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魔眼の勇者の帰還 ──現実世界でも最強です。  作者: 猫撫子


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3/14

泣くなレイジ、これは俺の喧嘩だ(前編)


放課後の夕暮れ。

商店街の通りを抜けた先の細い路地は、昼間とは違う顔を見せていた。

街灯が点くにはまだ早いその時間帯は、ちょうど昼と夜の境目。

そんな中、ミサキは制服のまま、部活帰りの鞄を肩にかけて歩いていた。


「ふぅ……今日も疲れた」

軽く伸びをして、ふとスマホを取り出す。

画面に映るメッセージアプリの履歴には、“リク”という名前がある。

――つい数日前も、一緒に駅前で偶然会ったばかり。

少し不器用で、でもどこか放っておけない。

ミサキはそんな彼に、最近少しだけ目がいくようになっていた。


その時だった。

「おい、嬢ちゃん。いい時間だな。ちょっと遊んでいかねぇか?」

背後から響く声に、ミサキは思わず振り返った。

黒いスーツに金のネックレス。腕には刺青。

どう見てもただの不良ではない――ヤクザだ。


「……すみません、人違いです」

「いやいや、人違いでも構わねぇんだよ。かわいいからなぁ」

男の一人が肩を掴んだ瞬間、ミサキの身体がビクリと震える。

鞄を抱え、後ずさりするも、後ろにはもう別の男が立っていた。


「やめてください!」

声を張り上げるが、人気のない路地では誰の耳にも届かない。

腕を引かれたその時――


「おいッ!! ミサキさんから離れろやぁぁぁっ!!!」

怒鳴り声が響いた。

勢いよく路地の奥から飛び出してきたのは、金髪にピアスの不良――加賀レイジだった。


「てめぇら、女に手ぇ出してんじゃねぇ!」

「なんだぁコラ、誰だテメェ?」

「通りすがりの正義の味方だよッ!」

レイジは拳を握り、男たちに飛びかかる。


しかし――

相手は素人ではない。

次の瞬間、腹に重い一撃を受けて息が詰まった。

「ぐ……はっ……!」

容赦ない蹴りがレイジの脇腹をえぐる。

さらにもう一発、顔面に拳。

血が飛び散る。


「てめぇ……調子乗ってんじゃねぇぞ、ガキが!」

「くそっ……でも、ミサキさんは……逃げて!」

レイジはボロボロになりながらも、ミサキをかばうように立ちふさがる。

その姿に、ミサキの唇が震えた。

「ダメ、もうやめて! あなたまで……!」


しかし、彼女の悲鳴を無視するように男たちは笑う。

「根性あるな坊主。だが無駄だ」

鈍い音。

レイジの身体が地面に崩れ落ちた。


「おら、そこの嬢ちゃん。お前も来いよ。話はこれからだ」

ミサキの悲鳴が夜気に響いた。

男たちはそのまま彼女を車に押し込み、走り去っていった。


しばらくして――

血を吐きながらレイジは地面に手をついた。

「……くそ……守れ……なかった……」

歯を食いしばり、何とか立ち上がる。

足元はふらつき、視界が揺れる。

それでも彼は、ただ一人の顔を思い浮かべて走り出した。


リク――。

あのとき助けてくれた、あの男なら。

ミサキさんを……絶対に助けてくれるはずだ。


夜の街をふらつきながら走る。

血に濡れた制服。

その姿を見て道行く人が驚いて声を上げたが、彼は構わず前を見た。


ようやく見つけた。

公園のベンチに座っていたリクが、静かにペットボトルの水を飲んでいた。

「……おい、レイジ?」

リクが立ち上がると同時に、レイジは崩れるように膝をついた。


「す、すまねぇ……! ミサキさんが……さらわれた……!」

「……何だって?」

「俺が……助けようとしたんだ。でも……俺じゃ、全然歯が立たなかった……!」

レイジの声は震え、目には涙が滲んでいた。


「リク……頼む……あの人を……助けてくれ……!」

拳を地面に叩きつけながら、彼は泣きじゃくる。

その姿を見て、リクの目がゆっくりと細まった。

感情の色が、静かに消えていく。


「……そうか。お前、よくやったな」

リクはレイジの肩に手を置く。

その手は、優しく、けれど底の見えないほど冷たい。

「泣くな、レイジ。これは――俺の喧嘩だ」


レイジはその言葉を聞いた瞬間、何かが張り詰めたような空気を感じた。

リクの瞳が、ほんの一瞬だけ光を帯びた気がした。

ぞくりと背筋が凍る。

これは、人間のそれじゃない――。


夕暮れの空が夜に変わる。

リクの影が、闇に溶けていった。

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