第四話 どうやって何とかするの?~「私」
まあ、現状は良く無い。相手が買収を仕掛けると聞いてから一週間が経った。やはり家の技術に目をつけてそれを我が物にしてしまおうとしている。
その対策方法は、自分の会社の価値を下げる、例えば株式を大量発行するという噂をやれば相手も少し躊躇うだろうと言う案も出たのだが即座に却下された。何故なら相手が欲しがっているのは会社の特許権だ。会社の価値を下げたところで全く意味がない。それどころか更に買収されやすくなる恐れすらあった。
だから私は逆に相手に買収を仕掛けてしまおうと提案した。ライバルの会社は経験上結構しつこい。だからここでライバルとの戦いに決着を着けようと考えたのだ。
「社長、マジでどうします?買収すると言っても相手の株は少なく見積もってもウチの1.5倍の額ありますよ?」
「買えなくはないけど予算の7割は使うよ」
「赤字覚悟なら買えるが残念なことにライバルはそいつらだけではないから、今すぐに買うと他のライバルは確実に僕らの弱みに漬け込んでくる」
だとすると会社の収益をもっと増やすしかない。
今までやってこなかったけど、この作戦なら有効だ。
「よし、CMをするぞ!」
ウチは今までCMには手を出して来なかったが少しでも投資してもらって会社の収益を上げ、損害を最小限に抑える。それが今最も効果のある策だ。
「でもウチにはCMを作れる技術者はいないよ?」
「……ライバルからヘッドハンティングするか」
「マジですか……」
「マジだよ」
ライバルはCMをたくさんやっている。なら相手から1人引っこ抜く。ライバルの株主総会での前年度の決算は結構派遣に人員を割いていた。そして風の噂だが本日限りで派遣が切れる丁度いい人がいるそうだ。
「あの会社の前に立って人を探せ。そいつが頼みの綱だ」
彼を逃せばCMづくりは難航する。時間がかかればかかる程相手はウチの株をドンドン買ってくる。
「時間がない。急げ!」
もう夜の11時だ。だいぶ難航しているようだがこの間にもライバルはウチの株を取得していた。思ったよりスピードが速い。経営権取得まで残り1か月といったところだ。待っている間にCM事業部を立ち上げた。10人割いているが今はまだCMの勉強中だ。このままでは間に合わない。すると電話が。
「社長!彼がウチに来てくれるって‼」
思わずみんなと抱き合って大喜びした。だがここで終わりではない。
「みんな!まだ戦いが終わったわけではない!CMが完成して買収が終わるまで油断するな!」
みんな、一気に冷静になって作業に取り掛かった。本当に頼もしい。
翌日、彼がきてウチのCM事業部を見たとき
「CM自体はダメダメだが、雰囲気はこっちの方が良い。俄然やる気が出てきた」
そしてCM事業部は昨日立ち上げたというと
「マジで伸びしろしかねぇわ」
と言ってくれた。だが……
「契約も含めて1週間でできる」
普通だったらまだ速いほうだ。だが時間は待ってはくれない。多分1週間後には会社の解散請求が出来てしまう。となると、もう1個の切り札に頼るしかない。
新しい業務用冷蔵庫の開発だ。
今までだと冷蔵する際にどうしてもできてしまう「ムラ」をもっと減らせて、かつ「ムラ」がなくなるため、電力を大幅に削減できる。さらに操作も従来に比べて単純にできるようにした、海外向け製品だ。
今の世界は複雑で高性能、高価格な物より単純で安い物の方が良い。円安も味方してくれている。
この計画は以前から進めてはいたが、買収されそうになっていることを知ってからは急ピッチで計画を進めている。
「どこまで進んだ?生産工場との契約はもう取れたぞ」
「マジですか!ありがとうございます。今日が開発の大詰めです。明日にはテストを含めて完成するかと」
「良かった!」
これでなんとかなった。だがやはり時間がかかる。その間に急激な変化が起きるかもしれないから油断は禁物だ。
しかし、悲しいことにこの予想が当たってしまった。
「社長!!緊急事態です!ライバルの株式の保有率が一気に3分の1を超えるようなお金を出したと言う情報が入りました!」
「ヤバイぞ、それは!それだと議決した際にウチの会社の意見が中々通らなくなる!」
ここで仕掛けて来るとは思わなかった。こうなったらもう一気にこっちが仕掛けるしかない!
「借金しても良い!まだ証券取引所は閉まっていないから相手の株式の五割買え‼」
この対応が功を奏し、買収されずには済んだが損失が大きい。私としたことが……チッ、しくった……借金返済計画を常に立てていたのは良かったが2000万円借金したのは大きな痛手だ。
「国に届け出しなくて良いのですか?」
「確かにな……トラストになるのか」
独占禁止法は大きな企業同士の併合は禁止してはいないが、届け出や許可が必要な事がある。何故ならその市場が寡占や独占になり消費者に不利になることがあるからだ。だが……
「いや……私達は経営権を握っただけでまだ併合してはないし、お互いがお互いを牽制し合っている状態だからコンツェルンにもならないと思うぞ」
「でも明日は併合についての役員会議ですよね。俺ら……ゴホンゴホン、私達もでないといけませんし、どうせ国の許可は必要になりそうですよ」
「面倒くさいな……明日欠勤しようかな」
「病気でもないのにそれやったら絶対に許しませんよ」
「分かっているよ。ただ、運が良いのは新商品とCMの制作がとても上手くいったことだな。だから借金の方の心配はしなくて良いよ」
「後は投資家達の動向ですね」
「今のところは大きな動きはないが、この状態だと直に買収されてもおかしくはないな」
「無担保で借金できたのは大きいですね。担保があったら更につけこまれてもおかしくはなかったですよ」
「ああ、だが株は俺らの私費も含まれているから明日からもやし生活だな……」
「え……」
「だって予算を動かすには株主総会を開かないといけないじゃないか。それだと時間がかかる。もう開き直って併合の会議の内容を考えるぞ……」
今日は寝れそうにないなと憂鬱な気分で仕事に取り掛かろうとしたら
「会議の資料を作るのか。それならもうできたぞ。だからもう帰って寝ろ。明日体調崩したらウチのほうが契約が不利になるぞ。弱みを見せるなよ」
取締役が神様に見えた瞬間だった。この後、みんな家へ帰り元気な状態で会議に臨むことができたのであった。
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