第三話 搾取
「……無事、依頼は完了した。これが報告書だ、閣下」
俺は、豪華な執務机の上に泥のついた紙束を放り出した。
依頼人である地方官吏は、鼻を鳴らして使用人に報酬を用意させる。
「ご苦労。……では、これが約束通りの金貨10枚だ。さっさと消えろ、不潔な蝿め」
差し出された金貨袋を、俺は一瞥して鼻で嗤った。
「……駄目だ。この報酬じゃ、到底納得できないな」
「なっ……!? この額で請け負うと言ったのは貴様だろう、蝿の仲介人!」
「俺は『検討する』と言っただけだ。……ところで閣下。今回、正規の傭兵じゃなく、わざわざ裏の人間を使ったのはなぜだ?」
官吏の顔が微かにこわばる。俺は構わず、獲物の喉元に言葉を突き立てた。
「滅んだ町は国境付近。そこを『偶然』魔獣が襲った。だが、俺の飼い犬が持ち帰った死骸には、調教と術式の痕跡があった。
……つまり、今回の事件は偶然じゃない。人災だ」
「……っ、そんなことが何だというのだ!」
「人命救助の名目で騎士団を送り込み、どさくさに紛れてあの土地の権利を奪う。……口の堅い裏の者に後始末を任せてな。違うか?」
沈黙。
官吏の額から脂汗が滴り、高級な絨毯を汚していく。
「それなら、この報酬は口封じには些か少なすぎる。……そうは思わないか?」
「……わかった。報酬は倍にしてやる。これでどうだ」
「……倍?」
「……ぐっ、なら三倍だ! これ以上は出せんぞ!」
「――報酬の桁を、ひとつ変えろ」
「なにッ!? 貴様、正気か!」
「払えなければ、お前の首が飛ぶか、あの凄惨な内紛の二の舞になるかだけだ。
……お前の地位と金貨100枚。どちらが重いか、比べるまでもないだろ?」
――数分後。俺は、苦渋に満ちた表情の官吏から、震える手で書き上げられた小切手を受け取った。
「……精々、飼い犬に手を噛まれないようにな。蝿の犬飼いよ」
「……蝿に噛まれる手はないだろう」
俺は振り返らずに言い捨て、部屋を出た。
いくらでも集ってやろう。この腐りきった世界が、俺の翅をもぎ取って飛べなくなるまで。




