第7章 むにゅむにゅ触手の森
石版の文字が光と共に消え、目の前の重々しい扉が「ゴゴゴ……」と音を立てて開いた。
俺たち勇者パーティーは、いよいよ「絶頂の迷宮」の第一階層へと足を踏み入れる。
「よし、みんな!気合入れていくぞ!」
「言われなくても!」
俺の掛け声に、幼なじみの剣士ソラが威勢よく返す。
扉の向こうに広がっていたのは、洞窟のような閉鎖空間ではなかった。
生暖かく、少し湿った空気が肌を撫でる。
そこは、天井から射す妖しい光に照らされた、薄暗い森のような空間だった。そして……。
「うわあ……本当に触手がいる……」
ソラの呟き通り、地面や壁、天井から、無数のピンク色の物体が、まるで意思を持っているかのように「むにゅむにゅ」「うにょうにょ」と蠢いていた。
「あらあら♡ なんだか可愛らしいですわね」
金髪のロングヘアーを揺らし、神官戦士の装備に身を包んだリリアが天然なことを言う。
彼女の豊かな胸は、装備の上からでもその存在感を主張していて、歩くたびにぷるんと揺れる。
「リリア。油断は禁物です。この迷宮の生態系は未知数。慎重に進むべきかと」
パーティの知性、エルフの魔術師エルノアが冷静に分析する。
緑のローブに身を包んだ彼女は、尖った耳を知的に揺らし、アメジスト色の瞳で周囲を観察していた。
蠢く触手たちは、ゆっくりと、品定めでもするかのように俺たちに近づいてくる。
敵意は……まだ感じられない。
「みんな、慎重に進もう。俺が先頭を行く」
俺は勇者らしく赤いマントを翻し、一歩前に出た。
その瞬間。
ぐにゃっ!?
足元の存在を忘れていた。
俺の足はピンク色の触手に見事に引っかかり、俺の体は盛大にバランスを崩した。
「うおわああああ!?」
「きゃっ!?」
俺の体は、慣性の法則に従って、すぐ目の前にいたソラへと突っ込んでいく。
――ぷちんっ。
何か、紐のようなものが切れる、いや、解ける音がした。
「きゃーっ!」
ソラの悲鳴。
俺が顔を上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。
俺がぶつかった拍子に、彼女の剣術着の帯が綺麗に解けてしまっていたのだ。
はだけた合わせ目からは、白い肌と、その下に着けられた紅蓮色の、やけに装飾が凝った下着がくっきりと見えている。
「な、何見てんのよ!」
「うわあああ! ご、ごめん!わざとじゃ……!」
俺は慌てて顔を逸らす。
――ドンッ!
顔を逸らした先には、柔らかくて巨大な何かが待ち受けていた。
「あらあら♡ ケインさん、激しいですわね」
リリアのんびりとした声。
俺の顔面に押し付けられていたのは、彼女の豊満すぎる胸だった。
しかも、俺が激突した衝撃で、彼女の胸当てのストラップが弾け飛んでしまっている。
もはや布一枚を隔てているだけとなった神々しい双丘が、俺の鼻先でたゆんと揺れた。
「あわわわ……あわわわわ……!」
「これも神様の思し召しですわ♡」
純粋な善意(?)で微笑むリリアと、目のやり場に困るどころか視界の全てが聖域と化した俺。
パニックは頂点に達した。
「ああああ!」
俺は意味不明な叫びを上げ、その場でくるくると高速で回り始めた。
そうだ、こうして回っていれば、何も見なくて済むはずだ!
「ちょっとケイン、危ないじゃない!」
「きゃっ」
俺の回転に、今度はエルノアが巻き込まれた。
俺が着ているマントの裾が、彼女のローブの裾を華麗に巻き上げる。
ふわり、とめくれたローブの下から現れたのは、エルフ族特有の透き通るような白い肌と、上品なレースで縁取られた薄緑色のショーツだった。
「これは……予想外の展開ですね」
エルノアは冷静な口調でそう言ったが、その頬はほんのりと赤く染まり、トレードマークの尖った耳の先が、ぴくぴくと小刻みに震えている。
第一階層に足を踏み入れて、わずか数十秒。
俺の体質のせいで、パーティーの女性陣三人が、それぞれ異なる形で恥ずかしい目に遭ってしまった。
当の触手たちは、そんな俺たちのドタバタ劇を、なんだか楽しそうに眺めているように見えたのは、きっと気のせいだろう……。
◇
むにゅむにゅと蠢くピンク色の触手たちは、まるで俺たちを歓迎しているかのように道を空けてくれる。
……が、その動きは明らかにさっきよりも活発になっていた。
「なんだか……さっきより、ぬめぬめ光ってないか?」
「気のせいではありませんね。迷宮内の魔力濃度が、わずかに上昇しています」
エルノアが冷静に分析した、その直後だった。
ニュルルルルッ!
道を開けていたはずの触手たちが、一斉に鎌首をもたげ、襲いかかってきた!
「触手を避けるぞ!」
俺は一番近くにいた触手のぎこちないタックルを、右にステップして華麗に回避!
……したつもりだった。
「あら?」
その瞬間、足元で布を踏みしめる感触と、リリアの可愛らしい声が重なった。
しまった、と振り返る間もなく、彼女が着ていた神官戦士装備の純白のスカートが、ふわりと空中を舞う。
そこに現れたのは、シルクのガーターベルトに留められた純白のストッキングに包まれた、まぶしいほどに白い太もも。
そして、その奥に鎮座する、レースで縁取られた清らかな聖域……!
「あらあら♡ ケインさんたら、大胆ですわね」
リリアは恥ずかしがるどころか、面白そうにクスクスと微笑んでいる。
その慈愛に満ちた女神のような微笑みが、逆に俺の純情な心臓に突き刺さる!
「うわあああ! ご、ごめん!わざとじゃ……!」
俺は顔を真っ赤にして慌てて目を隠す。
しかし、俺の「スケベ回避行動」は、常に事態を悪化させるのだ!
後ずさりした俺の背中に、ドンッ、と柔らかい何かが激突した。
「これは……予想外の展開ですね」
クールな、しかしほんの少しだけ上ずったエルノアの声。
俺がぶつかった衝撃で、彼女が着ていたエルフローブの胸元のボタンが、無情にも弾け飛んでいたのだ。
開いた合わせ目からは、普段は知的なローブに隠された、紫色のレースに包まれたささやかながらも完璧な形をした双丘が、その美しい谷間を覗かせている。
「……っ」
エルノアは冷静を装いながらも、その頬は熟れた果実のように赤く染まっていた。
この、立て続けに発生したハプニング。
甘く、そして淫靡な空気が森に満ちた、その時だった。
――ニュルルルッ!!
さっきとは比べ物にならないほどの勢いで、触手たちが一斉に活発化した!
まるで、俺たちが生み出したこのエッチな状況を喜ぶかのように!
「あら? 触手たちの様子が……」
リリアが気づいた瞬間、ぬるりとした複数の触手が、彼女の足首に絡みついた!
「きゃーっ!」
可愛らしい悲鳴と共に、リリアの体がふわりと宙に持ち上げられる。
逆さまにされた彼女のドレスが重力に従ってめくれ返り、先ほど垣間見えた純白の聖域が、今や完全に白日の下に晒されていた。
「リリア!」
ソラが剣を抜き、駆け寄ろうとする。
だが、別の触手がまるで熟練の盗賊のように素早く、しかしどこか紳士的な動きで彼女の背後に回り込み、剣術着の帯にその先端を引っ掛けた。
「ちょっと! 何するのよ!」
するり、と音を立てて帯が解かれていく。ソラが抗議するが、触手は意に介さず、ゆっくりと、じらすように彼女の服を緩めていく。
合わせ目がはだけ、白い肌と豊かな胸の谷間が少しずつ露わになっていく。
「や、やめ……!」
エルノアもまた、複数の触手に囲まれていた。
弾け飛んだローブの隙間から侵入してきた触手が、残りのボタンを次々と器用に外していく。
「これは……学術的に大変興味深い状況ですが……っ!」
冷静を装おうとする彼女の口から、吐息が漏れる。
触手の一本が、はだけた胸の谷間をぬるりと這い、その先端で素肌をなぞった。
「エルフの尊厳にかけて……あ、あんぅ……♡」
びくん、と震えるエルノアの体。
知的な彼女が漏らした甘い声は、森の空気をさらに淫靡に震わせた。
「み、みんな! 今助ける!」
俺は叫ぶ。叫ぶが、目の前には逆さ吊りにされて無防備な姿を晒す女神官、服を剥かれかけている女剣士、そして未知の快感に身をよじる女エルフという、あまりにも刺激的すぎる光景が広がっている。
(見ちゃダメだ! でも助けなきゃ! でも、見え……あああああ!)
助けたい気持ちと、抗いがたい煩悩の板挟み。
俺は頭を抱えて混乱するしかなかった。
ピンク色の触手が蠢くこの森が、ただの通り道ではないこと。
そして、この絶頂の迷宮の真の試練が、今、まさに始まったことを、俺たちはこの時、ようやく理解したのだった。