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認知症のおばあちゃんへ。

おばあちゃんの字

作者: 空猫月

認知症を患ったおばあちゃんへ。

誰かに知ってほしい認知上の現状と、あたしの素直な気持ちです。

 おばあちゃんの字は、わりと好きで。


 ボールペンで書いても、マッキーで書いても、なんとなく筆のような質感が出る字が好きで。


 ひらがなでも、カタカナでも、『和風』な字が好きで。


 だからこそ、『部屋に勝手に入ってはなりません』と書いてあるのが痛々しくて。


 まだまだ軽度の認知症。


 一昔前なら、ボケていると、一蹴されてしまうくらい、軽度なもの。


 だけれど、家族もおばあちゃんもみんな辛い。


 「しっかりしている部分」と「分からなくなった」部分がまだらだからこそ、


 「これは分かるのに、あれは分からない」と。


 そんな中途半端な状態が、ただ辛くて。


 「自分はしっかりしているはず」という思い込みがあるから、「どうして?」とパニックになって。


 それに振り回される家族の苦痛だって、半端じゃない。


 お父さんは「家を出る」なんて言うし、


 お兄ちゃんは「こっちがおかしくなる」なんて言うし、


 お母さんもストレスからくる胃痛が出たりして。


 みんな、辛くて。


 探し物を手伝うために部屋に入れば、目につく張り紙。


 ドアの付近には『部屋に勝手に入ってはなりません』と。


 クローゼットの扉には『勝手に服をもって行かないで』と。


 大事なものが入っている引き出しには『開けないで』と。


 失くし物は全て、おばあちゃんがどこかに置き忘れているから、しまいこみすぎているから。


 全部、自分のせいなのにね。


 笑えないんだ。


 笑い飛ばして、「自分のせいじゃんか」って言えないんだ。


 「誰も部屋に入ってないよ。誰もおばあちゃんのもの、盗まないよ」って言えないんだ。


 字が、震えているから。


 いつだって凛としているおばあちゃんの字が、


 走り書きだってぶれなかった、おばあちゃんの線が、


 張り紙の文字だけ、泣いているみたいに震えているんだ。


 それを見るたび、痛くて。


 なぜか、泣きだしそうになる。


 「ごめんね」とも、「大丈夫だよ」とも言えない。


 気休めも励ましも、何も言えない。


 今の自分の心の狭さが嫌になる。


 笑って「大丈夫だよ」って言えたら。


 悩みも何もかもを、おばあちゃんと一緒に笑って吹き飛ばしてしまえたら。


 ごめんね、力になれなくて。


 ごめんね、おばあちゃんを傷つけるようなことを言ってしまって。


 「自分が置き忘れただけでしょ。あたしは関係ないよ」なんて、ひどいね。


 家族である以上、あたしにも関係あるのにね。


 「気が狂いそうだ。いっそ死んでしまおうか」って言ったおばあちゃんに、


 あたしは何も言えなかった。


 「辛いなら、死んじゃったほうがいいんじゃないか」と思ったのが少し。


 「あたしだって気が狂いそうだよ」と思ったのが少し。


 「家族みんな、辛いんだよ」と思ったのが少し。


 「死なないで」って思ったのが本当に少しだったのに、愕然とした。


 自分、こんなこと思ってたんだって。


 おばあちゃんなんか死んじゃえって、思ってたんだって。


 おばあちゃんは病気なだけ。


 自覚がないだけで、おばあちゃんに何の罪もない。


 それなのに、辛い理由を全部おばあちゃんに押しつけてた。


 無意識に。


 最低だね。


 ごめんね、おばあちゃん。ごめんなさい。


 おばあちゃんがいなきゃ、何もできないのに。


 ご飯も洗濯も、家事を全部してくれているのはおばあちゃんなのに。


 今まで、ずっと愛情を注いでくれていたのに。


 すぐには無理かもしれない。


 けど、きちんとおばあちゃんと向き合って、考えるから。


 自分の態度とか、考え方とか。間違っていたら、きちんと直すから。


 おばあちゃんのこと、今度はあたしが大事にするから。


 それまでは、ちゃんと生きていてください。


 おばあちゃんの字、大好きなの。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいて、空猫月さんの辛さや、家族の辛さ、おばあちゃんの辛さがひしひしと伝わってきました。 それでも、おばあちゃんへ対する愛情が「おばあちゃんの字」という形で表されていて、そしてまた、決…
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