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蝿の仲介人  作者:


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1/9

第一話 忠犬


「……まさか、俺の最期が、お前の手にかかるなんてな」



 地下室の冷たい空気の中、俺の喉元には、相棒の銀閃が突きつけられていた。

 フードの奥に潜むあいつの瞳は、相変わらず何も語らない。


「……」


「飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこのことか。

 ……蝿が最後には野犬に喰われる。ハッピーエンドには程遠いな」


「……」


 相棒は、ただ静かにナイフを振りかぶる。その手はこころなしか震えているように見えた。

 その影が俺を飲み込む直前、俺は相棒にしか聞こえない声で、そっと呟いた。


「……悪いな」


 ――刹那、無慈悲な銀閃が振り下ろされた。






 ――――――――――――――――――――――

 



 「依頼だ」


 湿り気を帯びた薄暗い地下室。

 俺は、目の前に立つボロボロの黒いローブを纏った男に、一枚の紙切れを突き出した。


 男は答えない。

 フードの奥の暗闇が、ただ無機質に俺を射抜いている。

 この町でこいつの声を聞いた者はいない。


「相変わらず、退屈なほど寡黙だな。……忠犬」


 忠犬というのは、俺が付けたあだ名だ。

 吠えず、噛みつかず、ただ金さえ積めば地獄へでも赴く。

 忠実なる俺の犬。だから、忠犬と名付けた。


 

 男は表情一つ変えず、その指先で紙切れを受け取った。


「町を滅ぼした害獣の駆除さ。調査資料も付けてやる。お前なら、明日の朝飯前には終わるだろう?」


 追加の紙束を放り出す。

 仲介人である俺が、独自に裏を洗った「生存率」を上げるための情報だ。

 確実な仕事には、入念な下準備が欠かせない。


「……」


「報酬は金貨10枚だ。お前にも、入り用な理由ワケがあるんだろう?」


 庶民が一生拝むこともできないような大金。だが、その対価は常に死と隣り合わせだ。

 こいつの金の使い道など別に知りたくもないが、少なくとも身なりには使っていないことは確かだ。


「…」

 

「交渉成立だな。頼んだぞ、忠犬」

 

「…」


 男は黙って背を向け、薄暗い部屋から立ち去っていく。

 その背中は、忠実な犬というよりは、飢えた野犬のそれだった。



 暗がりに潜み、牙を剥き、誰にも心を開かずに獲物を狩る。

 

 奴が野犬なら、俺は蝿だ。

 死臭の漂う場所に(たか)り、法外な仲介料を(むし)り取って生きている「蝿の仲介人」だ。



 世間様から見れば最低の共犯関係。

 だが、この不味い安酒を一人で煽る夜には、奴のあの「静寂」だけが、唯一の救いに感じられた。






ご一読いただき、ありがとうございます。

どうしてもこの物語の「最後の展開」を形にしたくて、拙いながら筆を執り、本作が初投稿作品となりました。 全13話と短い物語ですが、最後まで執筆済みです。

毎日20時に更新いたしますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。

もしお気に召しましたら、ブックマークや評価などで応援いただけると励みになります。

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