ここ掘れわんわん
「ああ、有名になりたいなあ」
犬の散歩をしていたその青年はなんとなくそう呟いた。別に本気でそう思っているわけではなく、ただなんとなく呟いてみただけの言葉だった。
すると犬が青年のほうを向き、先ほどの言葉に返事をするようにワンと一声吠えるといつもの散歩コースとは違う方へとトコトコと歩いていった。
リードを握る青年はどうしたのだろうと首を傾げるが、わざわざいつものコースに戻る必要もないのでついて行くことにした。
しばらく進んで整備のされていない荒れた空き地に着いた犬はまた青年の方を向くとワンと吠え、一箇所でくるくると回り始めた。そしてまた首を傾げるだけで特になにも動こうとしない青年に焦れたのか前足を使ってそこを掘り始める。
「おいおい、なにしてるんだよ。まさかお宝でも埋まってるのか?」
青年は笑いながら言うが、犬の必死な様子を見てなにかを感じ、近くに落ちていた木の板を使って掘るのを手伝うことにした。
そうしてしばらく掘り進めると……。
「お、なにか出てきたな」
なにか地面とは違う硬いものが手に触れる。石かなにかだろうと思って掘り起こしてみた青年は、それがなにか気が付くと驚いて思わず放り出してしまった。
青年が放り出したそれを犬は咥えると、尻尾をブンブンと振って青年に見せてくる。
「ははは、お前にとってはお宝かもしれないけど、僕にはなんの価値もないよ」
なにかの動物の骨の化石らしきものを咥えている犬の頭を撫でながら青年はそう言った。
その化石は現在の常識ではこの地域には住んでいなかったとされる動物の化石であり、もし発見した場所と一緒に公表すれば一躍有名人になれたはずのものであろうことに、青年はついぞ気が付かなかった。