第九話 戦いたくない勇者①〜「僕」
僕が召喚されたのはアーリア王国という異国の地だった。突然の出来事に僕は驚きを隠すことができなかった。そしてその国の王と思われる男は僕に対してこういった。
「遠い異国からよくぞ参った。突然の話で申し訳ないが君には勇者として魔王軍と戦っていただきたい」
僕の生きた時代にゲームの知識なんてあるわけがなかった。
生きるのだけで精一杯だったという時代にゲーム機なんていう金属があれば回収に出さないといけなかったし、そもそもそんな技術があるくらいだったら、全部戦艦や戦闘機、戦車、軍事用の無線通信に使われてその情報は口外するなと言われて、平和な技術が発達するわけもなかった。
もう戦争なんて散々だった。僕の家族、平和、そして幸せを奪った戦争をなぜしなければならないのかということに僕は憤りを覚えた。
「なぜ魔王軍と戦わなければならないのですか」
「なぜと言われたら、土地を奪われ迫害され常に侵攻の恐怖におびえながら暮らさねばならぬのだ。民の平和を願うならこの判断は仕方がないということになった。本当に申し訳ない」
「別に僕がここに吹き飛ばされたこと自体、怒っているわけではありません。でもね。本当に戦争しかないのですか?」
「何度も議論を重ねた。それでも回避は難しい」
「相手がアーリア王国を攻める理由はどういうものなんですか」
「それがわかったら苦労しない」
「なら、僕が調査に行きます」
僕がそう言うと周りがざわつき始めた。貴族だろうか。何か、勇者を行かせたらまずいとか戦力が消えると皆不安になるとか言い始めている。僕は言ってやった。
「あんたたちは僕が召喚される前の国を知っているのか‼‼」
すると次々と知るわけがないだろうと言い始めた。
「僕のいた世界での戦争とこの世界での戦争は全く違うかもしれない。けどね!一歩間違えたら僕のいた世界と全く同じ戦争になるかもしれないんだよ‼」
「だったらどうなるというのだ」
この貴族の言葉に僕はブチ切れた。
「いいか、耳を澄ませてよく聞け!僕たちのいた世界で起きた戦争は大東亜戦争(今でいうアジア・太平洋戦争)って言って僕の知る限りだって数えきれないほど死んでいるんだ!そのほとんどが民間人だぞ、民間人!武器を持たずただ国の権益争いに巻き込まれて平和に生きたかった人生を全部奪われたんだ‼戦争に行く人たちにご飯をあげるために僕らは餓死だってしている!前いた世界の戦争の結果がどうなるかなんて見えてはいるのに、戦争をやめれず憎むべき相手がこの世から消え去るまで続くんだぞ‼そのことを分かったうえで言ってんのか!戦争をするって。覚悟してんのか!自分たちが殺戮者になったり他の中立を守っている国にまで戦争の火種を巻きかねないことを‼‼」
そう言い終えると疲れて何も言う気が起こらなくなった。でもなぜかスッキリした。なんでだろう。すると国王が来てこういった。
「ありがとう。僕は戦争というものを甘く見ていたのかもしれない。おかげで私の悩みが少し減ったよ。この話を重鎮に話してほしい。戦争という愚かさを。この話を聞いたうえで最終判断をする」
「……ぶっちゃけ言えば僕がどうなろうとどうでもいいんです。でも、あの地獄をもう見たくない」
そう言って僕は一旦用意された部屋に行くことにした。その部屋は僕が思っていたより豪華だった。
「お疲れ様です。勇者様」
侍女がそう言ってきた。その人に聞くと大抵のことを話してくれた。アーリア王国は魔王軍に土地を奪われ生活が困窮していて
・勉強したくてもお金を稼ぐために学校へ行けない現実。
・国境付近での不法移民。
・強大な都市殲滅用魔法の開発疑惑。
・自国民の集団虐殺。
これを聞くと相手もひどいとは思う。集団虐殺なんて何の理由があっても許されない。民間人を巻き込んでまですることではない。そんなことをする奴は外道以下だ。
本人も苦労していたそうで魔王軍に対して相当な憎しみを持っていた。
「許せないんです。私の家族を奪っているのに楽な生活を送っていることが!っ……すみません。少し感情的になりました」
彼女の気持ちはよくわかる、でもこれだけは言わなければ
「君の気持ちはよくわかる。けどこの戦争でどっちかが滅んだって、また分裂して戦争が起きてまた滅んでの繰り返しで、遠い未来で人類が滅びないわけがない」
「じゃあ私の家族の仇は誰が討つって言うんですか!」
「仇を僕がとれば確かに君は前に進める。でも、相手はどうだ。僕という仇を討つまで絶対に戦争をやめないよ。どんなにつらくても、憎しみの連鎖はどちらかが勇気を出して止めるしかないんだ……」
「それは……」
僕がそう言うと黙り込んでしまった。
「きついことを言って申し訳ない。でも、実際の戦場を僕はもう経験したくないし、作りたくもない。だから絶対に約束する。この戦争を未然に防いで見せることを。そしてもう悲劇が繰り返されることがないようにすることを僕の全存在をかけてやってのけるよ」
そういうと侍女は、
「できればいいですね」
といった。僕はこう答える。
「勇者だから。できないことはないはずさ。挑戦している限りは」
僕はこうして魔王軍に剣を使わず、挑むことを決意した。






