毒舌令嬢のやり直し。未来で別の男と結婚して絶望した私は、高校時代に戻って早々に、大嫌いだった幼馴染の胸ぐらを掴んで「消えないで」と泣きついた
「幸せな結婚」が、必ずしも「幸せな人生」とは限らない。
皆さんは、かつて自分から突き放した人の背中を、何年も経ってから夢に見ることはありませんか?
これは、完璧を求めて全てを手に入れたはずの私が、たった一人の不器用な男のために、人生をゼロから、いえ、マイナスからやり直す執念の物語です。
ほんの少しだけ、私の「後悔」にお付き合いいただけますか?
終わりの風景
街角で偶然すれ違ったのは、かつて私が「ブス」と罵り、突き放し続けた男の後ろ姿だった。
隣には、私の夫である誠一。
(……ああ、やっぱり)
拓実は、私が気づいた瞬間に目を逸らし、まるで幸せそうな私たちを見ることに耐えられないかのように、逃げるように雑踏へ消えて行った。
その丸まった背中を見て、昔と何も変わっていないことに気づいた。
私の胸に走ったのは勝利感ではなく、吐き気がするほどの後悔だった。
完璧な人生を選んだはずの私が、唯一手に入れられなかった「本音」。
私は彼を追いかけようと、走り出す。
「痛いっ...」
振り返ると、誠一が私の腕を掴んでいた。
「どうしたんだ?どこへ行く気だ?」
誠一は私の目を見つめている。
「いえ、何でもないわ」
私は誠一の隣で微笑みながら、心の中で自分を切り刻んでいた。
(……馬鹿な女。あの日、たった一言『行かないで』と言えば済む話だったのに)
その夜、私は雷鳴のような衝撃と共に、意識を失った。
ーーー
「……サキ? おい、サキ様。寝てんのか?」
聞き覚えのある、苛つくほどに幼い声。
目を開けると、そこには西日に照らされた放課後の教室と、生意気そうな顔で私を覗き込む、高校生の拓実がいた。
「……拓、実?」
「なんだよ、寝ぼけてんのか。ほら、課題終わったから見ろよ。どうせまた『やり直し』って言うんだろ、お前」
(なにこれ.....どう言う事なの?)
目の前の彼は、まだ私の目を見て話してくる、私が彼を「不甲斐ない」と切り捨てる前の、未確定の未来。
(夢? 幻覚?)
私の震える手が、思わず拓実の頬に伸びた。
「おい、どうした……? って、お前、泣いて……」
「……黙りなさい、このバカ拓実」
私は彼を殴り飛ばす代わりに、その制服の胸ぐらを掴んで、全力で引き寄せた。
驚きで固まる拓実の拍動が、腕を通じて伝わってくる。
「サキ……?」
「……消えないで。二度と、私の前から勝手にいなくなったりしないで」
厳格さも、プライドも、正論も。
あのみじめな未来を繰り返すくらいなら、そんなもの全部ドブに捨ててやる。
放課後の静寂の中で、私は拓実を離さなかった。
戸惑いながらも、彼はぎこちなく私の背中に手を回す。
「……わかったよ。どこにも行かねーよ。お前がそうやって、素直に言えばいいだけだろ」
その言葉を聞いた瞬間、私の左腕に、焼けるような熱い痛みが走った。
驚いて袖をまくると、そこには見覚えのない、しかし酷く生々しい「傷跡」が刻まれていた。
それは、あの「夢」の中で、逃げていく拓実を追いかけようとして、誠一に強く掴まれた時にできた痣と同じ形。
(……夢じゃない)
私はその傷を拓実に見えないように隠し、彼の胸に深く顔を埋めた。
この傷が疼くたびに、私は思い出すだろう。
正しさを優先して愛を失った、あの冷たい未来を。
「サキ、腕どうしたんだ?」
「……なんでもないわ。あんたを一生こき使うための、呪いの印よ」
私は涙を拭い、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
この傷の理由は、私だけが知っていればいい。
未来を書き換えるための代償なら、いくらでも背負ってあげるわ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
高校生の拓実に再会したサキですが、その左腕には「未来の記憶」が消えない痣となって刻まれています。夢ではない、やり直しの代償。
これからサキが、この傷の疼きに耐えながら、どのように拓実を「独占」していくのか……。
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