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序章 6,試合開始

書き溜めている8話まで一気に投稿します。


カァァァァァァァァァァン!!


開始のゴングが咆哮したその刹那、放送席において――仮面の下でマキシマム・ザ・ドラゴンの涙腺は静かに、しかし確実に崩壊していた。


ついに……ついに、ここまで辿り着いたのだ。


理想と現実の狭間で苦悩した日々、幾千もの壁を越え、拳ひとつで拓いたこの舞台。

だが今は試合を見ねば。

回想シーンは場外に投げ捨てろ、とばかりに、ドラゴンは脳裏に浮かぶ走馬灯を投げっぱなしジャーマンで吹き飛ばす。


その間にも、リング上ではまさにバチバチの火花が散っていた。


開始のゴングとともに、勇者ノブナガと魔王ゼオン――二人の拳が黄金の闘気を纏い、互いに殺意を込めまくった“威圧”をぶつけ、空間を軋ませる。


「さああああああ!! 試合開始のゴングが鳴りました!!! 新たな歴史の扉が開かれたこの瞬間、リング上の二人は互いの目を逸らすことなく、じりじりと威圧し合っていますッ! この開幕の空気、どうですか、セシルローザさん!」


「挨拶じゃな。他の武術大会でも試合開始と同時に挨拶がわりに拳を軽く触れ合わせることがあるじゃろ? つまり、あの拳がぶつかった瞬間こそが、本当の試合の始まりじゃ」


「いや〜怖い挨拶ですねぇ……私、アレを正面から食らったら、この世から綺麗さっぱり消し飛ぶ自信ありますよ……!」


顔を引き攣らせながら言うナーグの横で、ドラゴンは仮面の奥でうっすらと眉をひそめていた。


(……いや、本来ナックルは反則なんだよ……エキシビションマッチとはいえ、記念すべき異世界での1試合目がいきなり拳から始まるとか、どうなんだろう……いや、まあ、でも“攻撃”じゃなくて“挨拶”だし……う〜ん。。。)


地球のプロレスでは反則でも、この世界では常識外が常識になる。わかってはいるが、まだ心のどこかで地球のプロレスに縛られている自分に気付く。


ドラゴンは内心でため息をつきながらも、気持ちを切り替えた。


(そうだ、俺はこの異世界で……この世界に根ざした、新たな究極のプロレスを創ると決めたんだった。。。ありがとう。そしてさようなら、地球のプロレス。君はいつまでも俺の心の中に。。。)


そんなセンチメンタル・ドラゴンの胸中とは無関係に、魔王ゼオンの口元が獣のように吊り上がる。


その刹那――空間が裂けた。


ゼオンが先に動く。放たれる拳を、勇者ノブナガが迎え撃つ。黄金の拳と拳が衝突し、空気が爆ぜる!


「うぉおおおおおっ!! 両者の拳が真っ向からぶつかりました! 威力は互角!! 結界がなければ放送席は確実に木っ端微塵でしょう!!」


「この試合はの、結界の耐久テストも兼ねとる。存分に暴れて、この結界が史上最高のものだと証明してほしいものじゃ」


「おっとぉ!? 今度は両者がノーガードのまま、殴り合い!ラッシュ!ラッシュ!!ラァァァァァッシュッッ!! これはもう、正気の沙汰じゃないッッ!!」


「出鱈目に殴り合っとるように見えておるが、ちゃんと一発ずつ交互に殴り合っておる。律儀なことじゃのう」


永遠に続くかと思えた死闘。だが、次の瞬間――間合いを外して魔王の身体がふわりと浮く。


「ドロップキック!?」


蹴り飛ばされたノブナガはリングの端まで吹き飛ぶも、無傷で立ち、華麗に着地する。


「まるで効いていない!! 勇者ノブナガの驚異的な耐久力ッッ!!」


仮面の奥で、ドラゴンの目が細められ、実況に被せるようにドラゴンが解説を挟む。


「当たり前だ。あれはダメージ目的ではない。距離を取るためのドロップキック――このあと来るぞ、大技が」


刹那、魔王ゼオンから紅蓮の魔力を噴き上げる。


それは燃え盛る魔のオーラ。形を変え、姿を変え――数十のフェニックスがリングの上空に舞い踊る。


「試してやろう――どれほど成長したかをな」


静かに、だが確実に届く魔王の挑発。それはリングだけでなく、放送席に、そしてメディアルームにまで響き渡った。

サンクチュアリの音響魔法、結界の副次効果。その言葉は誰の耳にも、クリアに届く。


「今のセリフ……まるで、かつて戦ったことがあるかのような……?」


ナーグの驚愕に、ドラゴンは仮面の奥で静かに頷く。


「十年ほど前だ。二人は一度、戦っている。俺が立ち会った。間違いない」


「そんなことが……!? それは、記録にも残っていませんでしたが……」


「ふむ、それはワシも知らなんだな」


「当時、ゼオンは既に“絶対魔王”として恐れられていたが、ノブナガはまだ無名の若者だった。ジパングを拠点にする前の話だ。あの時はノブナガが敗れた……この技で、な」


ゼオンの両掌が、ゆっくりと指と指を絡ませ、骨と骨を噛み合わせる。魔王の全身に紅と黒の魔力が奔流し、オーラが荒れ狂うように空間を揺らす。周囲のフェニックスたちが応えるように咆哮し、さらに上空に舞い上がった。


「今度は……ガッカリさせるなよ?」


ゼオンが静かに、だが明確に言い放ち、両拳をまるで天を割るかのように振り下ろす。

それと同時に、数十の紅蓮のフェニックスたちがドリルのように変形し、光の勇者目掛けて急降下し、襲いかかる。


ドゴォォォォォォン!!!


無数の爆発がリング上に咲き乱れる。

そのあまりの威力に、実況席のナーグは言葉を失う――


「……なかなかの威力じゃ」

「十年前とほぼ同等。言葉通り、試しているんだろうな」

「な、なんという技なんでしょう……これが、若き勇者を倒した………」

「――オーバー・ザ・スカイハリケーン・キングフェニックス・ハンマーだ」


「……え?」


仮面の奥、ドラゴンの口元が緩む。見えはしないが、その笑みは間違いなく満足げだった。


「オーバー・ザ・スカイハリケーン・キングフェニックス・ハンマー、だ」


「えっと………、それが今の技の名前ですか?」

「うむ。かつてこの技でノブナガが敗れた時に、俺が命名した。魔王に“好きにしろ”と言われたから間違いなく正式名称だ」

「ということは……魔王本人の公認ということでいいのでしょうか?」

「公認だ。これが公認でないなら、この世の全てが非公認になるレベルだ」

「……好きにしろと言った魔王がツンデレなのか、ドラゴンさんが無茶苦茶なのか……」

「アイツは全肯定魔王なんだよ。俺にとってはな」

「長いを越えて、くどい名前じゃな」


セシルローザが、表情を変えぬまま、短く刺すように呟いた。

その鋭い呟きに呼応するかのように、リング上から光が立ち昇る。


爆炎の中心――そこに倒れた男の姿があった。天空から降り注ぐ、紅蓮の嵐を全て受けきり、それでもなお立ち上がる、勇者ノブナガ・レオンハルト。


「ノブナガは、いまだ健在。………勇者はいまだ健在なり!!!」

「この十年……無駄ではなかった、ということじゃな」


ノブナガの口からは一筋の血が流れている。

だが、それだけだ。ノブナガが一歩、また一歩と足を踏みしめるたび、周囲の空気が震える。


「待たせたな、ゼオン。俺がおまえ自身も知らない本気の向こう側に連れてってやるよ」


"光の勇者”と呼ばれる所以となる聖なる闘気。その上に雷光。

黄金の闘気が、白い雷光へと転じる。


その瞬間、セシルローザの目が、僅かに見開かれた。


「これはまさか……『白雷』か」

「お、知ってるか」

「もちろんじゃ。最古にして最強と謳われた戦闘術。ワシが最後に見たのは、四百年前じゃな」


「『白雷』……!? そんな戦闘術が、まだ生きていたなんて……!」


ナーグの言葉が震える。


雷光を纏ったノブナガが、吠える。


「ガッカリさせるなよ、絶対魔王!!!」


続きを読んでやってもいいぞ、という方は、

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