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―ヒトじゃ相手にならないよぉ―②

「やっと着いたぁ」


 綾奈はぐったりとうれしいを半々に表しながらニコニコと叫んでいた。


 メイリ達総勢30名がスエリ国に着いたのはコムネナ攻撃作戦実行日の次の日だ。ほとんどの者がエリコム社に向かい国連デヌリーク対策会議の本部があるに直行したのはメイリ達5人だけだ。


 もしエリコム社に有用な兵器が残されていた場合出来るだけ多く運び出す為と、三々五々集まっているというヴァンパイア達がアーニアとの戦闘に使えるかどうか試す為だ。


 頓宮の血の中でも異常に洗脳力が高いアーニアに、他の頓宮程度にいい様に洗脳される耐性では戦地に連れて行く訳には行かない。もちろん行く気など無い者も多いだろうが。


 メイリ達が本部に入ると男の出迎えを受けていた。


「日本国の派遣軍です」


 彦助がもっともらしく名乗るが


「それはおかしい。日本から派遣されたのならせめて隊と言うべきだ」


 と大真面目に警戒される。日本国の派遣と言うのは嘘では無い。直接アメリカに話しをつけて日本の米軍基地からスエリ国に向かう事も出来たのだが頓宮の名前で日本国を通したのだ。


 日本国から米軍機の使用を取り付けその手間賃として日本国の代表を名乗り体裁を保つ様に条件付けられた。頓宮は日本国に頼らなくても目的を達成する事は出来た訳だが、日本国に借しを作れる事には意味がある。


 なんと言っても日本国民なので歳を取らない場合の住民票等々便宜の部分であり、地味な話しだが生きて行くためには必要な事だ。


「日本国派遣は本当ですよ。ただし所属は自衛隊では無く赤を殲滅する会です」


「赤を殲滅する会? まさかマシンガン少女か?」


「ああ、それは彼女ですよ。おっとインタビューはマネを通してもらわないと」


「冗談を聞いている余裕は無いのだ。昨日のコムネナ攻撃作戦が失敗したのは聞いているかね?」


「少し、ですね、移動中だったもので」


 これは本当だった。飛行機で20時間かかるのがこれほどつらいとは予想していなかった一行だ。


 しかも効率優先の軍用機で超大型輸送機だったからスペースこそ広かったが乗り心地は最悪だ。乗り合わせた米軍のスポークスマンが人間の苦戦を伝えに来たがもとより勝てるとは思っていなかったので適当に相づちしただけだ。


 のんきにぐっすり眠っていたのは綾奈だけだった。


「昨日の段階で失敗は確定している。見知らぬ君達に全く歯が立たないと言って良いものか、まぁ誤魔化しても仕方ないし余裕も無いからな。500人近くが殺されても奴らの陣容の情報はカケラも得られない。オブザーバーでこちらから同行したヴァンパイアが狂ってこちらを襲い始めたのだ。2匹のヴァンパイアに全滅だよ。マシンガン少女なら戦いようが有ったのかね?」


 ヴァンパイアを匹で数える表現にピクッと来た一同だが抗議はしない。


 日本国派遣隊は全員がヴァンパイアやダンピレスで有ることはまだ内緒だ。


「どうでしょう。彼女の能力をどの程度ご存知か分からないがヴァンパイアが本気で移動しているものを捉える事は出来ませんよ。他の班員が身体を張って足止めしている相手を狙い撃ちするのです」


 彦助が註釈すると皇成、メイリ、そして綾奈はむしろ彦助の持つ正確な情報に驚いていた。イリーシャスでさえ綾奈の攻撃パターンを正確には知るまい。


「なるほど。確かに止まっていれば可能かも知れませんな。それにしても貴女もお若いがそちらの子供はなんだね? 彼女も赤の協力者だったのか?」


 メイリに対して綾奈を指差して問い正してくる。どうやらメイリをマシンガン少女と勘違いしているらしい。彦助も説明が面倒になって来ていた。


「まあ、こちらの事は追々で。隊員の一部はエリコムを訪問しています。全員で30名程なのですが寝泊まりの空間はお貸し願えるのですか? お察しの通り我々は軍隊ではないので自給自足とはいかないのです。日本国のアフターサービスも期待出来ないしね。それどころか女性が多いので戦時にあるまじき事を承知の環境が望みなのですが」


「一つの大部屋を提供する事は出来ますがまさか個室は無理ですよ? それよりもエリコム社へは何しに行ったのですか? 昨日のヴァンパイア共もエリコムから連れていってとんでも無い事態になった。状況からして裏切ったとは違う様だが仲間でもなくなっています。実際奴らに同胞が殺された訳ですからね」


 ヴァンパイアの団体相手に話しをしている事を知らない男は複雑な中にも嫌悪感をにじませた表情で言い放つ。


「もちろん情報収集ですよ。赤を殲滅する会と言ってもはっきり言って我々はヴァンパイアの存在は知らなかった。しかし今は昔からデヌリーク市国とヴァンパイアがつながっていた事を知りましたからね。それより同行させたヴァンパイアの事は多少予測された事ではないですか? 同行したヴァンパイアは何か言ってなかったのですか?」


 皇成が口を挟むと男はいっそう表情を歪めて


「そうなんだ。彼らの要請で最初から手錠を装着していた。拘束には何の役にも立たなかった様ですがね。だからこそ我々も彼らを一方的に糾弾する事は出来ないと考えている。が、世間はそうはいきますまい」


 メイリ達は勝手な言い分だ、とは言わなかった。今はまだ、人間だと思われていた方が都合がいいだろう。


「それでは我々はまず落ち着ける宿を探します。もちろん遊びに来た訳では有りませんがさすがに疲れました。昨日の攻撃部隊の報告を聞いてから赤を殲滅する会としてのアドバイスと言うか見解を出させてもらう事でどうでしょう」


「分かりました。接収している宿は有ります。軍人はどこでも眠るが情報局員様はどんな場合でもベッドが無いと眠れないらしいのでね。おっとお嬢さん方は別ですよ。野郎共と雑魚寝なんてとんでも無い事です。お仲間の男女比は知りませんがまさか全員が個室をお望みではないのでしょう?」


「女性はこの3人の他は1人だけですよ。個室と言っても彼女達も一まとめかせいぜい女性陣で2部屋です。ただ、小綺麗な部屋で休ませてやりたいだけですよ」


「そうですね。くそ情報局員に使われるより部屋も100倍喜びますよ。おっとこれはオフレコでお願いします」


 公報担当かなにかなのか、本題から話しがそれると営業マンのように如才無い会話を展開する男に礼を言いながら5人は席を立つ。


 本部の建物から出ようとした時、無表情に、しかも異様に統率のとれた感じを与える10人ほどの列が入って来る所だった。


 その先頭を歩いている男は明らかに歳を感じさせ老人と呼べる年齢と思われるのにがっしりとした身体で胸を張り、気の弱い者ならそばに寄っただけで怖じ気づきそうな威圧感を放ちながら歩いている。


 玄関まで見送りに着いてきた受付の男が立ち止まって身動ぎしながら


「ルミノフ元帥……」


 とつぶやく。名前や軍服、そしてその雰囲気から今日基地入りしたと言うロシア連邦軍人で有ることは察しがついたが皇成が不審に思ったのはメイリの態度だ。


 表情はもちろん態度も外見上は変わらないが動揺と言うか軽い驚きに見舞われている様だ。


 それはイリーシャスにも言えた態度だった。その元帥はチラと皇成達を一瞥するとそれきり完全に無視し受付の男に話しかける。


 その会話を背に皇成を先頭に5人は建物を後にした。ここまでは日本政府経由で米軍が用意してくれたジープに乗り込む。


 ジープ5台と中型バス1台を借り受けておりデヌリークへもこれで出撃することになるかも知れない。ジープ5台は様々な武器弾薬を積んで日本から一緒に空輸したものだ。


 そんな芸当は非常事だから出来た事であり平時であれば出来ないしこっそりやれば犯罪だ。


 しかしおかげでエリコム社になんの武器が残っていなくても戦う事が出来る。もっとも頓宮一族始め忍びの一派はエリコム社の兵器など興味も無いかも知れない。彼らが持参したのは時代劇の小道具かと考えてしまうほどの忍者忍者したあれら、だった。


 なんと手裏剣まである。あまりにもなので日本にいる時にその威力を見せてもらったところ20センチのコンクリート壁を撃ち抜いてしまったので思わず納得してしまう皇成一同だ。


「とりあえずエリコムに行ってみましょう。こっちのメンバーがどうかなることは無いでしょうけどあっちの連中をどうかしてないか心配だわ」


 忍びを愚弄するメイリの発言に彦助は


「ウチの連中をなんだと思ってるんです? 極めて紳士的な者達であってゴロツキでは無いんですよ?」


「そおかしらあ。結構荒っぽい方々がいらっしゃるじゃ無いですかあ」


 メイリがつっかかるには訳が有る。スエリに向かうべく忍びの一団と日本国内の米軍基地で始め顔を合わせた時に女子供だと見てさんざんからかってきたのだ。


 ヴァンパイアである以上外見は関係無いが、しょせんメイリもまだイサルテであり皇成も綾奈も戻りに過ぎない。


 また半ギレしてかなりの大声に攻撃モードを乗せたイリーシャスのおかげで場がおさまったしメイリも怒らなかったのでそれきりになったが飛行機の中で


「なんで怒らなかったんだ?」


 と皇成がたずねると


「だって怖かったんだもおん。皇成ちゃんが助けてくれないかなあって思ってた」


「嘘つけ」


 どうせ機嫌がたまたま良かったかたまたま面倒だったんだろうと思う皇成だ。



 エリコム社に着くと正門前に立っていた兵隊に話をして中に入る。ヴァンパイア以外がわざわざ訪ねてくるのは珍しいはずだが今日は忍びの一行が先に来ているので「またか」の雰囲気だ。


 と、言うことはここでは揉めて無いと思われさりげなくホッとする皇成一行だ。


 中に入るとドッと嫌な気持ちに襲われて特に皇成と綾奈は露骨に顔をしかめた。ヴァンパイア同士特有の意思疎通である意識共有は今まで友好的なものしか無かったため面食らったのだ。


 彦助はともかく忍び一派との初顔合わせも友好的とは言え無かったが、もともと彦助から情報が伝わっているために否定と言うより試すとか見定めるとの感覚が強い。


 今ではメイリ達4人の間柄にはもちろん及ばないものの基本的には受け入れ合っていると言える。ところがエリコム社内に入ったとたんに感じた感情は敵意こそ無いものの明確な否定だった。


「あっちゃあ、こりゃあいつらやらかしてくれたわねえ。皇成ちゃん謝ってきてよん」


「また適当な。こっちが悪いことしたかどうか分からないじゃないか」


「じゃあ何もしてないのに拒否られてるってコト? 有り得なくない?」


「だから分からないって言ってるじゃ無いか」


 だんだん移動疲れがとれてきたメイリと皇成の掛け合いが始まるが、実際休んだ訳では無いので


「ホントお兄ちゃんとメイリさんは元気ねぇ」


 と綾奈が感心する。


「メイリさんと彦助さんですね。私はアンドロノフと言います。状況はご存知で?」


 待ち構えた様に奥から男が出て来て声をかけてくる。


 ヴァンパイアだ。


 人間で言えば夜の街ですり寄ってくる客引きのような態度で、それもさわやか系では無く裏道でねばちっこく来るタイプだが、これはそんな酒場などうろついた経験の無い皇成と綾奈の感想ではなくメイリとイリーシャスのものであり見た目はともかく人生経験はアレと言うことだ。女性でも、だ。


「ヒトに同行したヴァンパイアが洗脳されたのでしょう? 力ずくで断わるのもなんだけどヒトもヒトだわ。もっとも彼女の真の力なんて理解出来ないでしょうけどね」


「さすがに良く分かっていらっしゃいますなぁ」


「よう、彦助。本部とやらはどうだったんだ?」


 忍び一派の一人が奥から出てきて彦助に話しかける。


「それには大した話しは無いよ。それよりこっちはどうなってるんだ? 無駄なら武器庫探してさっさと行くぞ」


「無駄ってのはどういう意味だい? 聖母様の元になら誰だって行きたいんだぜ?」


 やはり忍び一派とエリコム一派はあまり良く折り合っていたとは言えない雰囲気だ。いつのまにかエリコム組が増えているがそれでも5人。他にもせいぜい30人位の感しかなく忍び一派と争って勝負になる数ではない。


 ヴァンパイアだからと言って強さで圧倒出来るのはヒト相手でありヴァンパイア同士なら格闘に馴染んでいる者が強い。


 一般的に格闘訓練などするヴァンパイアはほとんどいないところで頓宮一族始め忍び一派は稀な戦闘集団なので同じ数を揃えたとしても普通のヴァンパイアが勝てる道理が無いのだ。


 どうやら力で敵わないヴァンパイアが我が者顔でドヤドヤとエリコム社に入って来たこと自体が気に入らないらしい。異常事態にいち早く駆け付けて流れを見守ってきたヴァンパイア代表の様な気持ちにでもなっているのかも知れないし、どうやらアーニアのシンパらしい。


 アーニアを聖母様と呼ぶのは彼女に実際そう言わしめる時期が確かに有ったからであって、それは最もアーニアに近かったイリーシャスも娘であるメイリも良く分かっている事だ。


 しかしそんな情など斟酌しないのもヴァンパイアの特徴でありメイリも彦助も気持ちを汲むする気配すら見せず単純にエリコム社組をシカトし始める。


 アーニアは変わってしまったのでありその結果が今回の騒動なのだから。


「まあ、基本的に駄目だろうな。ちょっとした干渉にも反応する様だ。戦闘力も普通だし一応アンデット相手ならいいんだろうが今回は普通じゃないからなあ」


「じゃあエリコムの武器は?」


 彦助も何か言いたげなエリコム組を無視して尋ねる。


「まだ全部を見てはいないさ。第一メイリさんはココ詳しいんだろ? ご到着をお待ちしていたってところさ」


「そうね。確認したいエリアはあるわ。さてどうしようかな」


「ちょっと待てよあんたら。後からノコノコやってきて勝手に漁り回る事は無いだろう。まず聖母様をどうするのか、会いに行くのか俺達とどう組むのか打ち合わせるのが先じゃ無いのか?」


 アンドロノフが軽く目を赤くして抗議する。ほかのエリコム組ヴァンパイアもいきりたった風を見せるが本気でやりあう気は無いだろう。勝てないのは彼らにも良く分かっているはずだ。


「うるさいなあ、もう。つか、てめえあんたって誰ん事言ってんだよ? 皇成、ちょっとこっちへ。彦助さん、いいかしら」


 メイリの考えを察せ無い皇成が戸惑い気味に、察する彦助がにやにやとメイリの側に立つ。


「いい、アーニアに会いたければ勝手にどうぞ。それと私たちと話がしたいならせめて彼を一回位ひっぱたける力を見せてよ。彼は私たちの中で一番弱いんだからね」


 メイリの言葉が終るか終わらないかのタイミングで彦助が皇成に気を送る。


 ある意味ボーっとしていた皇成は一瞬で発現し目に見えないオーラをまとい目に見えて髪が銀色に輝く。皇成が実際何番目の強さなのか知らないし興味も無いメイリでも、その圧倒的な威圧感に感嘆せざるを得ない。皇成は強くなった。


「なっなんなんだコイツは? ダンピレスなのにこの強さ? いや、ダンピレスとヴァンパイアが変わらないとしても強すぎるじゃないか。化物か?」


「彼は私たちの中で一番弱いと言ったはずよ? でも私たちはこんな力の放出をしないから彼にしてもらっただけ。この強さを持つ私たちがそれでも不安で仲間集めを考えていたんだけど貴方達が該当すると思う?」


「もういい。止めさせてくれ。わかったよ。好きにすればいいじゃないか。俺達は俺達で勝手に考えるさ」


「そっ」


 彦助に強制発現させられた皇成も自分の意思で戻る事が出来るようになっている。皇成だって頑張っているのだ。


「じゃっソユコトでバイバイ。皆なこっちよ」


 なす術の無いエリコム組を置いてメイリは建物の奥へ進む。3階建てなのに3機もあるエレベーターの左端に乗り込んだ。


「ピッピッピーってね」


 階数ボタンの下についているスライド式のパネルを開けて小さな画面に指を当てるとピピッと音がして降下を始めた。ちなみに階数ボタンは1、2、3階だけだ。


「やっぱりそういう事か。建物の中はそっけ無さ過ぎるもんな」


 忍び一派で代表する立場になっているっぽい男がつぶやく。ほどなく止まったエレベーターを降りるといくつかのドアを順に開けて行き、整然と武器が並べられていたであろう棚状の作り付けが目に入るが中身はほとんど残っていない。剣は全てきれいに持ち出したらしい。


「これだけの武装の数が必要なほどアンデットを作っている可能性が有ると言うことね。まいったわねえ」


 ちっとも困ってはいない口調でつぶやくメイリ。


「こっちに銃器類があるぞ」


「ああ、単発で威力を高めた銃ね。だめよ、今回は役に立たない。もっと動きの遅い奴相手じゃないとね」


「まっせっかくだ。たまに出来損ないでトロい奴もいるかも知れん。あえて選ぶんならどれよ?」


「オートマチック型は所詮の威力ね。そのレボルバー44マグナムを強装した奴はまあまあかな。それと、それ。やっぱり強装したライフル弾を打ち出すんだけど当たれば腕位千切れるわ。10連マガジン式だしそっちがいいかもね。拳銃型ははっきり言って銃本体がいつ壊れるか分からないのよ。弾が強力すぎるからね」


「ふうん、物騒だな。じゃあこれを持っていこう」


 8丁ほどの短くされたライフルのような銃を集めマガジンに収まっている弾を500発分くらい抱える。相当な重さだろうが全く感じさせない。


「ここが最後っと」


 エレベーターから見て一番奥の部屋に入る。メイリが眉をしかめた。


「機関砲を目一杯持ち出しているはね。拡散バリスタ砲も無いわ。本当に本気なのね」


 その後も見回るがめぼしい物はない。メイリが小部屋のような収納庫を開けてさらに壁に向かって何か操作するとそこの壁がするすると降下し中に有った剣を取り出す。


「これを綾奈ちゃんにあげるわ。私が使っているタイプのプロトタイプでイリーの剣のお姉さん的存在よ。少し重いけど両手で使えば大丈夫だと思うわ」


 綾奈は剣をうやうやしく受け取って構える。確かに少し重いが許容範囲だろう。


「これ、強いの? 何だか少し変わったデザインだね」


 綾奈は興味を持って上から下まで眺めまわす。


「それは綾奈ちゃん次第だけど良く切れるわよお。私のはそれを研究し尽くして出来るだけ同じ性能を持たせたのよ。それ自体は昔から伝わる伝説の様な剣でね、電磁場を集めるのも得意な形状なのね。実は金属の分析もしたのに成分が良く分からない謎謎な存在なのよね」


「そんな立派なのメイリさんが使って下さい。私は今までので十分ですから」


「片手だけで振るには少し重いのよ。それに綾奈ちゃんは決して弱く無いけど剣の性能が経験不足をカバーしてくれるわ。ぜひ使って」


「そこまで言うんなら……」


 柄は金色で純金の様に鈍い黄金色、刀身は青味がかって幅広く両刄だ。


 鞘は黒っぽいが金属の様で違う感じもする、不思議な作りだ。鞘の両端に有る穴に通された皮紐で背中に背負う。


「これが手に入っただけでも来たかいは有ったわ。街に戻って休みましょ」


「そうですね。焦ることは無い。とりあえず彼らは逃げていないんですからね」


 彦助が応じてエレベーターで上に戻るとエリコム組ヴァンパイアの姿は無かった。隠れている、という訳でも無いだろうがもう二度と会う気も無いだろう。


 ヴァンパイア同士はなまじ気持ちが分かり合ってしまう分、こう言った事は多い。だからこそメイリが皇成に感じた気持ちが貴重だったのだし、彦助達との関係だって奇跡に近いと言える位だ。


 バスとジープに分乗して街に入るが考えたら車も大切な装備だ。ジープの1、2台無くなってもいいがバスが無いと移動が出来ない。メイリが口に出すと


「俺達の方で誰かがバスに残るから心配いらん。ジープの武器を全部バスに移そうか」


 とそっけ無く答えがあった。接収しているという宿泊施設は大まかに聞いてある。いくつか見て回り3つ目に駐車場と建物のポジショニングが良いドライブインの様な宿を見つけ決める事にした。


 車両は全てバックで止めて万一の際は最短の手間と時間で出せる様にする。そういったセッティングは皇成も得意な分野だか、彦助達忍びはさらに一枚上手の気配りが光る。口を出しても仕方ないので大人しく従う事にする皇成だ。


 それぞれ部屋に入るが結局皇成だけが1人で部屋を占領し、メイリ、綾奈、イリーシャスで一部屋、忍び達も適当に3、4人づつに別れた様だ。


 メイリ達3人の部屋は広くベッドも3つある。ちなみにフロントでデヌリーク対策に日本から派遣された事を告げホテル側が国連本部に問い合わせて裏が取れると宿代はタダだ。


 忍び一派唯一の女性はバス組になったらしい。皇成も綾奈も少しだけ話をした事があるが20代後半の容姿をした綺麗で妖艶な雰囲気を持っている。


 おそらく九の一として活躍していた時代もあったのであろうと思われた。皇成達4人は各自シャワーを浴びた後皇成がメイリ達の部屋に来て食事をとっていた。


 食事代も国連持ちのタダと聞いて持って来たメニューで一番高い特大ステーキを頼んだのはなんとイリーシャスだ。見ていた綾奈によると最初メニューを見ながら考え込んでいたイリーシャスだったが、ルームサービスが


「お代はいただきませんので」


 と言ったとたんに特大ステーキを指指し4つと指を立てて指示したらしい。なんだかせこい、と言うか恥ずかしい。


 運ばれてきた400グラムのステーキを見て


「こんなに食べれなぁい」


 と半ベソになる綾奈の半分を皇成が切り分けで自分で食べたがさすがに600グラムは多かった。


 メイリも何気キツそうだったがイリーシャスだけはペロリと食べて悠然と食後のコーヒーをすすっている。やはりイリーシャスは底知れない。


 再度ルームサービスが来て食器を下げた後各自がジュースやコーヒーのカップを前にしている時イリーシャスが


「来ましたね」


 とつぶやく。イリーシャスの声はもう皇成にもほとんど影響は出なくなっているが


「二人だけの時は攻撃モードで」


 は未だ撤回されていないので安心は出来ない。


 コンコン


 ノックの音でイリーシャスがのっそりとおもむろに立ち上がりドアを開ける。彼女は基本的にメイドなのでこの対応は珍しい。


「どうぞお」


 メイリが来客にうながした時何気なくメイリを見た皇成は少し驚く。


「なんて偉そうな」




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