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認知症のおばあちゃんへ。

おばあちゃんの字

作者: 空猫月
掲載日:2013/03/06

認知症を患ったおばあちゃんへ。

誰かに知ってほしい認知上の現状と、あたしの素直な気持ちです。

 おばあちゃんの字は、わりと好きで。


 ボールペンで書いても、マッキーで書いても、なんとなく筆のような質感が出る字が好きで。


 ひらがなでも、カタカナでも、『和風』な字が好きで。


 だからこそ、『部屋に勝手に入ってはなりません』と書いてあるのが痛々しくて。


 まだまだ軽度の認知症。


 一昔前なら、ボケていると、一蹴されてしまうくらい、軽度なもの。


 だけれど、家族もおばあちゃんもみんな辛い。


 「しっかりしている部分」と「分からなくなった」部分がまだらだからこそ、


 「これは分かるのに、あれは分からない」と。


 そんな中途半端な状態が、ただ辛くて。


 「自分はしっかりしているはず」という思い込みがあるから、「どうして?」とパニックになって。


 それに振り回される家族の苦痛だって、半端じゃない。


 お父さんは「家を出る」なんて言うし、


 お兄ちゃんは「こっちがおかしくなる」なんて言うし、


 お母さんもストレスからくる胃痛が出たりして。


 みんな、辛くて。


 探し物を手伝うために部屋に入れば、目につく張り紙。


 ドアの付近には『部屋に勝手に入ってはなりません』と。


 クローゼットの扉には『勝手に服をもって行かないで』と。


 大事なものが入っている引き出しには『開けないで』と。


 失くし物は全て、おばあちゃんがどこかに置き忘れているから、しまいこみすぎているから。


 全部、自分のせいなのにね。


 笑えないんだ。


 笑い飛ばして、「自分のせいじゃんか」って言えないんだ。


 「誰も部屋に入ってないよ。誰もおばあちゃんのもの、盗まないよ」って言えないんだ。


 字が、震えているから。


 いつだって凛としているおばあちゃんの字が、


 走り書きだってぶれなかった、おばあちゃんの線が、


 張り紙の文字だけ、泣いているみたいに震えているんだ。


 それを見るたび、痛くて。


 なぜか、泣きだしそうになる。


 「ごめんね」とも、「大丈夫だよ」とも言えない。


 気休めも励ましも、何も言えない。


 今の自分の心の狭さが嫌になる。


 笑って「大丈夫だよ」って言えたら。


 悩みも何もかもを、おばあちゃんと一緒に笑って吹き飛ばしてしまえたら。


 ごめんね、力になれなくて。


 ごめんね、おばあちゃんを傷つけるようなことを言ってしまって。


 「自分が置き忘れただけでしょ。あたしは関係ないよ」なんて、ひどいね。


 家族である以上、あたしにも関係あるのにね。


 「気が狂いそうだ。いっそ死んでしまおうか」って言ったおばあちゃんに、


 あたしは何も言えなかった。


 「辛いなら、死んじゃったほうがいいんじゃないか」と思ったのが少し。


 「あたしだって気が狂いそうだよ」と思ったのが少し。


 「家族みんな、辛いんだよ」と思ったのが少し。


 「死なないで」って思ったのが本当に少しだったのに、愕然とした。


 自分、こんなこと思ってたんだって。


 おばあちゃんなんか死んじゃえって、思ってたんだって。


 おばあちゃんは病気なだけ。


 自覚がないだけで、おばあちゃんに何の罪もない。


 それなのに、辛い理由を全部おばあちゃんに押しつけてた。


 無意識に。


 最低だね。


 ごめんね、おばあちゃん。ごめんなさい。


 おばあちゃんがいなきゃ、何もできないのに。


 ご飯も洗濯も、家事を全部してくれているのはおばあちゃんなのに。


 今まで、ずっと愛情を注いでくれていたのに。


 すぐには無理かもしれない。


 けど、きちんとおばあちゃんと向き合って、考えるから。


 自分の態度とか、考え方とか。間違っていたら、きちんと直すから。


 おばあちゃんのこと、今度はあたしが大事にするから。


 それまでは、ちゃんと生きていてください。


 おばあちゃんの字、大好きなの。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいて、空猫月さんの辛さや、家族の辛さ、おばあちゃんの辛さがひしひしと伝わってきました。 それでも、おばあちゃんへ対する愛情が「おばあちゃんの字」という形で表されていて、そしてまた、決…
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