7 王都へお出かけ
王妃のサロンに参加してから数日後。
平民に扮したフルールは、首都へ来ていた。
オルティエ王国の首都・リーテル。
大陸中に知れ渡るほどの有名店が立ち並び、オルティエの多くの貴族が本邸を構えている場所でもある。
遠くに見える大劇場や大聖堂などはオルティエ有数の観光地としても知られており、毎年他国から観光客が多く押し寄せている。
「あれって、一流パティシエが経営するパティスリーの本店よね!?開店前なのに超並んでる!あっちはマダムアベルが開いているブティックだわ!あそこに行けばマダムに会えるのかしら!?」
フルールは久々に首都の中心へ来たことでテンションが上がっていた。
彼女の暮らす伯爵邸はリーテルから離れたところにあったため、気軽に行ける場所ではなかった。
フルールは今日、ある目的のためにこの場所を訪れていた。
「やっぱり……トレンドをチェックするには王都が一番よね!」
オルティエ王国で最も人が集まるのが、まさに首都リーテルだ。
情報を集めるなら、ここは絶対に欠かせない場所だった。
(前世でも都会に住んでる人はオシャレで流行に敏感な人が多いイメージだったし……)
この間アレクシスに言われたことで、フルールは自分自身を見つめ直した。
そして、自分にはまだまだ勉強が足りないということに気が付いたのだ。
今日は彼に指摘されたことを踏まえ、学びを深めるために時間を作って首都へやってきた。
フルールは目の前に広がる鮮やかな街並みを見渡した。
いかにもファンタジー世界の風景に、見ているだけで冒険心がくすぐられる。
「よし、まずは……」
早速近くのブティックへ向かおうとしていたフルールだったが、急にお腹が物凄い音を立てて鳴った。
周囲を歩いていた人たちが振り返り、彼女は慌てて知らないフリをした。
穴があったら入りたいとはまさにこのことである。
彼女は真っ赤になった顔を隠しながら呟いた。
「まずは……そうね……腹ごしらえでもしようかしら……」
リーテルへ来て彼女が最初に入ったのは、小さなカフェだった。
***
「このワンピース、すごく可愛いですね!」
「そちらは人気商品なんですよ、あと一点で売り切れとなります」
「えー買っちゃおうかなぁ?」
昼食を終えたフルールは、リーテルで有名な平民用の衣料品店へ来ていた。
さすがは人気店というべきか、店内は多くの若い女性のお客さんで賑わっていた。
そのうちの一人だったフルールは、店にあった一着のワンピースに目を留めていた。
彼女の目を引いたのは、襟元にフリルが使われた上品な白のワンピースだった。
「ウエスト部分がかなり伸びる素材になっていて、食べ過ぎたときとかも苦しくないんです」
「あら、それは良いですね」
貴族令嬢が着るドレスはお腹がキツくてたまらない。
そのため、お茶会でも好きなだけ食べることができないのだ。
(せっかく無料でご飯を食べられるってのに、勿体ない!)
貴族の女性にとっては当たり前のことなのだろうが、かつて別の国で生きたフルールにとってはあまりにも窮屈だった。
そこで彼女は気が付いた。
もしかすると、前世の記憶を取り戻した今の私は平民的な思考を持っているのかもしれないと。
「平民の間では、やっぱりこういうのが人気なんですか?」
「そうですねぇ……デザインが良く、動きやすいものが人気ですね」
貴族と違って、平民の女性たちは立ち仕事で生計を立てていることが多い。
居酒屋やカフェの店員、どこかのお屋敷で侍女として働いたり……職種は様々だが、ほとんどの平民女性たちはデスクワークなんてしないだろう。
(そういえば、侍女の服もこんな感じのスカートを使っているわね)
貴族令嬢のように床につくタイプのものではなく、少し短めで、動くたびにふわりと広がるようなスカート。
常に動く侍女にはピッタリな服だ。
きっちりとしたマーメイドスカートなどは平民が着る服には向いていない。
可愛さを重視するなら、フレアスカートが良いかもしれない。
可愛いものが好きなのは、どの世界の女の子も同じだろう。
「あら、こっちのワンピースもなかなか素敵!」
「お客様はお目が高いですね!そちらも人気商品なんですよ」
次にフルールが目を引かれたのは、デコルテの部分が透けたワンピースだった。
「こちらは最近流行りのシースルーを使っているんです!」
「シースルー……?」
不思議そうに首をかしげたフルールに、店員は説明を加えた。
「シースルーは透けるという意味で……最近服の一部に取り入れるのが流行っているんですよ!」
「へぇ、そうだったのね」
これは良い情報を得られたかもしれない。
フルールは丁寧に教えてくれた店員さんへのお礼にワンピースを一着購入し、店を出た。




