴァンパイアは必要なら3日は寝なくても平気だが、元から鍛え上げダンピレス化が進んでいる皇成でも眠りは必要だ。一日活動すれば疲れは感じる。
メイリだって睡眠はとっているはずだがイリーシャスのタフさは特別製だった。昨晩も元帥の動きに何かを感じて起きていたに違いないが元帥もそれすら察してバレない隠密行動に出たのだ。
スエリ国内は山間部でありあまりスピードも出せないが道幅だけはそこそこ確保されている主要な街道を対向車線も含め規制されて車が来ないのをいいことに道幅いっぱいを使いバスを爆走させるイリーシャス。
下りであることも手伝って乗用車ベースのパトカーはともかく2台だけ持って来て先行させているジープタイプに追突させそうな勢いだ。
ジープタイプの車は重心が高く山道でのスピード走行には向か無いが、言うまでもなくバスはもっと向かない。
それも25人と武器を満載した状態なのだから無茶もいいところだ。
ヴァンパイア達は自分らで何かにしがみついているからいいが荷物などガチャガチャになり始めている。
「あのう、イリーシャスさん? いくらなんでも飛ばし過ぎでは?」
との彦助の進言は
「事故しても誰も死にませんから」
と言ういかにもヴァンパイアらしい理由で聞き入られずあっさり却下される。
山間部を抜けると急に平らになり高架橋になった高速道路だ。同時にスエリ国とレアニスト共和国の国境ゲートが見えてくる。
通常でもパスポートを提示するだけで警察の非常検問より気楽な存在だが一時停止くらいするべきであり少しスピードを落としたとは言え時速80キロで突っ込んで行くのは非常識過ぎる。
ゲートも木の棒が横に塞いでいる簡易的なものだがいざとなったら防護壁が出てくるに違いない。先導していたパトカーはスエリ国の警察なので左右に別れて道端に停車する。
いや、その前に打ち合わせでもしようと思ったのか減速したが、全くスピードを落とさ無いジープに気づき慌てて逃げたのだ。先導に乗っていたヴァンパイア達は走行中のままのジープに移動して来る。
洗脳波を飛ばしていると言っても万能では無くヒトを自由に操れる訳では無い。なんとなく、から始まって本人が意識しないまま行動してしまうイメージだ。
それを猛烈なスピードで突っ込んで行くバスを通す為にバーを上げさせるなど時間が無さすぎる。かろうじて上がりかけのバーをジープ2台がくぐり、バスはバーを屋根に軽く接触させながら国境地帯に突入する。
真っ直ぐに延びた橋の反対側がレアニスト共和国で、見通しも良く向こうからもこちらが良く見えるので洗脳波の指令が理解しやすかったようだ。
レアニスト共和国側の検問所では完全に上がっていたバーを相変わらずのスピードで走り抜け入国した。走りやすい高速道路をひたすら南下する。
国連事務所から全面協力依頼を受けた地元のパトカーが先導に現れサイレンを響かせるがさすがスーパーカーの国、パトカーもスポーツタイプの車でなかなか早い。途中ジープが給油で勝手に止まった時にはるか彼方まで先行して行くのを見て状況を忘れてメイリまで笑ってしまった程だ。
そのメイリはバスに乗ってからおとなしい。ここでいたずらに騒いだところで全く益が無いことを理解しているのだ。弾倉こそ抜いていたがマシンガンを握り続けていた綾奈の方が落ち着かずに見えた位だ。
3時間以上をほぼノンストップで走り続けられたのはスエリ、レアニスト共和国両国の警察機構のおかげだ。
可能な限り早く目的地に近付けたと言え環状高速線が遠くに見えた辺りでバスとジープのスピードを落とす。
先行したパトカーにジープから飛び下りた忍び達があっと言う間に追いつき引き返す様に言う。もちろん礼もだ。
止めたバスのドアを叩き付ける様に開けてメイリが飛び出す。予想していた皇成、イリーシャス、綾奈と続いて全力疾走に移る。
皇成も綾奈もメイリに着いて行ける事に自ら感嘆する事も、また能力を見つめ直す余裕も無いまま走り抜けその後ろをイリーシャスが追尾する。
環状線が近づくにつれて惨状が明らかになってくると同時に皇成は違和感を感じ始める。
「なぜ曇っているんだ? 雪が降っている?」
戦闘服と共にヘルメットをかぶっているのはインカムによって相互通信を可能にするためだ。通常、軍隊で運用される時は指揮官と副官のみの独自回線を用意したりするが今回は誰と誰を特別と考えるか自体に意味がなく、全てオープン回線になっている。
30人の会話が全員に聞こえると混乱も予想されるが、技術的な問題もありメイリの
「めんどくさい」
の一言でそうなった。だから皇成のつぶやきも全員に聞こえている。
「今まで晴れていたんだぞ? なぜ急に?」
彦助も確認するが太陽が出ていなければアンデットの活動可能性が高まる。
「装甲車が穴だらけだ。凄い威力だな」
最初に頓挫した装甲車の傍で皇成は彦助と検分を始める。メイリは綾奈とイリーシャスと共に目もくれずに先に行ってしまった。
ルミノフ元帥の乗る総合指揮車は特徴が有り、拡散バリスタ砲が付いていないのは他の指揮車と同じだが通常1本のアンテナが4本付いている。破壊されていても見分けがつく可能性は高く探しに行ったのだろう。
「やはりヴァンパイアが出てきたのか? アンデットは昼間なら……ちょっと待った。太陽さえ出ていなければ活動出来るんじゃ?」
「今頃気付いたのか? 昼間である事で動きは鈍く結局もたないのかもしれないが2時間も動ければ十分脅威だ」
彦助が皇成にいまさらの様に諭す。
「くそ。天気は確認していたのに、運が悪い」
「運? 他が晴れていてデヌリーク市国の上、さらにアンデットの活動範囲だけ雲がかかっているのが運だと思うのか?」
「まっまさかこれだけ大規模な天気を操れるのか? つか、小規模でもとんでもない話しだぞ?」
「天気だって電気を操れば可能だ。もっとも出来る事を知っている訳じゃ無いし聞いた事もない。だがそう考え無い方が不自然だと言う事だよ」
「なんでも有りだな」
可能性、だけでも信じられる事では無い。いずれにせよアンデットの直接攻撃があり得ると言う事だ。
「綾奈とメイリに知らせないと」
「メイリさんはとっくに気づいているだろうよ。イリーシャスさんはいいのか?」
「何が起こってもイリーが困るところが想像出来ないから」
「そりゃま、そうだな」
皇成と彦助はメイリ達の後を追い始める。忍びの他の面々は自然に別れたチームごとに各所に散っている。様々な通信が入るがアンデットとの遭遇は無いようだ。皇成にはメイリと綾奈がどの方向にいるか分かる。
2人は一緒に行動しているようだった。メイリは総合指揮車と思われる車体を見つけていた。
穴だらけなだけで無く完全に車体が前後2つに千切れ全高が半分以下になるほどひしゃげて、おまけに燃えて上に3両も装甲車がのしかかっていた。
明らかに意図を持って集中攻撃された様だ。
「ルミノフ……」
ルミノフはダンピレス化させる能力無いメイリが一回吸血しただけだがそれで会得した力は大きかった。発現はもちろん、ダンピレスでも無いのは間違い無いのだが、ヴァンパイア達にその力をサーチされる程だったのかも知れない。
そう考えなければならない位、徹底的に破壊されていた。
「ルミノフ! ルミノフッ!」
焦げたヒトらしき残骸もバラバラで判別がつかない。
壁の向こうでもルミノフがいれば感じる自信はあるメイリでもここまで損壊した死体で分かる自信は無い。
近くの装甲車になんと生き残った兵士を見つけてゆっくり近付くとやさしく声をかける。下手に誰何してアンデットや敵のヴァンパイアと間違われてもかなわない。
「大丈夫? あなた?」
しかし兵士は明らかに怯えて手に持たない銃を構えようともがくが最初見えていなかった反対側は腕自体もげている。肩の動きから訓練による両手の構えをとろうとしているようだ。
「ありがとう」
こちらを見てはいるがメイリの声に反応はしない。もちろん救急車を呼ぶ事は出来ない。
メイリ達は無言で兵士から離れて行くがさらに環状線を見回っていると装甲車の陰からいきなり撃たれた。が、メイリは視界の端に動きを捉え銃声が聞こえる前に大きくステップしてかわす。
「撃たないで。味方よ」
素早くヘルメットを脱ぎ捨てわざと遠くに放ると相手もメイリを認めた様だ。綾奈とイリーシャスは周辺を警戒する。
「貴様がヴァンパイアの女か。俺はお前の事など知らんぞ、くそメスめ。だが元帥閣下の伝言を伝える。俺はそのために犠牲を払ってまで生かされたんだ。機関砲による射撃は終了した模様。敵の兵力多数残存。攻撃は全てアンデットによるものと推察。王宮への直接攻撃不可能。正面玄関の破壊を試みる。健闘を祈ります。以上」
まるで録音されたセリフを読み上げる様に言い終えると両腕をダラリと垂らしたまま前にドウッと倒れる。なんと良く見ると首筋に咬み後らしい傷口がある。直接咬んでの吸血は乱暴とか品が無い、とされているからメイリは皮膚から直接吸い出す。もしくは初めてだったり不慣れだったりする方法だ。傷口を指でなぞりながら
「デヌリークのヴァンパイアに咬まれたとは思え無いけど、まさかルミノフが? あり得ないはずだけど」
メイリのつぶやきをヘルメット越しでも把握したイリーシャスがチラリと目を向けるが無言だ。その時皇成達が合流した。
「元帥閣下はやってくれたぞ。アンデットそのものをどれだけ倒したかは分からないけど機関砲はほぼ撃ち尽しただろうと言うのが彦助さんや他の忍び達の見解だ。戦闘の後半に機関砲による被害が無くなっているのが分かるからな。環状線の上で展開していたアンデットに片っ端しから攻撃したらしい。高架から落とされた車両もかなり有ったよ。アンデットの姿は無いな」
「ルミノフ一人でやった訳じゃ無い。結局部下を洗脳して死なせただけよ。あいつは自分が正しいと思えば見境無く突っ込んで行くし自己犠牲をなんとも思わないのは勝手だけど他のヒトまで同じだと思ってる。だからダンピレスの力を与えたく無かったのよ。なんだか知らないけど使えちゃってるけどね。大バカよ」
メイリもヴァンパイアである以上、ヒトの生死自体は気に病むものでは無い。結果としてルミノフに人殺しさせてしまう事を恐れたのだ。
「もういいわ。彦助さん、正面突破で行くわよ。みんな王宮広場前に集まりましょう」
ヘルメットを脱ぎ捨てているメイリは彦助に向かって少し声を張り上げて言う。
「了解した。全員王宮前広場正面に集合だ。待ち伏せに気をつけて」
彦助の応答がある前にすでに向かい始めたメイリに皇成達も続く。本気になったヴァンパイアにとって15キロ程度など距離の内に入らない。
一行は待ち伏せなど全く考慮しないかの様に出来る限り真っ直ぐに王宮へ向かう。王宮正面に対して裏側に近い位置の環状線にいたメイリ達が広場正面に着いた時には忍び達はすでに到着していた。
そして正面に立ったメイリは王宮玄関前の階段に何かの物体が転がっている事に気づいている。
何かの物体、では無い。
ルミノフ元帥の、おそらく上半身のみだ。
生きているにしろ死んでいるにしろ、またメイリ達にこれからルミノフをダンピレス化させる時間と能力があったとしても手遅れだ。
ダンピレスとて、失われた身体のパーツが再生する訳では無い。足だけが飛ばされたのであればまだ生き続ける見込みも有るが明らかに腹から千切れている。
「元帥閣下……玄関にたどりついたのか……」
皇成がつぶやく。
そして全員がインカムを付けていないメイリの声をヘルメット越しにはっきりと聞いた。メイリは叫んだ訳では無い。頭や心に直接聞こえたのかも知れない。
「ルミノフ、バイバイ」
次の瞬間、大気にバシッと亀裂が入った様な衝撃が走る。
忍び達も含め皆が自然と恐怖と言う感情を物理的に知覚したような錯覚を感じ百戦練磨の戦士達が反射的に身をすくめる前で、メイリが輝いていた。
髪の先が静電気にさらされた様にゆらゆらと逆立ち白銀に光る姿は美しい。
しかし正面から顔を見た者は例外無く恐怖するであろう、文字通り鬼の形相だ。
「アーニアアアアア」
自らの母の名をこの上も無いほどの憎しみを込めて叫ぶ。
フッと姿が消えると次に皆が知覚出来たのは50Mも先を真っ直ぐ王宮へ向かっている姿だった。
ヴァンパイアにすら知覚させないスピードで突撃を開始したメイリ。
皇成達も後を追って王宮に向かう。
メイリがもう少しで王宮玄関に着くその時、左右と前方上方から激しい弾幕が襲ってきた。
罠の口に飛び込んだ形になったメイリ達。
只の弾幕では無く広場の忍び達が移動中だった辺り20Mの範囲に隙間無く何丁もの機銃を使って弾で埋め尽くす対ヴァンパイア用の攻撃だ。
いくらヴァンパイアの移動速度が速くても瞬間移動する訳では無い。弾幕の中心付近にいた者はどんなに速く回避行動をとっても数弾につかまり被弾する。
メイリは先頭にいたゆえに一発も当たらず玄関に激突して扉を内側に吹っ飛ばして突入する。
続く皇成、綾奈、イリーシャスは何発かが身体をかすめ、多少被弾もしていたが痛みを意識する間も無く玄関に辿り着き突入した。
その後ろにいた忍び達10名以上が弾幕に捉えられてはいつくばるがしんがり付近は進路を変えてかわす。
はいつくばった忍びヴァンパイアは決して致命傷では無かったが絶え間無く降り注ぐ銃弾を浴びる内に消滅する者がいる中で、とにかくアンデットの位置をつかみ向かって行く。
避けきったしんがり組に彦助もおり、広場を囲む意匠の柱の陰から射撃するアンデット共を後ろから回り込んで切りつけ一撃で真っ二つにぶった切り消滅させて回る。
正面からの射撃は王宮建物の中からなので攻撃する事が出来ない。
外に出ていたアンデット30体近くを倒して行くが忍び達も10名程度を残してやられてしまった。時機に建物からの射撃も止み忍び達は一旦広場後方に下がって態勢を立て直そうとするがそこにまた強烈な弾幕が襲う。
明らかに忍び達の動きを読みアンデットの犠牲をかえりみず効果的な攻撃が出来る様にコントロールしている指令者がいる。そして第2撃の集中砲火は忍び達を確実に捉え塵へと変えて行った。
彦助とバス組だった九の一だけが弾幕から抜け出し撃ち続けるアンデットの後ろに回り滅していく。広場に出てきたアンデットを全て倒した時にはまともに動ける頓宮一派は彦助と忍び唯一の女性だった九の一だけになっていた。
王宮に突入したメイリ達はかなり広い空間を前にして足を止める。綾奈がマシンガンを構えて辺りを窺うといきなり撃ち始めた。50M先の標的でも命中誤差5MMという現実離れした射撃術で柱に隠れたアンデット気配で察して柱ごと穴だらけにしていく。
メイリや皇成が綾奈の射線を無視して前方に出るが巧みに引金を放す事で決して二人には当てない。
イリーシャスは綾奈の背後に立ち綾奈への直接攻撃を警戒していた。
綾奈の射撃術がますます神がかり、ほぼ撃ちっぱなしでアンデットを捉えている。目に姿が認識出来ないスピードで移動するアンデットを捉えているのだ。
もし、この場にヒトがいたならば目に見えぬ相手にひたすら撃ち続ける綾奈、その背後で戦闘態勢を維持するイリーシャスしか確認出来ないだろう。
皇成とメイリは奥から3体単位で現れ続けるアンデットを直接攻撃しているが、移動速度が目に見えないアンデットに追いつき滅しているのだから当然2人の姿も見えない。
2人が討ち漏らしたアンデットを綾奈が捉えてマシンガンを振り回す腕の動きが異常に早く、さらに奥二重の可愛らしい目の中で赤く色付いた眼球に瞳が物凄い早さでアンデットを追っている。
その視線に合わせて動く腕もかろうじて残像が見えるスピードで絶え間無く照準を変えており、全弾命中とはいかなかったが8割はアンデットを捉える。外れた2割もただ外したのでは無く牽制に使っている。
ただアンデットは防御の概念が無いのか弾幕に飛び込んで来ることもしばしばでそこまで踏まえての射撃でもある。
綾奈が持ってきた弾は100発の弾倉を40本、実に4000発もの弾丸だったが、すでに3000発以上を撃っていた。
銃身は赤く焼け、銃身が短い仕様だから銃も使えていたが、長ければ飴の様に溶けて曲がっていただろう。
機関部も熱を持って暴走を始めており引金を離しても勝手に撃ち続ける時が出て来た。
綾奈にとっては無駄弾が増えるだけだが皇成とメイリに当ててしまう可能性が有る。
皇成とメイリが綾奈とイリーシャスの側に戻ってきた。
綾奈は射撃を止めてマシンガンを冷却する。
「一体どのくらいいるのかしら。もう100体以上は倒しているわよ」
一定以上身体が損傷すれば塵になってしまうため倒した身体が100体転がっている訳では無い。広い部屋全体にうっすら塵が舞っているだけだ。
「外の連絡が途絶えたよ。様子を見に行こうか?」
皇成がインカムから音が途絶えてしまった事を気にしている。
「無用な気遣いに無用な危険よ。必要ない。彼らはヴァンパイアよ」
メイリが即座に否定する。ヴァンパイアはヒトの命に興味が無いだけで無く自分達のそれにも関心が薄い。
特に忍び達はほとんどがメガリオであり400年以上生きている。
戦いの中で死ぬのなら悔いは無いのかも知れない。皇成が危険を犯して何かを確かめる必要は無いのだ。
「弾が勝手に出ます。もうマシンガンはダメかも知れません」
綾奈がメイリに報告するともなく告げる。
「使えないと思ったら捨てなさい。銃が無くても綾奈なら剣で十分対処出来るけどイリーの後ろにいて。もうかなりの活躍はしたわ。これは命令よ」
「うん。わかりました」
綾奈の力を信じていない訳では無い。単に心配なだけだ。
発現状態にあり頭脳もヒトより明晰になっている綾奈は無駄な問いかけでメイリを困らせたり疑問など抱かない。
「また出て来ているな。どうするメイリ? このまま戦い続けるか?」
「そうね、この部屋を突破しても前から来られたら挟み討ちよ。出て来なくなるまでやるしかないわ。」
「だんだん面倒になってきた。一気に片付けられないもんかね」
トンファーを握り直しながら皇成が呟く。そしてヘルメットを取った。
「メイリの声が良く聞こえた方が便利そうだ」
「後悔しないでね。行くわよ」
再びダッシュしてアンデットを潰し始めた二人の後ろで綾奈も射撃を始める。しかしマシンガンの調子は決定的に狂っており撃ち止める事が出来ない事が増えた。
綾奈はジリジリと後ろに下がり建物の端近くまで来て両手のマシンガンを放る様に捨てる。
勝手に弾を巻き散らしながら生きているように跳ね回る綾奈のマシンガンを確かめる事なくイリーシャスが綾奈の前に展開し近づいてくるアンデットを文字通り切り刻み始めた。
何百体か想像も出来なくなって来た頃唐突にアンデットは現れ無くなった。再び綾奈達のところに後退した皇成達は注意深く武器は構えながら部屋の奥をうかがう。
「終わったみたいね。アンデットが全滅したかは分からないけどこの上ヴァンパイアまでいるんだから嫌になるわね」
「そう言えばヴァンパイアは全く出て来ないな。意外と弱いんじゃないか?」
皇成がお気楽な予想をするが
「コムネナクラスを別にすればどんなヴァンパイアより今の私達の方が強いわよ。でもヴァンパイアの強さはアンデットの比では無いから油断は出来ない。でも、進むしか無いもんね」
「了解」
メイリが先頭に立ち皇成、イリーシャス、綾奈と続く。




