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19/23

―青春おじいさまと呼ばせてください―①

 前回の全滅で国連デヌリーク対策会議は完全に麻痺していた。一晩で500名近い部隊が全滅、機関砲を手撃ちだの移動スピードが目に見えないのと言われれば作戦の立てようも無い。


 それだけの犠牲が出て敵の陣容はおろかアンデットの数の手がかりすら無いのだ。


皇成達は一昨日、結局サーガス駐屯地まで移動し着いたのが昼を大きく過ぎた時間になってしまった。


 着いたとたんに50名との勝負を宣言されどこから持ち出したのかゴム製のトンファーを渡される。そして髪を白銀に変えるほど力む必要も無く5分ほどで50名全員に手を上げさせたのだ。


 50名の隊員達も皇成は仲間であること、しかし殺す気で挑んで良い勝負であること、さらに勝てないと思ったら早々に降参して構わない、それだけ相手が強いと思えば、と言われていたらしい。


 もっとも屈強な軍人50名と一人で勝負する時点で普通の人間では無いと知れる。この企画は兵士達にヴァンパイアの本当の強さを見せておきたい元帥が話の流れを利用したのだった。


 勝負を終え兵舎で一休みしていた皇成のところに兵士二人が来てルミノフ元帥が呼んでおり一緒に来て欲しいとの事だ。あくまでも丁重である。


 兵士は肉体的な強さに敏感であり階級の壁は越えないものの評価は高くするものだ。階級下であっても純粋に強ければ軽んじたりしない。


 もっとも命令権が上位の者に有る以上、危険なポジションに回される役回りになりかね無いが。いずれにせよ皇成は部隊の者ですら無いので、尊敬されまた畏怖の対象になっていた。


「失礼します」


 ピッと背筋を伸ばしてノックの返事を待ってから兵士がドアを開ける。元帥の専用執務室のようだ。西側であるスエリ国の基地においてロシア連邦軍は外様になるはずだが威厳と言うものは世界共通なのだろう。


「皇成君、か。今日はご苦労だった。ヴァンパイアの動きを身を持って体験させたかったんだ。ありがとう」


「いえ、そんな。でもそんな話しならはっきりおっしゃっていただければ良かったのに。メイリの話しなんてどっちに転ぶか分からないんですから」


「メイリ様は分かっておるよ、私の希望はな。その上で君をからかったのだろう」


「えっ? いつ打ち合わせたのですか?」


「会話したのは君の前でが全てだよ」


 元帥の皇成に対する呼び方が貴様から君に変わっている事に気づきつつ


「そんな。会話の中では一言も有りませんでしたよね? いくらなんでもあれで察するなんて」


「ハハハ。では君にも不可能かね?」


「いや俺は……自分にはダンピレスの力がありますからメイリとは多少意識を通わせる事が……ってまさか元帥閣下もダンピレスに?」


「違うな。でも正解だ。当時メイリ様に一回だけ血を吸われた事がある。それからは普通の人間よりは確実に力が強くなりまた気持ちを読む術に長たのだよ。ここまで出世出来たのもそのおかげだ」


「メイリは元帥閣下もダンピレスにしようと……」


「どうだろうか。しかし一度吸われてしばらくした時にはっきり言われたよ。私はダンピレスになるべきでは無く人間の中で生きて行けとね。一緒に時を過ごして行けないとも言われた。ショックだったなぁ」


「元帥閣下はメイリの事を?」


「当時私は20歳そこそこだ。彼女はそれでも60年以上生きていたと思うが見た目が、まぁ、あの通りだからね。それは夢中になったと言っていいだろうな。ダンピレスになるには3回吸わねばならないとも聞いていたが1回だけで振られた訳だ。もっともずいぶん後に当時の彼女にはその力が無かった事を他のヴァンパイアに聞いてね。なんと言うか出来ると張った見栄をごまかす為の方便だったと少し喜んだ事もあった」


「メイリの今の歳でも無理みたいですよ。実際自分も完全にダンピレス化した訳では有りません」


「うん、なるほどな。しかしやはり彼女は君を選んだのだ。わすがな時間だが二人の側にいれば分かる。君は彼女と心を通わせるのにどのくらい時間を必要としたかね?」


「一瞬、だったらしいです。もっとも自分は普通の人間でしたからメイリの気持ちは最初分かりませんでした。分かる事が出来る事が分から無かったと言うべきでしょうか。イリーシャスさんに教えられた部分も有ります」


「そうだな。ヒトにとって心が読めるなど薄気味悪い超能力か何かの様なものだ。人間同士でも心の読み合いはするがむしろ上辺を撫でているようなもの、ヴァンパイアは本心をいきなり感じ取る。私にも出来るから思うがこれはこれでつらいものでな、連中があまり大きく群れないのも分かる気がする。人間同士は上辺に気持ちを塗り固めてごまかしごまかされて生きている様なものだがそれらが一切通用しないのだからな」


「閣下は非常に情熱的な働きをされたと聞きました」


「どんな話しかな?」


 皇成はメイリに聞いたルミノフの当時の働きを簡潔に伝える。


「まぁ、それはそうだが続きがある。彼女達専任付きとして各部隊を回り直接指揮官に話をつける役になった。当然どこでも圧倒的な活躍でそれまでたった1体に中隊が全滅に近い損害を出していたものが運の悪い初期会敵で惨殺される以外はまず死亡者を出さなくなった。それは素晴らしい事だったが特にメイリ様達が美しい女性だった事もあってある将校が陰で魔女呼ばわりを始めたのだ。今のメイリ様が言われても何の痛痒も感じ無いかも知れないが当時はひどく気にして落ち込んでな。ある戦闘で気が入らず大怪我まで負ってしまった。戦闘は怒り狂ったイリーシャス様が10体だかのアンデットを倒してすぐ終わったしメイリ様の怪我もヒトならまずいほどの深手だが、まぁ、丈夫だから極端に心配するほどでは無い。しかし当時私も若くてな、その陰口を叩いていた大尉を殴り飛ばしてしまったのだ。一等兵の私がな」


「いやぁ、それはいくらなんでも」


「うむ。一兵卒とさえ言えない若造が各部隊で指揮官と直談判しているだけでも白い目で見られていたところだ。その大尉も顔じゅう包帯だらけで私も逮捕されてしまった。しかしその後メイリ様始め全てのヴァンパイア達が戦闘をボイコットし始めたのだ。しかもデヌリーク本国経由で事の経緯を上層部にネジ込んでくれた」


「当たり前でしょう」


「そうかな? 今の私も君もメイリ様の事を知っている。だが本来ヴァンパイアと言うものはヒトの死にすら無関心なんだぞ? アンデット殲滅も彼らなりの理由も有る様だが基本的にはデヌリーク市国の依頼を受けているだけであってヒトが苦しんでいるからでは無い。銃殺にでもされればともかく牢屋に入って軍人としての将来が閉ざされたなど靴紐がほどけた程にしか思うまいと思っていたし、まさか助けられるとなど期待どころか想像もしていなかったよ」


 そうかも知れない、と皇成も考える。自身がダンピレスとなりつつある今、すでにヒトとしての考え方は薄れて例えば死について恐れる気持ちが無くなって来ている。死に対する意識が無ければ恐れを感じる場面も大いに減るだろう。


 まして牢やで1年拘束されたところで失われる時間としてはごくわずか、おまけに皇成にとってなら脱出は自由自在としか思えない。困れ、と言われる方が困る。


「しかも釈放されただけでは無かった。ヴァンパイア達が皆私の命令でしか戦わないとまで言い始めたのだ。上層部はとにかくヴァンパイアに動いてもらおうと部隊を率いる為に私を中尉に特進させ国家情報局に出向させた。当時国家情報局に所属していれは将軍にすら意見出来る時代だったからな。その後血を吸われた事による能力向上と合わせて私が今の地位に有るのは彼女のお陰と言うわけだ」


 なるほど、ヴァンパイアがこれだけヒト一個人に肩入れする事は考えられない。当時のメイリにとってルミノフの行動がそれほど嬉しかったに違いない。


「私の昇進を運命付ける力を与えられ、まして惚れてしまった女性がパートナーと決めた男を試したい気持ちは分かるだろう? 別に50人100人に勝てるかどうかは問題では無かった。君にその力が無ければメイリ様が受けはしないからな。ただ、メイリ様やイリーシャス様がいくら強いと言っても女の陰からしか物を言えない奴なら私が認めん。もっともメイリ様に選ばれた時点でそんなことは無いであろう事も分かっていたが」


「閣下に認めていただけたと?」


「認める訳が無かろう。私は歳をとりメイリ様と共に生きて行くことは出来ん。妻も子供もいるしもちろん後悔も無い。だが、メイリ様は私の全ての恩人でありもっとも大切な相手の一人であるには違いない。そんな方を任せて行ける者など存在すると思えん」


 本当は発現するかダンピレス化してメイリの側に居続けたい、しかしメイリが否定した以上、その考えに逆らってまで長い命を得ようとは思わない。


 彼の立場なら他のヴァンパイアに頼んでダンピレス化するきっかけも有ったはずだがそれは論外であくまでもメイリと共に、そんな哲学とさえ言える強い意思が感じとれた皇成だったが、なんの事はないメイリにベタボレと言う事だ。


「長くなってしまったが、言いたい事は一つでな、メイリ様も今更魔女呼ばわりされたところで行動に支障が出る影響を受けるとは思えんが、傷つきやすい女の子であることは変わらん。イリーシャス様も同じだが当時から男装していたゆえに魔女では無くシリェーナの悪魔と呼ばれていた。彼女はその事自体は気にしていなかったがそもそもなぜ男装なのか知っているかね?」


 シリェーナというのはロシア語でセイレーンを表す読みであり歌声で人々を惑わし船を難破させて死体の山を作ったと言われるセイレーンの魔女を模した名付けだろう。イリーシャスの声による攻撃を見ればそんな名も付くかも知れない。


「いえ、知りません。それはメイリも教えてくれませんね。知らないと言ってました」


「ならば私から言う訳にもいかないがあれにも訳がある。恐らく聞けばイリーシャス様をもっとお守りして差し上げたいと感じるだろう。メイリ様にしろイリーシャス様にしろ肉体的にどんなに強くても心はか弱き女性なのだ。守るのは男の役目、それが君に出来るかね?」


「イリ―シャスさんがか弱いのは流石にピンと来ませんけど、やりたい気持ちも覚悟もあります。しかし自分はまだ……お約束するには若すぎるかも知れません」


「いい答えだ。確かに君は若い。だが、メイリ様が選んだ男なら間違いないのだろう。メイリ様を頼む」


「一つお聞きしたいのですがイリーシャスさんはシリェーナの悪魔と呼ばれていてメイリはただの魔女と呼ばれていたのですか?」


「それを聞いてどうするんだね?」


「いえ、どうすると言うことは有りませんが彼女の事を少しでも知りたいので。気を悪くされたのであれば無理にとは」


「いや、いいよ。今となっては誇りに思うかやはり十字架と思うのかな。あの時だって全力で助けた相手に言われたので無ければむしろ喜んでいたのかも知れん。白銀の狂気、白銀の魔女と呼ばれていたよ」


「白銀、そうですか。いい……じゃないですか。むしろ喜びそうですよ。でも、メイリがいやなら二度と彼女を白銀にしません」


 白銀はヴァンパイアの力を極限に放出したとき髪の毛に帯電して放電すると白銀に光る事からだろう。


 メイリ、皇成はもちろんイリーシャスもなるのに通り名に使われると言うことは他のヴァンパイアはならないのか? そうだとするとアーニアの筋だけとなる。頓宮一族にも聞いてみるべきだとも思ったが当時のアーニアは尊敬を集めておりむしろ誇らしい血筋の証明に感じる。


 それにショックを受けたのは時代なのかその時の微妙な心持ちなのか? 聞けるチャンスが有れば聞いてみたいと思った。


「そうだな。私にとっては重大な転機だったがメイリ様にとっては長い時間の一コマに過ぎないのかも知れん。ああ、それともう一つ」


 皇成と打ち解けた様に振る舞っていたルミノフ元帥の顔が引き締まり、迫力が倍付けに上がる。


「私と二人の時にメイリ様を呼び捨てにする事は許さん。そしてこの命令はメイリ様に内緒だ。分かったか?」


 最後のセリフなど怒鳴り声に近い。やはりメイリにベタボレの青春ジジイだ。


 皇成は姿勢を正し敬礼してごく真面目な顔つきを作って


「了解であります、閣下」


 と応じて部屋を後にした。


 次の日の皇成達はロシア連邦の戦闘車両部隊に拡散バリスタ砲を手動照準する訓練を施した。


 もとより割合は少ないながら3: 7程度には手動照準の訓練はしている。コンピュータ制御の技術水準はそれなりだが予算の関係でメンテナンスが行き届かずフルオートは故障が多い。


 それでもせっかくつけたのだからと訓練させられる兵士もある意味気の毒だが演習の中心はフルオート照準だ。


 それはともかく少しでも手動の手順を繰り返しておけば戦場で致命的な初期戦闘におけるタイムラグを減らせるので皆真剣に挑んでいた。同時にルミノフ元帥の分析による作戦会議も開かれる。


「以上の理由からアンデットは自ら高度な制御を会得したのでは無く一ないし複数のヴァンパイアから指令を受けて連携行動をとっているものと思われる」


 元帥はアンデットが急に独立した知性を会得したと考えるよりも単数もしくは複数のヴァンパイアが直接行動を支配していると考える方が自然であるとの意見を披露したところだ。


「なるほど、それであればヴァンパイア達が一ヶ所から動かない理も説明はつくしこちらも考えていた事です。指示をするヴァンパイア達が危険な外に出て来なければアンデット共はデヌリーク王宮を中心に一定範囲しか行動しないと仮定出来ますね。ヴァンパイアが戦闘すればいいが戦闘とコントロールの両立は難しいのかも知れない」


「ヴァンパイアの間でもアンデットはタブーだからその能力はそれほど研究されている訳では無いわ。私だって50年前のロシア連邦と今回の日本の例しか知らないしね。イリーシャスはもう少し知っているから昨日話し合ってみたんだけど確かに元からアンデットは作成したヴァンパイアの近くでのみ行動していた気がする。例外はあるけど本来自律行動は可能でも今回の様に極端な集団性を発揮しているのがヴァンパイアによる直接支配である事は間違いないで良いのではないかしら。私たちもヴァンパイアがコントロールしていると思っているしね。その線で作戦を立てていいと思う」


 彦助とメイリも見解を一致させた。


「どのくらいの範囲か、の想定は不可能だ。現時点でのデータからするとこの環状線までの活動報告がありおよそ半径15キロと言った距離だが本来活動限界についてデータが無いのだから目安にはならん。だが、逆にデータが無い以上ここを暫定的に目安とするしか無い」


「そうですね。デヌリークの100キロ手前から一級の警戒態勢で進軍していたら中心に辿り着くのに3日はかかってしまう。むしろ多方面から最大速度で一気に環状線まで入り込むのはどうでしょう。道路を封鎖してせいぜい20台づつの班に分けて一気に現地入りする。万一待ち伏せされても被害を分散出来ます」


「うむ。私も同じ様に考えていた。あなたも策士ですね」


「まっ400年やってますからね」


 ルミノフと彦助は意気投合し始めている。皇成も専門分野と言えなくも無いがたかが5年程度のキャリアに出る幕はなさそうだ。


「アンデットが積極的な攻撃に出てくるとしてその方法は?」


 彦助がルミノフに続けて問いかける。今回のデヌリーク侵攻戦の結果については元帥の方が当然詳しい。


「400年か。そうでしたな、失礼した。今回のアンデットはアーニアが元なのだからアーニアの能力も知りたい。メイリ様はご存知ですか? 私の知識は聖母のものしか有りませんから役に立ちませんのですが」


「私もアーニアの慈愛は知っていても戦闘力は知らないわ。でも、昔は戦いの場に出ていた事は聞いた事がある。イリーはどう?」


 イリーシャスは短い時間じっとメイリの目を見つめた後軽くうなずき元帥の後ろに控えていたヒト2人に目をやる。一度メイリに噛まれただけで強いダンピレス能力を得たルミノフ元帥はともかく、護衛のヒトにイリーシャスの声は耐えられない。


「2人とも部屋外で待機したまえ」


 そっけなく元帥は護衛達を追い出す。イリーシャスが語り始めた。


「アーニア様は今回の件は別にしてここ200年位戦闘行為をしていないと思いますが、もともと格闘に秀でた方だったと聞いております。コムネナ様と腰を落ち着けた頃のヨーロッパは各地で戦争が頻発する状況でした。ヒトの営みには関心を持たぬはずですが故郷日本の戦乱の世と重ね合わせ、争いを強制的に終了させ民を荒廃から救っていた時期が有ります。航空機はもちろん銃器すら発達する前ですから剣を取り片方あるいは双方の将のみを討ち取ったりコムネナ様と共に当時国の城に乗り込み談判するなどの行動を通じて戦術や戦略を学んだと思われます。あまりの豪胆さに魔女狩りの対象にすらされず、アーニア様が現れた後にはいかなる戦乱も治まると言われた時期もありましたが、その後のいわゆる世界大戦は規模があまりに大きすぎ、また産業革命に続く各種兵器の登場で穏便に事を治めるのが難しくなってきた為に、ちょうど仲が深まっていたデヌリーク市国の後ろで孤児院の資金を出すなど慈善事業にシフトしていったのです。今この場でアーニア様の功を説くことに意味は無いと思いますが、私自身アーニア様が戦場を駆け巡っていた最後の頃に拾われて今が有ります。もはやアーニア様を弁護する言葉は有りませんが、そんな頃もあったと言うことは重ねて申し添えさせていただきます」


 淡々とした口調にアーニアへの消せない思いも感じられたが誰も反応する訳にはいかない。アーニアは大量殺人を犯しているのだ。元帥が部屋から追い出した2人を呼び戻す。


「ありがとうございます、イリーシャス様。アーニアは優れた軍人でもあると考えるべきですな。一番厄介なのは手持ちで移動しているという機関砲だ。あんな物を地上戦に持ち込まれたら近づく事すら難しい。ヒトはどうする事も出来んし貴方達ならかいくぐる事は出来るだろうが当たればただでは済むまい」


「確かに銃弾とは比べられないでしょうがそんなに威力が有るものなんですか?」


「対アンデット用に改造された対地MK―7機関砲は一発でアンデットを行動不能に出来るように威力を上げてあって戦車も貫くわ。弾頭を炸薬タイプにすれば車一台一発で吹っ飛ばすしね。言うまでもないけど拡散バリスタ砲より射程はずっと長いわね」


 エリコム社で武器開発していたメイリが彦助にレクチャーする。


「国連軍はそんな兵器の只中に突っ込んで行ったのなら勝てる道理が無いな。もっとも分からないものはわからなかったのだから彼らの犠牲を無駄にしない事を考えるしかない。しかし草原を回避行動しながら近づける訳で無し、各道路を環状線から狙われれば射線を辿るようなものだ。分散して突入するにせよ何割りかとは言えを特攻とする事は出来ん。それに遠距離射撃で効率良く潰されて移動が早ければ辿り着く事が出来ない可能性もあるか」


 極論では有ったが考えるべき流れかも知れない。一同に行き詰まった空気が流れる。


「弾のストックはどうなんだ? エリコム社にどれだけストックがあったんだ?」


 皇成の軍歴としての所属はゲリラ部隊だ。ロシア連邦と言う大国の正規軍である元帥には大規模な籠城戦ならともかくこの程度の攻防戦での物資不足は想定しない。しかしヴァンパイア側は少数少部隊で立て篭ったのだから当然計算すべき事柄だ。


 忍び達に至ってはそもそも補給を必要とする武器を用い無いのでやはり残弾とは考え無い。銃本体より弾が重要で粗悪に製造された弾を使って暴発し負傷する者がいるくらいだから常に残物資の心配は付きまとっていた皇成らしい発想と言えた。


「なるほど、機銃弾ならともかく機関砲弾はおいそれと手に入らん。重機関銃弾は籠城前に補給したとしても機関砲弾はエリコムに在庫していた分のみで間違い無かろう。メイリ様、どの程度だったかお分かりになりますか?」


 ルミノフから聞かれたメイリはイリーシャスと視線を合わせるがイリーシャスは小さく首を横に振る。


「それはさすがに分からないわ。でも弾もそれほど長期間保存するのは良くないと聞いた事が有るから極端に多くは無いと思うけど」


「うむ。エリコム社の最近の取引情報を調べてくれ」


 後ろに待機していた兵士に声をかけ一人が足早に部屋をでる。


「前回の国連軍全滅でも相当消費しているはずだ。アンデットはともかくヴァンパイアと戦えるのがメイリ様達しか無いと考えれば我々が先陣を切って無駄弾を使わせるのも作戦ですな」


「ちょっと網録したのルミノフ? ヴァンパイアだって一撃で倒せる機関砲の掃射をどうやったらヒトが対処出来るのよ? もういいわ。やっぱり基本的には私達が侵攻する。貴方達がどうしても着いて来たければ止めないけど後詰の援護部隊よ。やっぱりヒトの手に追える連中じゃ無いって事ね。以上おしまい」


「急にどうしたんです? メイリ様」


 ルミノフは慌てて問いかけるが


「だって貴方達との共同戦線は障害が多すぎる。私達だけなら王宮にたどり着く事自体はそれほど難しくないわ。対アンデット兵器をヴァンパイアを知り尽したアーニアの指揮で向けられるのはゾッとしないけど貴方達は100%殺られるだけ。私達はどうにでもなるし、どの道私達の戦いなのよ。ヒトの出る幕は無いわ。彦助さん、明日午前9時に出発する。天気は?」


「一応晴れですね」


「ならダラダラ時間を浪費する事は無いわ。ルミノフ、ありがとう。後は私達に任せて。万一、私達がやられたらその時こそ命をかけてちょうだい。以上よ」


 陽が出ていればアンデットの動きに制限が加わる。9時出撃は一見遅い時間だが何らかの手段でこちらの動きが監視されていた場合、既に陽が上っているためアンデットの展開に障害となるかも知れない。


 天気の確認を聞いただけでそれだけの思考を得る皇成は確実に脳の活動もダンピレス化しているが誰も誉める事も自身で満足する余裕も無い。


「待って下さいメイリ様。貴方に危険な賭けを負わすなど私には出来ません。せめて我々を盾に」


「うるさい網録ジジイ。貴方はいいわよ。でも貴方の命令で従わされる兵士達はどうなの? 死にに行く事を命ずるようなものよバカ。行くわよ皇成、彦助さん。せいぜいバスの燃料を満タンにでもしておきましょう」


 言いながら立ち上がり部屋を出て行くメイリ。慌てて着いて行く皇成と元帥に目礼する彦助、あくまでも無表情なイリーシャスが続く。


 ヴァンパイア並の能力を持つアンデットにヒトの力では対抗出来ない。そんな大昔から分かっていた事実を確認したに過ぎ無い時間だった。


 しかし、ルミノフ元帥は何か思い詰めた様子で机の一点を見つめ続けていた。





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