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序章 4,プロレスを知らない記者たち

書き溜めている8話まで一気に投稿します。


クラウド・ストームブラッドが覆面レスラーを選んだことは、マキシマム・ザ・ドラゴンにとって予想外のことだった。

興味は持つだろうとは思っていたが、目立ちたがり屋のクラウドが最初から覆面レスラーを選ぶとは思っていなかったのだ。


冒険者たちに契約書を渡し、試合を見せるために闇魔法で照明を落として部屋から煙のように姿を消す、そこまでは計画通り。

それからすぐ放送席へ瞬間移動するつもりだったのだのだが、クラウドに仮面を渡すという突発的なイベントにより、放送席に行くのが遅れてしまった。

たが、覆面レスラーを確保できたと考えれば、結果は上々だ。ドラゴンの合流が遅れたことで現場は少し混乱しているかもしれないが、10年かけて集めた精鋭スタッフ達ならば何ら問題はないだろう。――などと考えながらドラゴンは今度こそ放送席へと瞬間移動した。



------------------------------------------------


格闘技専門の中堅記者ジャナレポは、あまり期待せずにメディアルームで温いビールのように気の抜けた顔でボンヤリとしていた。


新商業地区に新設された『サンクチュアリ』なる闘技場。そして突如マスコミ各位に送りつけられた招待状。胡散臭さ満点だったが、好奇心が勝った。

そしてその日は来た。

ジャナレポは、想像の35倍くらい施設として素晴らしい『サンクチュアリ』に度肝を抜かれつつ、案内されたのは機能美に溢れたメディアルームだった。

そこに現れた招待状の主人は、怪しげな竜の仮面をつけた男だった。

仮面の男はどう見てもギルドマスターっぽいのだが、マキシマム・ザ・ドラゴンと名乗った。


ギルマスとしか思えない仮面の男曰く、今からプロレスの試合があり、その後に記者会見を行うとのことだった。


『サンクチュアリ』はお世辞抜きに素晴らしい試合開場だ。どの会場にもあるコストカット仕様の箇所は見当たらず。どの席からも視界良好。

1Fアリーナ席は椅子がなく、スタンディングでも指定席でも対応できる可変式。2〜5階の座席は上質なクッションが採用されていた。

誰がどう見ても、機能美の側面からも、建築物としても、最上級の闘技場でだった。


だが正直なところ、それなりに格闘技系記者として経験を積んできたジャナレポでさえ、プロレスという名の格闘技は聞いたがなかった。


おそらく自分と同じように招待されたであろう記者たちも何をどう期待していいのかわからず、様子見といった雰囲気だ。


しかし、中央のリングに勇者と魔王が現れた時は流石にメディアルームも沸き返った。けれどジャナレポは、その熱に身を委ねることはなかった。


迷宮都市はいろんな武術大会があるが、一番人気があるのはA級かB級の冒険者による戦いだ。

実のところ、S級冒険者の戦いはそんなに人気がない。上級冒険者たちが内輪で盛り上がる程度だ。


何故か?


シンプルに「速すぎて見えない」のだ。


片方が瞬間移動して2、3秒後にもう1人が倒れる。隣の席の上級冒険者らしき奴が「なんて一撃だ・・・ヤバすぎる」などと呟く。


それでおしまい。


S級同士の戦いはそういうのが本当に多い。


短時間で終わるならまだマシだが、衝撃音だけで姿の見えない戦いを延々と見せられるのは興醒めだ。

だから、S級は基本的に試合に出てこない。S級になったら各種の武道会は事実上の引退と同義だ。

ジャナレポとてC級冒険者程度の嗜みはあるが、それでもS級は目で追えるレベルじゃない。勇者と魔王の戦いなど尚更だ。

勝敗にこそ多少の興味はあるが、試合自体はどうせ何が起こっているかわかるはずがない。

記者目線で言えば記事が書けない。書けたとしても、後書きだけ読んで書いた読書感想文のような、そんな臨場感のない記事になるだろう。


ジャナレポが盛り上がる記者たちを冷めた目で見ていると、建物全てが闇に包まれた。

たぶん闇属性の魔法だろうとジャナレポは直感した。あまりに深い闇に包まれたからだ。


10秒ほどしてリングだけが薄明るくなり、審判らしき男エルフが現れた。


「本日は、スーパー・ストロング・プロレスリング、幻の第0回、勇者vs魔王のエキシヴィジョン・ワンマッチ興行にお越しいただき、誠にありがとうございます」


聞き慣れない競技団体名に大仰な口上。


「本日はメディアと一部の関係者を除き、無観客の興行となっておりますが、伝説の始まりとなることはもはや確定しております。希少な伝説の目撃者となった皆様には、遠慮なくそれぞれの目線で語り継いでいただきたいと思います。それでは選手の入場です」


なんて傲慢なアナウンスだ、そもそも煽りすぎだろ、とジャナレポは内心ツッコミを入れつつ、吐息をついた。だが、そんなジャナレポの感情をまるで無視するかのように選手の入場がアナウンスされる。


「青コーナー、迷宮都市ジパングの光の勇者、ノブナガ・レオンハルトォォォォォォォォ!!!!!!!!!」


これまでの倍以上の声量で響き渡るアナウンス。そして、ヘビィメタリックなエレキギターの轟音が印象的な入場曲が爆音で流れ、無観客の会場で記者席だけが湧き上がる。


リングの一角から土魔法で青い柱が迫り上がった。

ジャナレポは戦慄した。柱の青き輝きが、硬さと柔軟性を併せ持つ軟オリハルコンであることがわかったからだ。

一体とんなレベルの土魔法だよ、という言葉が思わず口をつく。


柱上には剣を掲げた光の勇者がいた。

掲げられたのは聖剣エクスカリバー。

ノブナガのことを何も知らなくても見る者すべてに“本物”と直感させる、説得力。まさしく英雄の具現。


ジャナレポは、無観客でなければ会場はどれだけ沸騰していたのかを想像し、鳥肌を立てる。


「赤コーナー、迷宮都市ムーランティスの絶対魔王ッ、ゼオン・ヘルフィールドォォォォォォォォ!!!!!!!!」


青コーナーの対角線上に迫り上がった赤い柱は紅蓮のヒヒイロカネ。

誰だか知らんが、やっぱりかよ化け物め。

ジャナレポは再び唇を噛んだ。


柱の上で魔剣ラグナロクを掲げた魔王。ただそこに在るだけ、にも関わらず凄まじき“圧”。

長い歴史の中で大魔王と呼ばれた者はいても、絶対魔王と呼ばれた者はいない。

だがしかし、ゼオンの堂々たる佇まいはまさに絶対魔王――その二つ名にふさわしい、威容。


ジャナレポは衝動的に、無意識にペンを動かした。


書かなければ。


例え、これからの戦いが速すぎて何も見えなかったとしても、書くべきことは必ずある。

冷め切っていたはずのジャナレポの記者魂に火が灯った。他社よりもいい記事を書きたいと思ったのはいつ以来か。ジャナレポは眠っていた情熱が燃え上がるのを感じるがままにペンを走らせる。



リング上では、ノブナガとゼオンはそれぞれが持つ聖剣エクスカリバーと魔剣ラグナロクをレフェリーと思しき男に手渡す。


どういうことだろうか?


ジャナレポが疑問に思っていると、ノブナガとゼオンがそれぞれコーナーに戻り、重厚な鎧などの装備を外しはじめた。


本当に一体どういうことだ?


「こちら放送席です。ここからは私ナーグ・リン・キョーウッジが実況を担当させていただきます」


リングの側の一区画にうっすらとスポットライトが当たる。そこにいた実況アナはこの業界における大物の一人だ。


ジャナレポの期待値がまた一つ上昇する。


ナーグは武術系の実況アナの中ではトップクラスの人気を誇っている。

理由は声の良さ。そして何より、一般的には見えない速度の戦いをわかりやすく実況できる、S級にすら匹敵すると言われる目の良さが人気の秘密だ。

逆に言えば、これから始まる試合は彼の実況が必要な領域ということだ。


「そして解説には、世界最大最恐の魔境とされる世界樹の樹海より、最強の戦闘的エルフ集団『樹海戦線』の先先代総長セシルローザ・ハイウィンドさんにお越しいただいております」

「セシルローザだ」


大物過ぎる。。。

ジャナレポだけでなく、メディアルームの全員が言葉を失った。


『樹海戦線』はユグドラシル帝国軍とほぼ同義。総長は皇帝とほぼ同義だ。


そういえば、リングアナとして入場アナウンスをしていた男は『樹海戦線』の先先代副総長ではなかろうか。写真でしか見たことがなかったが、そうとしか見えない。


何故こんな怪物たちが。。。


「そしてもう一人、ゲストコメンテーターとして、この試合およびスーパー・ストロング・プロレスリングの主催者でもあります、謎の仮面レスラー、マキシマム・ザ・ドラゴンさんにお越しいただいております」

「よろしくお願いします!」

「ドラゴンさんは、えっと、ギルドマスターのマキシーさんとは………」

「完全なる別人だ」


嘘つけ!!!


異口同音のツッコミがメディアルームに響き渡った。


続きを読んでやってもいいぞ、という方は、

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