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―私は普通?な中学生です―

 黒づくめのほっそりした小さなシルエットがビル影に身を潜めている。その黒づくめにとって初めての実戦にもかかわらず落ち着いた感じに見える。


 向かいのビルや前方のビル影にも黒い人影が見えるが身体はどれも大柄で屈強だ。手にアサルトライフルを持ち更に前方を伺う。男女二人に見える影。立ち話しをしている様だが既にこちらの気配には気付いている。それでも気にしない余裕があるのだ。


「3、2、1、GO」


 黒い影達のヘルメットに内蔵されたインカムから指令が飛んでくる。指令を出しているのはほっそりした黒ずくめの前に立ち、その小さな影に比べれば背は高かったが屈強と言うほどでも無い、しかし手に持つマシンガンが身体の一部の様に見える明らかに戦闘慣れした人物だ。


 前衛の三人がビル影から湧き出す様に素早く飛び出しマシンガンを連射する。市街地用に改造がしてあり銃声は小さい。しかしただ立ち話をしていた様に見えていた二人組は一瞬で消えてしまう。


 いや、真っ直ぐ前衛達に向かって消えたように見える程圧倒的なスピードで迫ってきていた。二人組から前衛達までおよそ50M。目には捉えられないがわずかに左右にスェーしながらなので弾も当たらない。


 黒づくめ達もこれが奴らとの初戦では無く予想済みであり前衛は銃を前に構えて連射しながら飛び出したが、直後に左右それぞれに身体を投げ出す様に動いていた。


 前衛が出た2秒後、10M程後ろに待機していた後衛がやはり連射を始めていたのだ。一瞬前まで前衛が占めていた空間を後衛三人から吐き出される銃弾が飛んで行く。弾幕になるように狭い範囲で円を描く様に弾をバラまくと迫っていた二人の動きが止まった。身体に命中した弾のトルクによって前進のベクトルを止められたのだ。身体中に10発以上命中しているはずなのに倒れはしない。


 動きを止めた二人は次の瞬間に左右に散っていた前衛達に迫る。左に飛んだ片方が前衛の一人をハエでも払うかの様に裏手で叩くと車にでも跳ね飛ばされたごとく吹っ飛ばされて10M先に叩きつけられた。更にその先にいたもう一人の前衛に迫る迄にどこから取り出したのかスラリとはしているが大ぶりなナイフを握っている。


 一挙動でナイフを振り上げ前衛の肩口に振り下ろそうとした瞬間、右の二の腕辺りから腕が引き千切れた。


 続いて脇腹がえぐられるように消滅し片足が吹っ飛ばされる。ナイフを握っていた右腕が千切れたので左から振り回す様に放とうとした拳は手首から消失した。


 班員達の最も後ろの方からかすかに、しかし途切れる事無く連射する銃声が響く。


 わずかに相手の身体が離れた隙を突いて襲われていた前衛が強烈な回し蹴りを胴に叩き込むと、あちこちを消失しながら倒れない相手の身体が道路の真ん中に戻される。そこに猛烈な弾幕が襲いかかり肉の一片まで散々になるかと思われた時、身体中が砂状に溶け崩れ文字通り霧散する。


 逆サイドではやはり腕を飛ばされた後に頭が端から消滅していくもう一体の姿が在る。 こちらは頭を潰されてなお緩慢ながら動いていた身体に大量の銃弾が叩き込まれたのだ。


 反対側の一体とほぼ同時に身体が塵一つ残さず霧散したのを確認しても、黒づくめ達は銃を下ろさない。


 もし突然この場に現れる人間がいたならば何も無い空間にじっと銃を構える異様な集団を目撃しただろう。もちろん銃を所持しているだけで十分異様だったかも知れないが。


「終了だ」


 全員のインカムに声が響く。空気がフッとなごむが訓練し尽くされた人間達はそれ以上の感情を表現しない。


「みんな、お疲れ様。この先も戦闘は続く。いや、やっと戦闘を始められるんだ。今くらい喜んだりしてもいいと思う」


 すると黒づくめ達は一様に肩を震わせながら前をじっと見て動かぬ者や俯く者もいる。近くにいた者と握手したり肩を抱き合ったりもしている。


 誰ともなく最も後方に位置していた屈強な者達とは明らかに違う細く、そして小柄な黒ずくめに向き直りピシッと居ずまいを正して敬礼をした。ほぼ同時にほとんどの者が、最後に心持ち遅いテンポで一番小柄な影のの近くにいた背の高い指令を出していた者が敬礼すると、小さな身体もぎこちなく、しかし綺麗な姿勢で額に手を上げた後、崩れるように膝をついて倒れこんだ。




「あふっ」


 3時間目が終わった休み時間、堪え切れない眠気で彩奈は小さくあくびする。


「珍しく眠そうじゃん、あっやなー」


 元気な千亜美に背中を叩かれたのは肩にかからない程度の髪に奥二重で大きめの目が印象的な少女だ。下条綾奈、日本デヌリーク市国立学院中等部2年生だった。


 デヌリーク市国はイレスシス教の総本山と言うべき宗教国家でレアニスト共和国の都市ロムニに接して国土を持つ。国土と言っても法王の座する王宮を中心として広場や公園が存在し、それを取り巻くように2000人程度が住む街並みを持つだけの半径10キロ程度の面積しか無いが、国と定まったのが紀元200年頃とヨーロッパ最古と言える歴史を持ち世界中からイレスシス教会を通じた寄付金の上納があるので財政は豊かだ。


 もちろんその資金は貯め込むでも増やそうとするでも無く布教活動も兼ねる各種学校を展開したり養護施設の運営費に当てられたりする、言わば世界最大にして唯一の慈善事業を目的とした国家でもあった。


 綾奈は幼い頃から両親がおらず日本でデヌリーク市国が展開している養護施設で育った。2年前に綾奈がいた施設が閉鎖になって以来、やはり亡くなっている両親は日本人なのにデヌリーク市国籍を持ち綾奈の後見人である、今年20歳になる下条皇成を兄として名字を下条に変えてデヌリーク市国の援助を受けながら2人で暮らしている。


 生きて行く手段と言う悲壮感は無くデヌリーク市国に大きく感謝しつつ、デヌリークの要請で兄と共に特別な訓練を積む毎日だった。イレスシス教の敬虔な信徒と言うほどでも無いが、幼い頃から親しんだ礼拝は生活の一部である一方で一神教であるレスシス教は多神教である日本の宗教にも寛容で、友達と初詣だって行っている。


「眠そうだねぇ。どんだけ勉強したんですか~それともアニメの見すぎかなぁ」


 いつもかなり元気がいい飯倉千亜美がからんでくる。次に聞いてくるのはいつも同じセリフだ。


「「彼氏でもできたの~?」」


「またハモるし」


 千亜美は下唇を突き出して抗議するがすぐ気を取り直して


「「つか、そうなの~?」」


 綾奈は千亜美のセリフをお見通しで連続ハモ完遂。


「ベソベソ~もぅイイもん。ねえねえ、昨日アリコレ見た?」


 アリコレとはアリスコレクションと言うアニメ番組だ。


「昨日は見れなかったんだ。眠くて寝ちゃった。録画はしてあるから今日か明日見るつもり。」


「そっかぁ」


 だいたい疲れているからとか以前に26:15から放送というタイムテーブルに違和感は無いのだろうか。普通の中高生に対応出来る限界を超えていると綾奈思う。とは言えアニメは好きなのでいつも録画してまとめて見たりしている。千亜美ときたらお気に入りのキャラのお気に入りシーンをキャプチャして高画質紙にプリントアウトし、自作カンバッチにしてかばんにくっ付ける位なので勢いについて行く必要は無い。


 延々とキャラ名を並べ立てる千亜美は成績は中の下なので記憶力使い方が違う気がする。千亜美は深夜アニメを見る不摂生が祟るのか授業中はいつもウトウトしているが綾奈は真面目に受ける方だからいつもはなんとかノートは取っていてテスト前にノートを千亜美に見せたり写させたりするのは恒例行事だ。綾奈は罰としてコンビニコピー禁止令を出して苦労して手写しさせるのだ。もっとも貸出して一晩単位で持ち帰っているのでコピーしているかもしれない。意地悪するつもりでは無いから問い詰めたりはしないが。


「あっ授業始まっちゃう」


 トイレにでも行くのかパタパタと立ち去るあくまでも明るい千亜美はよく笑うし結構可愛い。ちょっと鼻が丸いけどくっきり二重でクリクリした目は愛嬌の塊だ。


 それでも彼氏どころか友達すらあまり出来ないのは極度のアニオタだからだ。主に深夜アニメ派でBLは好まないが民放コード通っていればOKとか誕プレには「魔物が倒せる剣が欲しい」とかとにかく思考がマニアックに過ぎる。


 それでも世の中アニメ好きで千亜美よりアニメに詳しい男の子などゴマンといるのだろうが


「「クール・ザ・ナイト」の慧さんみたいに優しくて強くてミステリアスで……あっでも柳楽ゴウくんでもイイかもっ」


 慧さんと言うのはアニメの主人公で柳楽ゴウくんは一番人気の実在のアイドルだ。ジャガーズ事務所のアイドル以上にカッコ良くて格闘技は全国大会レベルでなんとなく影があるアニメ好きの男の子など存在するものか。


 千亜美は痛いと言うより壊れているのかも知れず、女の子同士でもあまりつきあいが無いが、虐められる訳でも無い辺りは生まれながらの愛嬌者なのかも知れない。


 うつらうつらしながら授業を終えて放課後になると部活に入っていない綾奈はだいたい真っ直ぐ帰る。校舎を出て校門に向かっていると


「綾奈ぁ。一緒にかえろうよう」


 とアニオタ少女が声をかけてくる。


「そういえば昨日お兄さんが迎えに来ていたね」


「うん。昨日は急な用事が入っちゃって学校には具合が悪くなった事にしてるけど本当はお兄ちゃんの仕事のお手伝いだったの。悪いけどどうしてもって。内緒ね」


 用事は依頼主がデヌリーク市国の様なものなのでズル休みも何もないが、一応話を合わせておく。


「仕事? 中学生なのにバイトしてるの? いっけないんだぁ、何やってるの?」


「私にも良く分かんないんだけど。もともと教会とお付き合いがあってそのお手伝いみたいな。私がやったのは軽い荷物運びとか車の運転席でお留守番とかだよ」


 大嘘だ。綾奈の初出撃であり奴らが確認されたのが車で2時間位かかる地方都市だった為に放課後まで待て無かったのだ。


 常に全国を監視しているがあまりに遠い場合は別の班が対処する。しかし昨日の初勝利によって出番は飛躍的に増える事が予想される。会敵生存率20%以下でしかも敵を倒せた事もないと言うほとんど死刑宣告に等しい過酷な任務。そんな戦闘とさえ呼べない闘いでも志願する元自衛隊員を始めとする班員達。


 それが綾奈の参加で負傷者こそ出したものの生存率100%でしかも対象を完全に撃破したのだから当然出撃要請が来るのは道理で有り必然だった。


「帰りが遅かったから今日は超ネムネムなのよ。とにかく帰って寝たいんだよね」


 綾奈の住まいは学校から近く歩いて20分位だ。千亜美は電車通学なので普段はバスに乗っている。綾奈の住まいは駅と同じ方向だったから途中まで歩いてそこからバスに乗るなり歩き通すなりの下校パターンがあるのだ。綾奈が一緒にバスに乗り駅前に遊びに行く事も有る。


「うん。じゃぁとっとといこうよ。でさぁ、今シーズンはやっぱりゲンクリだよ。原作読んで無かったからソッコー2巻まで読んだけど良く出来た設定だね、うん。可愛いモンスターと怖いモンスターが……」


 ゲンクリとは「元気な陽さんと九里の架け橋」と言ういかにもラノベなタイトルが付けられた今季放送中の深夜アニメで綾奈も千亜美の攻撃に備えて予習していたものの内容は全く分からない。千亜美はお構い無しに話しを振ってくるが答え無くても文句言う訳では無いし綾奈もアニメは好きな方だから彼女の評価で見る作品を決められるメリットは有る。


 別れる交差点で直進する良美に手を振りながら左折して5分も歩くと見えてくるのが自宅の有るデヌリーク市国が所有するマンションだ。


 3階と4階はファミリータイプの間取りで2階は一人暮らし用のワンルームになっていて、綾奈達の他にも班員は住んでいるがほとんどは全く関係の無い賃借人が住んでいる。敵がこちらを探し出して襲撃してくる事は無い為に家賃収入が一種の投資としてデヌリーク市国の資金源になっているらしい。


 1棟はまるごと買っている訳で、お金があるんだか無いんだか分からない話しだったが、綾奈にとってはどうでも良く住まわせてもらっているだけでありがたかった。


 敵。


 それはアンデットと呼ばれる化物だ。元は人間や動物だった事は分かっている。それがヴァンパイアと呼ばれる存在によって過去定期的に増殖し人間を脅かしていた。


 日本で記録が残る最古は平安時代で、より細かくは奈良時代の平城京に遡る。


 死体が動き廻る怪異に遷都を繰り返し、平安の世に阿倍清明が出現した事で陰陽道を駆使して平静を取り戻した。その間およそ300年。


 一体もしくは複数のヴァンパイアの関与により起こされた災厄で有ることはデヌリーク市国では定説になっている。仮に複数であっても最初のヴァンパイアが最後まで関与し、むしろ最初のヴァンパイアの滅亡により収束したふしがある。


 ヨーロッパ地方では魔女狩りのきっかけがアンデットと考えられている。


 12世紀から15世紀にかけて魔女狩りの嵐が吹き荒れたとすればやはり300年、更に18世紀まで続いたとすればトータルで600年なのだが、600年続いたのか300年が2回なのかは研究者によってまちまちな部分だった。


 現在進行中のアンデット渦においてヴァンパイアなる存在は確認されていない。


 アンデットがヴァンパイアによって作り出されると言うのは18世紀初頭のデヌリーク市国研究者による記録によるものである。それによれば人に似た、いや容姿そのものは人間である人間の血を吸う種族が古くから存在し、その種族の吸血行為にはアンデットを生み出す力が有ること、吸血種族は常は平静に人として暮らしていること、吸血種族の一部の者が見境なく人や獣を襲いアンデット化させる事で災厄が起こる事が記されていた。


 アンデットは殺すと言うより破壊する事は出来る。それを滅すると称しているがその時代時々によりアンデットは微妙に能力や性質が違うと思われ、12世紀から15世紀の魔女狩りに現れたそれは特に早く動く訳では無く力もそれほどでは無かったと考えられていた。


 平安時代のアンデットは知能が高く15世紀以降のヨーロッパはスピードとある程度のパワー、そして知能が備わっていたと考えられていた。


 吸血種族の関与については12世紀頃のヨーロッパにおける何らかの書物に基づく見解とされ、史上でもっとも弱かった時期ゆえに研究も進んだと考えられている。


 アンデットは特に陽の光に弱く、直射日光の下では活動はおろか焼けただれるように倒れ消滅する。完全に隔離した環境では消滅する訳では無いが1ヶ月程度でその動きを止める。吸血種族については300年以上活動すると考えられていたがこれについては過去の書物が全ての推測に過ぎない。


 アンデットがただ動き廻るだけなら気味が悪いだけだが人を襲い血を吸う。襲われた人間は死亡するがごく稀にアンデットとして起き上がる事が確認されている。


 ただアンデットに襲われれば身体の損傷が大きく敵としてはそれほど脅威ではない。襲われて起き上がりなお人としての原型を留めるモノはそれこそ稀だしそもそも日本においては焼いてしまう事で対処可能だ。


 アンデットが人の血を吸う事で活動期間が伸びるにせよ300年も動き続けられるとは考えられず、またアンデットがアンデットを増やす事は考えにくい以上、書物に有る吸血種族の存在が信憑性を帯びてくる。


吸血種族を英語ではヴァンパイアと呼び日本語では吸血鬼とも呼んでいた。



 前回の戦闘から一週間が過ぎた。


 この闘いの困ったところは毎日戦闘が起こる訳では無くこちらから攻撃する事も出来ない点だ。


 もちろん毎日戦闘状態では身も持たないが、存在が想定されるヴァンパイアの捜索は行なってはいても何の手がかりも無い。張り巡らせた監視網にアンデットがかかった時に出撃だがデヌリーク市国の一部が300年戦争と呼ぶアンデットとの戦いも300年の内何十年もあるいは何百年もアンデットが出ない時期も有ったらしい。


 そうなると国家であろうと民間であろうと300年間に数回しか出番の無い特殊な戦闘力を維持するなど現実的には難しい。この1000年近い間、継続的に情報収集を行なっていた組織はデヌリーク市国だけで有りそこには凄さを感じるが他の組織についてはあまりのタイムスパンにやむを得ない事とも言えた。


 今回のアンデット渦は日本で起こった事で有り初期対応は警察が行っていた。その後デヌリーク市国の監視網にかかり、始めはデヌリークサイドの戦闘員を送る話しを入れるが日本政府が事態を信じきれていないせいも有り拒否する。が、警察では全く手に負えない事を悟った後は自衛隊レンジャーが事に当たった。


 しかし10回の出撃で会敵2回、その2回は2回とも3個小隊全滅の憂きめに合う。しかも敵について何の情報も得られず、反撃すら出来ずに日本国における最高の戦闘員が30人以上死亡したのだ。


 日本政府は事態が手に負えない事を悟りやっと専用部隊派遣に同意した。デヌリーク市国も始めはアンデットの能力を確認するためもあり肉弾的な戦闘力は低いが過去文献に通じて悪魔払い経験もあるエクソシストを派遣したがその有用性も確認出来る前に惨殺されしかもデヌリーク市国に送り返す為に火葬はしなかったゆえに1人が起き上がると言う洒落にならない失態が待っていた。


 ここで登場するのが大英帝国でありデヌリーク市国の要請ですぐに実戦部隊を派遣してきた。


 既に日本政府の手を離れて全ての事態の責任はデヌリーク市国が担保する確約とともにこの問題に関する動きに関しては実質治外法権となり、ロシア連邦からも特殊部隊も送り込まれた。


 国際的に閉ざされたソビエト連邦時代に、何らかの、恐らくアンデット増植が有ったらしくデヌリーク市国の指揮の元、大英帝国と組んで初期作戦には大いに貢献してくれたのだ。


 そんな世界規模とも言える撃退作戦も、結果としては全ての、本当に全ての会敵を経験した戦闘要員が死亡するに至りまた日本政府に話しが戻って来たのだ。


 過去いかなる時期に現れたアンデットよりも速く、パワーが高い。デヌリーク市国がその結論を出した後に結局日本政府はデヌリーク市国が組織した対アンデット部隊である赤を殲滅する会の日本支部に補助金と超法規的立場、志願前提の自衛隊員の提供を約束したのだ。赤を殲滅する会自体は古くから対アンデット作戦を担ってきた機関だが、日本支部は無く急ぎ組織された。


 下条皇成はその特異な生い立ちからくる戦闘経験により副支部長兼戦闘班班長として、綾奈は偶然発見された特殊な才能により、訓練を経て実戦投入され目覚ましい成果を上げたところだった。



「おっはよぉ~」


 相変わらず元気な千亜美がキャラクターのプリントされたクリアファイルを手に近寄ってくる。あるコンビニで対象のお菓子を2コ以上買うと貰える物で5種類の内4種類をコンプリートしたと自慢された。後1種類は好きじゃないキャラなのでいらないそうだ。


 深い。


「これからは銀河のアークリスだよ。最初ダルだったけど宇宙に出たら俄然スピード感でてさぁ。」


 男の子モノだろそれ、と綾奈心のツッコミ。


「うーんロボットとかそういうのは私は……」


「ロボットじゃないよメタルアーマードだょ。結構凝ってるんだよねぇ作画がさぁ」


 駄目だ。独壇場だ。しかも言語形態までアニオタに入りつつある。綾奈が再び心のツッコミを入れた時に携帯が鳴る。皇成だった。


「人気の無い所に移動して電話してくれ」


 皇成は素直で基本的にごまかす事を知らない。その声は十分緊張を孕んでいた。校舎を出てコンクリ敷の渡り廊下に出で逆電すると案の定だった。


「アンデットが確認された。数は少なくとも5体。10人は襲ってフラフラしてやがるとの事だ。油断して近づいた偵察が1人瞬殺されたらしい。ちょっと地方の都市だから街へ通じる道路は警察が封鎖したみたいだ」


 アンデットは人を襲うだけで逃げたりしない。廻りに人がいなかったり襲う気が無いときはフラフラしているだけなのだ。偶然も手伝って一度だけ確保した事もある。


「始まったかも知れん。すまん。後でな」


 綾奈にはいつもの時間が終わりを告げたのかも知れない予感が有った。全てでは無いが作戦会議に出席する事はある。赤を殲滅する会の見解ではある程度まとまった数の出現が予想されていた。今までの出現がいつも1、2体なのは何かの準備期間と考えられていたのだ。


 手早く担任に早退を告げるが誤魔化している余裕が無い。


「急な用事で兄に呼ばれたので帰ります」


 と綾奈は言い残し、教師の返答を待たず踵を返していた。





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