地球の“能力者”たち
朝の空気は少しだけ冷たく、澄んでいた。
制服の上着のポケットに手を突っ込みながら、リクはぼんやりと歩く。
「おはよう、リクくん!」
背後から明るい声。ミサキが弾むように駆けてくる。
「昨日の肉じゃが、どうだった?」
「うまかった」
「よかった。……また作りに行っていい?」
「好きにしろ」
「ふふっ、またそれ」
ミサキが笑い、リクは小さく肩をすくめる。
登校途中、コンビニで寄り道。
店の前ではレイジがパンをくわえて立っていた。
「おう、リク! お前、昨日ミサキさんと飯食ったってマジ?」
「なんで知ってんだよ」
「俺の情報網をなめんな。クラスの女子がSNSでぼやいてたぞ」
「……マジで頼むからそういうの広めんな」
「無理だな!」
リクのため息が風に溶けた。
放課後。
レイジが部活に呼び出され、ミサキは友人と帰る。
リクは一人、街をぶらついていた。
繁華街の外れ、人気の少ない裏通り。
ふと、空気が揺れる。
(……今のは)
目を細めると、建物と建物の隙間に、淡い光の膜のようなものが見えた。
普通の人間なら、絶対に気づかないだろう。
リクの魔眼のひとつ――「真視の眼」が、自然に発動する。
「結界……か?」
面白そうだと思い、迷わず中に踏み込む。
中は静まり返っていた。
だが、空気の密度が違う。
視線を向けると、廃ビルの前で二人の男が対峙していた。
片方は金属バットを握り、もう片方は空中に浮かぶ火の玉を操っている。
「おい、“焔のギルド”の雑魚が! ここは俺たちの縄張りだ!」
「ふん、ただの不良が能力者気取りかよ」
火の玉が弾け、バットが唸る。
まるで漫画のような光景。
リクは壁に寄りかかりながら見物していた。
「……地球にも、能力者がいるのか」
呟いた声に、二人が同時に振り向いた。
「てめぇ! 誰だ!」
「一般人か? 見られたら困るな」
火の玉が飛ぶ。
リクは動かない。
燃え盛る炎が目前で弾け――跡形もなく消えた。
「……え?」
「今、消えた……?」
リクは静かに首を傾げる。
「悪いけど、ちょっと通るだけなんで」
「ふざけんなッ!」
バットの男が突っ込む。
次の瞬間、地面が鳴った。
鈍い音。
バットの男は、視界から消え――リクの足元に転がっていた。
「な、何を……!」
リクはただ、軽く肩に手を置いただけだった。
「おい、火の玉の人」
「ひっ」
「ちょっと聞きたい。お前ら、なんなんだ」
「ぼ、僕たちは、“能力者”。特別な力を持った者同士で……」
「で?」
「で、勢力争いを……」
「なるほど。くだらねぇ」
リクが一歩近づく。
“焔の男”は息を呑む。
その瞬間、心臓が締め付けられるような圧力が襲った。
殺気ではない。
“存在の差”――ただそれだけで、呼吸すら奪われる。
「こ、この人間……おかしい……っ!」
男が膝をついた。
リクは興味を失ったように背を向ける。
「まぁ、せいぜいがんばれ。世界は広い」
結界の外に出た瞬間、空気が一変する。
街のざわめき。車の音。
全てが日常に戻った。
リクはポケットに手を突っ込みながら、空を見上げる。
「地球にも“力”を持つ奴らがいるのか……」
微かに笑う。
「……退屈しのぎには、なるかもな」




