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魔眼の勇者の帰還 ──現実世界でも最強です。  作者: 猫撫子


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13/14

模造の影

放課後の教室。


窓から差し込む夕陽が机の上を朱に染め、教室の片隅でリクは欠伸をかみ殺していた。


数学教師の板書の音が黒板に淡々と響くが、彼の意識は別の場所にあった。

最近、街の空気が妙にざわついている。


「……風、変わったな」


そう呟いたリクの言葉に気づく者はいない。

いつものようにミサキが後ろの席からノートを差し出してきた。


「リク、今日の課題、また忘れたでしょ?」

「うん、バレた?」

「バレるよ。毎回じゃん」


呆れながらも笑うミサキの目元はどこか優しい。

彼女はすっかり“この世界での彼の居場所”になっていた。


授業が終わると、レイジが教室のドアを勢いよく開けて飛び込んできた。


「おいリク! ニュース見たか!? また“能力者”とかいう事件が起きたらしいぞ!」

「……能力者?」

「そう。AIDとかいう組織が押収した研究所で、変な人間が暴れたってさ。

 なんか“人間離れした動き”だったとか」


リクは目を細める。


心臓の奥が、一瞬だけ疼いた。

異世界で魔族を相手にしたときと同じ、あの“異様な気配”が脳裏をよぎる。


「……この世界にも、いるのか」

「え?」

「いや、なんでもない」

リクはそれ以上何も言わなかった。


ミサキが心配そうにこちらを見るが、彼は笑ってごまかす。


その夜。

静かな住宅街の一角、リクの一人暮らしのアパート。

夕食はミサキが作ってくれたカレーだった。

テーブルの上には、まだ湯気が立っている。

「味、どう?」

「うまい。……ていうか最近、俺よりミサキの方が家にいる時間長くない?」

「だってリク、栄養偏りすぎなんだもん」

「それは否定できないけど……」

会話の端々に漂う穏やかさ。


それがリクの“地球での平穏”を象徴していた。

だが――その夜の風は、どこか違っていた。



深夜。


リクはベランダに出て空を見上げた。

月が雲の切れ間に覗いている。

その瞬間、背後にかすかな気配を感じた。


(……誰か、いる)


瞬きの間に、気配の主は建物の影から飛び出した。


黒いコートに身を包み、両目が異様に光っている。

まるで、リクの魔眼を模倣したようなその輝き。


「……模造か」

リクは静かに呟いた。


相手は無言で距離を詰める。

拳が風を裂き、リクの頬をかすめた。

普通の人間なら、その一撃だけで首が折れている。

だが、リクの体は微動だにしなかった。


「遅い」


反撃は、風よりも速かった。

軽く指を弾いた瞬間、相手の体が壁ごと吹き飛ぶ。

骨の砕ける音が夜に溶けた。

それでも、倒れた男は立ち上がる。


再生能力――まさか、この世界にもそんな仕組みがあるのか。


「……面白い」


リクの瞳がわずかに光る。

魔眼の力を解放するつもりはない。

だが、その存在を“見抜く”ことはできた。

相手の身体の奥に、人工的な魔力の流れ――異世界で使われていた“魔素”に似た構造を感じる。


「誰が、お前を造った」

「……AID……第弐研究課……」


呻くように答えたその声が、夜風に消えた瞬間。

リクの拳が再び閃く。

衝撃波が走り、建物のガラスが一斉に砕け散った。

そして、男はそのまま動かなくなった。


「殺してはいない。……けど、長くはもたないな」


リクは冷たい目で見下ろしながら、胸の奥に違和感を覚える。

なぜ、彼が“魔素”を使える?

この世界の科学で、そんなことが可能なのか?



翌日。


ニュースでは「謎の爆発事故」として処理されていた。

現場には「不明の化学物質反応」としか報じられていない。

レイジがスマホを見ながら眉をひそめる。


「なあリク……お前、昨日の夜、外出してなかったか?」

「ん? なんで?」

「いや……この現場、リクのアパートの近くだぞ」

「気のせいだろ」


そう言いながらも、リクの胸には確かな予感があった。

AIDという組織が、裏で何かを動かしている。

そして、そこに関わる存在――久遠ユウトという名を、リクはまだ知らない。



しかし、彼の知らぬところで。

AID本部の地下では、研究者たちが新たな“模造能力者”を創り出していた。


「失敗個体13号、回収完了。残留魔素、観測限界を突破」

「……やはり、あの少年。魔素を制御している」

「彼こそが鍵だ。異世界の残滓――久遠主任の仮説は、正しかった」


モニターに映し出された映像の中、

リクの横顔が無表情にこちらを見返していた。


それは、まだ知らぬ者たちへの――


“宣戦布告”のように、冷たく、美しかった。



AID本部・第弐研究棟。

冷たく光る白い壁、無機質な蛍光灯の明かりが静寂を照らしていた。

中央の観測室には巨大なモニターが並び、複数の視点映像が流れている。

どれも街の監視カメラやドローンから送られてきたものだった。


「……13号の反応が消失しました」

「またか。模造魔素の安定率、わず8.3%……」


「だが、彼のデータは取れた。あの少年――“久我リク”と接触して生き延びた時間は、前回よりも長い」


部屋の奥、黒いスーツに身を包んだ男がゆっくりと立ち上がった。

整った顔立ち、淡い灰色の瞳、だがその眼差しは機械のように冷たい。


「やはり、彼が本物だ」


その声の主――久遠ユウト。


AIDの特別研究主任であり、“異世界現象”を唯一実証したとされる人物。


「主任、対象Kの捕捉は進めますか?」

「いいや、まだだ。観測を続けろ。刺激を与えすぎると、何をしでかすかわからない」

「しかし、13号の件で……」

「放っておけ。模造体は使い捨てだ」


ユウトの指が宙を滑る。

モニターにはリクが映っていた。

窓辺でカーテンを開け、朝陽を浴びるだけの何気ない仕草。

それだけで、どこか異質な美しさがあった。


「彼の存在そのものが“魔素の安定器”だ。……もし制御できれば、次元転移すら再現可能だろう」


ユウトは口元に微笑を浮かべる。


その笑みは優しさではなく――支配のそれだった。



その頃、リクは学校の屋上にいた。


昼休み。風が心地よく吹き抜け、青空がどこまでも広がっている。


ミサキが購買で買ってきたパンを半分に割り、リクに差し出した。

「はい、チョコの方あげる」

「俺、メロンパン派なんだけど」

「知ってる。だからこっち」


小さな笑い声が二人の間を和ませる。

レイジもやってきて、缶コーヒーを三本並べた。


「なんだよ、お前ら、すっかり夫婦みたいじゃねぇか」

「誰がだよ!」

「だれがよ!」


声を揃えて反論する二人を見て、レイジは爆笑する。

それはどこにでもある、平和な放課後の光景だった。


だが――リクは、風の流れの中に違和感を覚えた。

(……また、いる)


気づけば、遠くの校舎の屋根の上に一つの影が立っていた。


人影は風のように揺らめき、次の瞬間には消える。

それだけで、十分だった。


リクの中の“戦士の勘”が警鐘を鳴らす。

あの夜に現れた模造能力者と同じ、いや、それ以上の気配。


「リク?」


「……ちょっと風が冷たいな」


笑顔を作ってみせたが、ミサキの表情にはかすかな不安が浮かんでいた。



夜。


街の片隅で、再び異変が起きていた。

電柱が曲がり、アスファルトがひび割れる。

逃げ惑う人々の頭上を、無音の影が飛び交う。


「対象M、暴走開始!」

「抑制装置が効かない!」

「撤退! 一般市民の避難を優先しろ!」


AIDの現場隊員たちが悲鳴を上げながら退避する。


そこに現れたのは、黒いパーカー姿の青年――“模造能力者・14号”。


体中を青白い魔素が走り、理性を失っていた。


「ク、ガ……リク……」


かすれた声でその名を呼ぶ。


リクを知っている――いや、“刻み込まれている”。


その瞬間、地上に人影が降り立った。

「探してたのか? 俺を」


風を切る音。


リクだった。


誰も見ていない場所、夜の街角で、彼は“狩り”を始めた。


足元のアスファルトが砕ける。

次の瞬間にはリクの拳が相手の顔面に突き刺さっていた。


「ぐ……がぁぁっ!」


14号の体が壁を突き破り、数十メートル先の建物に叩きつけられる。

リクは追撃を止めない。

ただ静かに、感情のない表情で相手を見下ろす。


「誰が……お前を造った」


「………………」


リクの掌が相手の胸に触れた。

爆発的な衝撃波が周囲を覆い、すべての音が消えた。


「主任、14号が……消滅しました」

「問題ない。十分なデータは取れた」

モニターの前で、ユウトはゆっくりと椅子に座り直す。


そして映像を巻き戻し、リクが相手を打ち砕く瞬間を何度も見返した。


「やはり……彼の力は“神域”だ」

ユウトの手がモニターを撫でるように動く。

その瞳に映るのは、対象K――久我リクの姿。


「いつか、君の力をこの手に……」

その声は、優しくも底冷えするように冷たかった。



一方その頃――リクは夜空を見上げていた。


破壊された街を背に、月光の下でひとり呟く。


「……この世界も、汚れてきたな」


手には微かな血の跡。

風にさらわれて、消えていく。

静寂の中で、リクの瞳が淡く光った。


「次に動いたら……本気で壊す」


その声は誰に向けたものでもない。


ただ、世界に対する“宣告”のように響いていた。


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