加賀レイジ、弟子入りす。
「おい天城! ちょっと待てコラァ!!」
放課後。
校門を出た途端、背後から怒鳴り声。
振り向けば昨日ボコられた──いや、“手品で転ばされた”加賀レイジがいた。
「なんだよ。もう授業終わったぞ。」
「昨日のアレ、どうやった!? 俺、拳止まんなくてビビったんだぞ!」
「あー……手品だって言っただろ。」
「手品で止まるかよ! 俺の拳、バイクより速ぇんだぞ!!」
うるさい。
だが、真剣そのものの顔をしているあたり、本気で気になってるようだ。
「……あのさ、もし俺が本気で強くなりたいって言ったら、教えてくれるか?」
「え?」
レイジが頭を下げた。
金髪が風で揺れる。
周囲の通行人がギョッとして足を止めた。
「お、お前が……俺に?」
「そうだ。お前、昨日一瞬で俺の動き止めただろ。あれは反則だ。だが──強ぇ。本気で強ぇ。」
リクは苦笑した。
たしかに彼の言う通り、俺は強い。
でも、それは魔眼のおかげであって、努力したわけじゃない。
「いや、俺が教えても、お前に向いてねぇと思うぞ。才能とかセンスとか──」
「構わねぇ!」
レイジは顔を上げた。
目に宿るのは本気の光。
「俺は、弱ぇままの自分がムカつく。だから、あんたから何か学びてぇんだ!」
……そこまで言われたら、断りづらい。
「はぁ……分かったよ。ただし、能力とかそういうのは教えられねぇ。普通に戦う方法だけだ。」
「マジで!? ありがとう師匠!!」
「誰が師匠だよ。」
◇ ◇ ◇
それから数日。
リクとレイジは放課後、人気のない公園で“特訓”を始めた。
「まずは、殴るな。」
「え? でも俺、喧嘩は殴るもんだろ?」
「違ぇよ。殴る前に“間”を取れ。相手の呼吸、体の動き、全部見ろ。」
リクはゆっくりと足を動かす。
まるで剣士のような構え。
素人目には何もしていないようだが──レイジには“気迫”が伝わる。
「……圧がすげぇ。何だよその構え……!」
「これ、じいちゃん直伝の古武術。異世界でもけっこう使えた。」
「異世界って……まだ言うか!」
「本当なんだけどなぁ。」
軽く間合いを詰めるリク。
その一歩で、レイジの首筋に冷たい汗が走る。
「お、おい……なんか見えねぇ。てか、俺、もう負けた気するんだけど。」
「そう感じたら、それが“殺気”だ。慣れろ。」
その後、レイジは地面に十回転がり、二十回吹っ飛んだ。
だが、不思議と楽しそうに笑っていた。
「っはは! マジでつえぇ! 天城、あんたヤバいな!」
「やめろって。見られたら恥ずかしい。」
「いやいや! 今日から正式に“師匠”だ!」
リクは肩をすくめ、苦笑する。
「まぁ、好きに呼べ。」
その時、公園の入口からひょこっと顔を出した人物がいた。
「……あんたたち、何やってんの?」
ミサキだった。
制服姿のまま、冷たい視線を向けてくる。
「あ、ミサキ。ちょっと運動。」
「運動……ねぇ。片方、鼻血出してるけど?」
「気合の証拠ッス!」
「……はぁ。」
呆れたようにため息をつくミサキ。
でも、その視線はどこか心配そうでもあった。
「天城。あんた、最近ほんと変よ。」
「え?」
「強くなったっていうか……何かを背負ってる感じ。」
リクは少しだけ視線を逸らした。
──ああ、そうか。
異世界での“戦い”の気配って、まだ抜けてなかったのかもしれない。
「心配すんな。ただの運動不足解消だよ。」
「……ふーん。」
ミサキはしばらく無言でリクを見つめていたが、すぐに視線を外した。
夕陽が彼女の髪を照らし、どこか寂しげに見える。
「ま、無理しないようにね。」
それだけ言って、彼女は歩き去った。
レイジが口を開く。
「なぁ師匠、あの委員長……お前のこと、気になってんじゃねぇ?」
「ねぇよ。俺、平和が好きなんだ。」
「平和(物理)だな。マジで強すぎて喧嘩になんねぇ。」
リクは小さく笑い、空を見上げた。
──平和が続くなら、それでいい。
でも、どうしてだろう。
胸の奥に、妙な“ざわめき”が残っていた。
それが、やがて新しい戦いの前触れになることを、
この時のリクはまだ知らなかった。




