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魔眼の勇者の帰還 ──現実世界でも最強です。  作者: 猫撫子


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12/14

再編と覚醒

午前六時。


世界のどこよりも無機質な建物――政府統合局・第零特務管理室《AID》本部。


白い壁に反射する蛍光灯の光。

人の気配はあるが、どこか生気が欠けている。


「……結局、全滅か」

重い声が会議室に響く。

スーツの男たちが並ぶ中、中央のモニターには《コード・ゼロ作戦結果:壊滅》の文字。

神谷零士の映像記録が再生される。

炎に包まれた市街、消える兵士たち。

そして最後に映る、“紅い眼の少年”。


「これが――例の対象R-01か」

「はい。外部記録からの映像補正結果です。戦闘力は少なくともSランク能力者を超越」

「……いや、“超越”という言葉では足りん」


室内の空気が重く沈む。

ある者は腕を組み、ある者は息を呑む。

誰もが理解していた。


この少年が、もし本気で暴れたなら――この国は、終わる。


「対応策を立てねばなるまい」

議長の白髪の男が言った。

「現状では、接触すら不可能だ」

「観測班の報告では、彼には人間を超えた再生能力がある。つまり……不死だ」

「馬鹿な。そんな存在、ありえない」

「だが現実に存在している」

沈黙が支配した。


その沈黙を破ったのは、機械音のような声だった。

「――ならば、殺せばいい」


会議室の端に座る一人の青年。


白衣に身を包み、無機質な瞳をした男。

名は久遠ユウト。

AID戦略開発部主任。


「久遠主任、軽率な発言は――」

「軽率ではない。彼は“人間ではない”。排除対象として扱うのが妥当だ」

「……方法は?」

「簡単だ。彼と同等の力を持つ存在を創り出す」


ざわめきが広がる。

誰もが、その言葉の意味を理解した。


――“能力者狩り”計画。


異能を奪い、人工的に複製する禁断の研究。


「成功すれば、AIDは再び国家の中心に返り咲く」

久遠は冷たく笑った。


「この国の秩序は、力によって保たれる」


モニターの中の少年――リクの笑顔が、一瞬映し出される。


久遠はその映像に指を滑らせ、呟いた。

「お前の眼……解析してみたいな」



そのころ――。


リクの部屋。

朝の光が差し込み、カーテンが揺れている。

机の上には昨夜のカップ麺の残骸。


「おーい、起きてるー?」

玄関からミサキの声。

リクは枕を抱えたまま目を開けた。

「……また来たのか」

「またってなに。朝ごはん作りに来たんでしょ!」

「家政婦でも雇ってる気分だな」

「じゃあお金ちょうだい」

「はいはい」


ミサキは台所で手際よく卵を割る。

リクはベッドから起き上がり、伸びをした。

あの夜の戦闘から三日。

表面上はいつも通りの朝だった。


(……けど、誰かが見てる)


街に出ると、やはり感じる。

昨日までなかった“視線”。

訓練された兵士のそれとは違う。

もっと静かで、もっと遠い。


――観測。


(まぁ、放っておいてもいいか)

彼は笑った。


この程度なら、動くまでもない。


学校では、レイジが教室のドアを勢いよく開けた。

「おっす! リク!」

「朝からうるせぇ」

「昨日ミサキさんと一緒だったってマジ?」

「お前、どこ情報だよ」

「いやー、うわさになってるぞ。ついに付き合い始めたんじゃねーかって」

「違う」

「はいはい、否定するのが一番怪しいんだよな」


笑いながらリクの肩を叩くレイジ。

その背後の窓の外、遠くの屋上に小さな光が走った。

リクの魔眼が反応する。

(……やっぱり、いる)


彼は何事もなかったように視線を外した。

この程度なら、泳がせておく。


追跡してきたのが誰か――すぐにわかる。


授業が終わり、昼休み。

ミサキが弁当を広げる。

「今日のはね、ちょっと豪華だよ」

「何入ってんの?」

「見てからのお楽しみ」

彼女が笑う。

レイジはそれを見てにやにやしている。

「おー、手作り弁当かよ。やっぱ彼女ポジだな」

「違うっ!」

ミサキが真っ赤になり、レイジが爆笑した。


――平和だった。


だが、その裏で、街の空気がわずかに変わっていく。


路地裏。

黒いスーツの男たちが、金属ケースを運んでいた。

ケースの中には、透明な液体のカプセル。

その中で“何か”が蠢いている。


「久遠主任のサンプルだ。慎重に扱え」

「了解」

ケースを運ぶ男たちの目には、恐怖が浮かんでいた。

人間ではない“何か”が、そこに眠っている。


AIDの新たな兵器計画――

模造能力者シミュレイター》計画。


リクが知らぬうちに、世界はまた動き始めていた。


そして夜。

彼はいつものように自室でゲームをしていた。

モニターの光が彼の瞳を照らす。

その奥で、紅の魔眼がゆらめく。


(どうせまた、くだらねぇこと始めてるんだろうな)


だがその瞬間、遠く離れた地下研究室で、

久遠ユウトがリクの映像を見つめながら同じ言葉を呟いた。

「くだらない人間ども、か……だが、君は違う」

彼の口元が歪む。

「君は――僕の“理想”だ」


――世界は静かに、再び動き出す。



夜。

街はいつものように静かだった。

リクはコンビニの袋を片手に、人気の少ない裏道を歩いていた。


「ミサキ、明日も来るって言ってたな……」

苦笑しながら、彼は空を見上げる。

曇りがかった月。

冷たい風が頬をなでた。


その瞬間――

世界の“音”が一つ、途切れた。


(……来たか)


リクの耳には、人の歩調ではない、滑るような足音が届いていた。

ビルの影から、ひとりの男が現れる。

スーツ姿だが、顔には表情がない。

いや、表情を“作る”ことを忘れたような、無機質な顔。


「……能力者か?」

リクが問いかける。

男は答えない。

代わりに、右腕が膨張した。

皮膚が裂け、黒い金属のようなものが露出する。


(機械? いや、違う……)

魔眼が解析を始める。

その構造は、明らかに“人間”ではなかった。

細胞の一部に未知のエネルギー回路――人工的な魔力導管。


「まさか……模造能力者か」


男は口を開いた。

声は歪み、人工的なエコーが混ざる。

「対象コード……R-01……排除」

その瞬間、路地全体が爆発した。


リクは煙の中から姿を現す。

服に焦げ跡一つない。

「おいおい、夜の散歩にしては派手すぎだろ」


模造能力者が腕を振り下ろす。

衝撃波が走り、アスファルトがえぐれる。

リクは微動だにせず、ただその力を観察していた。


(魔力の流れが不安定だ。出力は高いが、制御が粗い)


「本物の力を、知らないだろ」

リクが一歩踏み出す。

その瞬間、世界が沈黙した。


模造能力者の体が、バラバラに砕けた。

血ではなく、黒い液体が路面に広がる。

リクの拳が軽く握られたまま、空気がひび割れる。


(……こんな玩具、わざわざ作ったのか)


彼はため息をつき、残骸を見下ろした。

そこに“人の命”の気配はなかった。


あるのは、造られた存在の“模倣された魂”だけだった。


「誰が、こんなもんを……」



その頃、AID本部の地下。

久遠はモニターの映像を見ていた。

画面には、リクが模造能力者を粉砕する瞬間が映っている。

彼の口元がゆっくりと歪んだ。


「やはり……想定を超えているな」

「主任、サンプルはすべて破壊されました」

「いい。データは取れた。次は、調整済みの第二段階を出す」


モニターの光に照らされる久遠の瞳は、異常な興奮で震えていた。

「もっと見せてくれ……お前の“限界”を」



翌日。

リクはいつものように登校した。

教室ではミサキが待っていた。

「おはよ、リク!」

「……ああ」

いつもと変わらない声。

だが彼の心の奥には、昨夜の不穏な光景が焼きついている。


昼休み。

屋上で弁当を食べる二人。

風が気持ちよく吹き抜ける。

「ねぇ、最近ちょっと疲れてない?」

ミサキの声に、リクは目を細めた。

「そう見えるか?」

「うん。なんか、考え事してる顔してる」

「……まぁ、ちょっとだけな」

「なら、あたしが元気出させてあげる」

「は?」

ミサキは立ち上がり、両手を広げた。

「ほら、元気チャージ!」

「……子どもかよ」

笑いながらも、リクの口元がほころぶ。

その一瞬だけ、異世界の戦いも、昨夜の残骸も消えた。


(……この時間を壊させない)


放課後。

リクは一人、帰り道を歩いていた。

頭の中で、情報を整理する。

AID、模造能力者、そして久遠ユウト。

裏で何かが動いているのは確かだった。


(もしまた誰かが狙われたら――今度こそ、全部壊す)

その決意は、静かな炎のように彼の中で燃え上がっていた。


空の彼方。

一機の無人ドローンがリクの姿を映していた。

通信の向こうで久遠が呟く。

「やはり、君は最高だ……リク」


――人と化け物の境界は、すでに曖昧になり始めていた。



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