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―ヒトじゃ相手にならないよぉ―③

 一人掛けのソファに深々と座り高々と足を組んでいる。背が大きい訳では無いから見方によっては痛々しい虚勢とも見えるが不思議と様にはなっていて顔つきも尊大だ。


 そして部屋に入ってきたのは国連事務所の建物ですれ違ったルミノフ元帥だった。その肩書きが無くとも十分に相手を威圧する迫力をまとった老軍人だ。2名を従えているがその付き人は全くの無表情で何を考えているか分からないままピタリと元帥の後ろについて微動もしない。


「えっとお茶でも」


 となんだか異様な雰囲気に耐えかねたのか綾奈が柄にも無い気遣いを見せるが自宅では無いし日本のホテルの様にポットが用意してある訳では無いのでそもそも不可能だ。


 それよりも綾奈の動きに護衛の兵士が反応して銃に手をかけると皇成が綾奈をかばう様にスッと前に出る。


 その間も元帥とメイリはジッと見つめ合っていた。


「メイリ……様……」


 先に口を開いたのは元帥だった。


「お久しぶりで……ございます……。本当に……お変わりなく……」


「衛兵を外に出せ」


 メイリがどんだけ偉いのかと思わせるほど強い口調で命じる。元帥が振り返りもせずわずかに手を振ると敬礼して兵士達が退出していく。


 いわゆるホテル錠なので外からはカギを使わ無ければ開けられない状態になる。


「お変わりなくですって?」


 来客の察知から始まったふてぶてしさから急にいつものメイリに戻って


「あったり前でしょヴァンパイアなんだから。朦録したわねえルミノフ。一見元気そうなのにかわいそお」


 とニコニコしながらまくしたてる。


「50年はヒトにとって長い。朦録しているつもりはありませんがここまで変わらないメイリ様のお姿はなんとも感無量と言うか、なんですな」


 急にくだけた様子になる2人を見て


「えっと元帥さんとメイリさんはお友達ですか?」


 綾奈がおずおず脅えた様に質問するが無理は無い。どんなハンデをルミノフにつけようと闘えば綾奈の方が強いだろうが、それ以前ににじみ出る迫力が違う。


 自然に畏怖させる戦士の空気をバンバン発散させておりまがりなりにも軍隊経験のある皇成も動きがぎこちない。


 雲の上の上官が目の前にいるのと同じなのだ。綾奈の質問を無視して元帥が続ける。


「イリーシャス様もお変わりなく。この度は大変な事になりましたな。私も下手に触らぬ様に働きかけて来たつもりなのですが力及ばず恥ずかしい限りです」


 笑みを浮かべながらゆっくりうなずくイリーシャス。皇成にもだんだん状況が読めてきた。このジジイとメイリ達は仲良しなのだ。


「それで? 何の用で来たんです?」


「貴様とは話しておらん」


 話しかけたは良いが柄にも無く少しビビッてしまった皇成。なんとなく気に入らなくてつっかかってみたもののあっさり玉砕して珍しくシュンとなって一歩下がってしまう。


「ちょっとルミノフ? 皇成ちゃんいじめたらどうなるかわかってんでしょうね? なんなら部下100人相手にしてやってもいいんだけど?」


「メイリ様と戦うのは結構ですがそこの男は女性に守られて生きているのですか?」


「あらあ、50年ぶりに会ったら憎まれ口だけ上等になったわねえ。いいわ、皇成、私がこのスカタンの部下100人に襲われる事になったから助けてよ」


「ちょっとマテ。どう考えても話の流れがおかしいだろ? つか意味分かんないし」


 メイリの思惑が分からない皇成だったが考えてみれば良くある事だ。


「彼が? そんなに強いのですか?」


「ええ、今回のメンバーじゃ一番弱いけど、ヒト100人位ならいけるっしょ。まっいいじゃない、皇成ちゃんが私を守るのはどうせ明日になるから今日は一時休戦、て事で。それにしても良くここまで入って来たわね。誰にも会わなかった?」


「会いましたよ。特段隠れる意味も無いので普通に歩いて来ましたが敷地に入ってすぐ女性に詰問されましたよ。気付いたら後ろに立っていましてね。メイリ様を訪ねる古い知り合いだと言ったら次の瞬間には消えていましたな。もしかして幽霊の正体はあなた方なのでは?」


「やあねえ、人聞きの悪い。幽霊は悪さしないしそんな力もないわ。幽霊に失礼よ」


「そっちかよ」


 思わず突っ込む皇成をルミノフがじろりと睨む。やはり萎縮する皇成は特に腹を立てている訳でも無い。


 敵では無いことは分かっている以上本気で勝てるかどうかは問題では無いのだ。


 皇成が強くなろうと、ダンピレスになろうと実際20年の経験しかない訳であり70年を超えるルミノフには敵わない、と言うだけの事だ。


「バス組の彼女ね。さすがにあなどれないわ。あっんでルミノフは何しに来たの? 皇成ちゃんからかいに来ただけだったら私だって怒るわよ」


 なんとなくちょっと嬉しかった皇成もメイリが続けて両手を招き猫の手の形で拳を半開きし爪を立てる仕草をしながら


「ガオオォ」


 と言った日にはこの世の終りか? ほどに落胆する。所詮メイリは楽しいか否か、可愛いか否か、しか判断基準が無い。


「それは少し冷たいお言葉ではありませんか? 私はメイリ様を忘れた事など1日も有りませんぞ? 恋こがれてとはさすがに大げさですがこれだけ近くにいらっしゃるのならお会いしたくなるのが道理。イリーシャス様にも、ですがね」


「それはそうかもね。これで直接顔を合わせるのは最後でしょうしねえ。あんたは今回の戦いで生き残っても寿命だしねえ」


「変わりましたなぁ、メイリ様。以前も嫌味の強い方でしたがもう救われるレベルでは有りませんね。遠い未来で有るとしても死せれば確実に地獄行きですよ」


「あらあ、地獄に誰がいるか知らないけど私を苦しめるほど強いのがいるのかしら? それなら助けて欲しいけどルミノフはもう転生しまくってやっぱりいなさそうだから皇成ちゃん連れてくわあ。皇成ちゃん、一緒に死んでちょうだいね?」


「えっいや別にいいけどやっぱり会話がおかしくないか?」


「お兄ちゃんしんじゃヤダー」


 幼児返りが始まった綾奈まで参加してグチャグチャだ。それでもルミノフ元帥はニコリともしない。


「で、今回は侵攻しないの?」


「戦闘車両150両を引っ張ってきましたよ。ご存知ですか? 昨日作戦に失敗して今朝帰投予定だった残存部隊は全滅しました。おそらくアンデットだと思われますが機関砲をかついで攻撃してきたようです。それもこちらの状態を調べ上げて最適な展開で、です。これではアンデットかヴァンパイアか正直わかりませんが、かろうじて戻った者が連れてきた死体の斬られ傷は刃物による直接的なものでした」


 突然話題がまともに戻って皇成がズッこける。この人達は何かおかしい。いや、ヒトじゃない方が多いが。


「ふうん。ヴァンパイアとアンデットの区別もつかない連中にこれ以上は無理ね。私達は30なの。どう? 勝てそう?」


「武器は?」


「手持ちは間に合ってるわ。そっちは何を持って来たの?」


「主に拡散バリスタ砲です。少しは改良してますし通常戦闘用にレーダー照準も開発装備しました。威力も上がっていますよ」


「レーダーはキャンセルして手狙いの臨時訓練を。自動照準は100%役に立たないわ。んで……協力してくれるわよね?」


「命じていただけばいいのです。ただあの時の様に、従え、と。貴方の命令順位は私にとって誰よりも高い。未だに大統領に命を救われた事は有りませんからな」


「そ。じゃあ従いなさい。2、3日でカタをつけるわ。何を引きこもってるのか知らないけどウロウロし始め無い内にね」


「御意」


「んじゃ作戦の立案と明日の人選を頼むわね。もちろん強いの揃えてよねん」


「そうですな。残念ながら300名程度しか来ていませんので50名の選抜でいかがですか?」


「ふうん。皇成ちゃん、それでいい?」


「俺? つか最初の話に戻ったの? んでなんで戦うの?」


「またバカに戻っちゃったの? 私がルミノフの部下50名に襲われるからそれを助けてくれるんでしょ? 言っとくけど殺しちゃダメよ? 仲間なんだから」


「うう、ペイント弾でも使って撃ち合うのか?」


「実弾に決まっておる。そんなおもちゃを戦場に持って来ている訳がなかろう? お前には銃など使わせんぞ。ハンデだ」


「オイオイ、そっちが実弾使ったら俺が死んじまうじゃないか? もうなんでもイイよ」


「なんだその態度は? それでメイリ様をお守り出来るのか?」


「いや、つかなんで部下が襲ってくるかって話しだよ。つか、本当にもうどうでもいいよ」


「なんだかふてくされた男だな。我が部下が負ける訳が無い。それではメイリ様、イリーシャス様、今日はこれで戻ります」


「あっちょっと待って。イリー、彦助さん呼んできてくれない?」


 ルミノフ元帥の作戦立案に忍び一派を同行させようと言うもので、彦助も話を聞いて納得した。


 元帥はあくまでもメイリの仲間であって忍び達は関係無い。従って欲しいと頼んでも異論は出ないかも知れないが最初から関わっていた方が間違い無いのは当然だ。


「オッケーオッケー。私達はどうすればいい?」


「前線の駐屯地になっているサーガス駐屯地に行かれるのが良いでしょう。我が部隊もそこにいますし。車で3時間位ですな」


「了解したわ。じゃね」


 元帥は2人の警護と共に帰って行った。


「メイリ、昔の事をあれこれ詮索したくは無いがあのオッサンとはどういう関係なんだ? ずいぶん仲が良さそうだったけど」


「なあにい? やきもちい? 皇成ちゃんはやっぱ可愛いなあ」


「いや、あんなオッサンが趣味なのかと思ってね。変わってるな」


「ルミノフとはまだロシア連邦がソビエト連邦と呼ばれていた頃に一緒に戦ったのよ。当時のルミノフは20歳だったと思うわ。デヌリークの仲介であり依頼だっけどヒト達はなかなか私達を受け入れずに被害の拡大が止まらなかった時に彼の部隊もほとんどがやられてね。たまたま同行していたんだけど私達は出さない方針でヒトが殺られていくのを見ているしか無かった。もちろん気になんかして無かったけどね。その時彼は上官に逆らって殴られながらも私達のところに来て、「友達が殺された。貴方達なら勝てるのか? 」って聞いてきたのよ。ええ、もちろん、って答えたら軍票みたいなお金をいっぱい出してきてこれで動いてくれって頼んできてね。どうもヒト達は私達を頼んだはいいけど現場が受け入れず私達が動くには高い金がかかるって部下に説明していたらしいわ。土下座までして泣いて頼んでいる時にアンデット共が直接攻撃してきて私達にも襲いかかってきた時、彼は夢中だったんでしょうけど私達を身を呈してかばったのよ。私達をよ? すぐ押し退けてイリーがアンデットをバラバラにしてね。命令系統も無くなっちゃったから後はご想像の通り。彼は部隊唯一の生き残り。その後私達に同行して部隊を移る度に指揮官と直談判して私達を前面に出していった訳ね。その後は犠牲者も最小限。一ヶ月くらいで終結。バンザイ」


「ふうん。20歳が指揮官に意見するってのは確かに凄いな。階級は分からんが自殺行為だよ。下手すりゃ懲罰房行きだ」


「私達にもそれくらいは分かってたからね。確かに凄いと言うか情熱的だったわね」


「私がヒトなどいくら死んでも気にしないとの趣旨で発言した時には平手で叩かれました。すでに私達の強さを知っていて、です。もちろんやりかえしませんしだからと言って謝りもしませんがヒトと言うものを少し思い出した出来事でした。ヒトだった頃の心持ちなど薄れていますし私達は死に鈍感ですからね」


 イリーシャスも懐かしげに口をはさんでくる。


「んでさ、皇成。ルミノフがオッサンって事は私はどうなるの? 私の方がルミノフより産まれたの前よ? ババア? そう思ってるの? 前にもお転婆アとかおっしゃってましたわね? 悪かったわね? 年寄りで」


「いや言って無い言って無い。」


「年上……嫌い……?」


 しかしこれは皇成にも分かった。彼なりに進化しているのだ。


「つか気にしてないけど上って表現で済む差じゃ無くない?」


 とうっかりドギマギする偶を回避する。が、


「上……ウエ……そう……」


 とうつ向いて心なしか涙声だ。えっと皇成が思う間もなく


「貴様、またしてもメイリ様を……」


 皇成の背後にいるイリーシャスから低い声が聞こえてくる。


「いや、だからそうじゃ無くて、つかそうだったとしても見た目ぜんぜん子供じゃん? 可愛いじゃん? 一緒にいても自慢出来そうな感じでぜんぜん関係ないしさ」


 失敗した? と思いつつ言い訳する皇成だが


「可愛い? ホント? もいっかい言ってえ。」


 とコロリ変わったメイリを見て「またやられた」と後悔する。


 しかしイリーシャスがキレかかったのはどうした? と思い後ろを振り向くとなんと着替え中で上半身裸だ。皇成に背を向けた状態なので皇成が見たのは背中だが下着も付けていない。


「ちょっちょっイリーシャスさん俺まだいるし」


 と言いつつ目が離れない。


「成り立てのダンピレスに見られて恥ずかしいものなど有りません。と言うか見たいのですか? それはメイリ様の許可を得て下さい。またはメイリ様から依頼を出していただければなんなりとご要望に応じさせていただきますが?」


「お兄ちゃんのエッチ! ヤダ!」


「いや待て待て待て。とにかく部屋から出るから。メイリ、後は明日な」


「明日……何してくれるの?」


「いい加減にしろ!」


 逃げるように自室に戻った皇成だった。




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