第十四話 二つ目の裏切り〜「僕」
僕は魔法の練習が終わった後、リーセに魔王軍侵攻の日時を聞くことにした。いつまでにコンディションを整えればいいのかなどを早めに決めたいからだ。
「予想だと多分、半年後って諜報部が言っていたみたいだよ」
「意外と余裕があるな。それとあと、兵力の差はどれくらいなんだ。場合によっては……いや最終手段か」
「えっと、国軍が5万なので、大体10倍の兵力差がありますね」
「10倍って、相手が5000ってわけじゃないよね。多分そうだろうけど」
「察している通り、相手は50万近くになるね」
「それぐらいだったら何とかなる。もっと多かったらまずかったけど」
「何が何とかなるの」
「話し合いが」
「まだそんなことを言っているんだ。でも諦めなければ君ならできそうだね」
「ありがとさん」
そう言いながら笑いあって王都の方角へ向けて歩き出した。
この時、事が順調に運びすぎているときほど注意をしなければならない。そのことを失念していた自分がいた。
王都へ帰る途中のことだった。暗い夜道。町の入り口が見えたところで嫌な気配がした。
「気を付けて」
「分かった」
この注意も虚しく、リーセが消えた。そして僕も不意打ちを食らい意識が消えた。
「おい、起きろ」
僕はこの一声で目が覚めた。縄で縛りつけられていて苦しい。首の近くには騎士が剣を近づけて待っていた。一体ここは……そう思っていると一気にピンときた。横を見ても誰もいない。一瞬で分かった。謁見したときの部屋であると。そして、その目的にも。
「誰だあああああああ!」
国王がやってくる最中にぶち切れて怒鳴った。僕が怒っているのは国王に対してではない。あのお人好しな世間知らずの国王をその良心に付け込んで唆した屑に対してだ。国王がこんなことをするわけがないのだ。陛下は僕の意見をよく聞いてくれた。お人好しな面もあると感じていた。そんな陛下に、こんな卑劣なことが実行できるわけがなかった。
僕の怒声を聞いてそこにいた貴族の重鎮たちがざわめきだした。
「狂ったのか?」
「そりゃそうだろ、突然誘拐されてここに立たされれば」
「勇者も所詮こんなものか」
気に入らねえ。聞こえてくる貴族たちの声が、マジで気に入らねえ。リーセはきっと別の場所で監禁されているのだろう。
事の顛末はこうだろう。国王は魔王討伐に反対の僕の意見をつたえてくれた。だが、重鎮は討伐に賛成の者が少なく孤立した。そして誰かがその時の弱みに付け込んで国王を唆した。僕が召喚されたときも僕の意見に嫌悪感をあからさまに示す者は多くいた。
いつもそうだ。戦争なんて国民の意見は二の次で、国の偉い人が多数決で決めて毎回死ぬのは国民だ。ふざけんじゃねえ。戦争に行かなかったら刑務所で拷問を受けて死ぬ。家族も巻き込まれる。
彼女は人質なのだろう。僕が意見に従わなかったら、殺す気だろうか。
「おい、テメェらに聞く。僕をどうする気だ」
「君には魔王討伐へ行ってもらう」
隣にいた一人の重鎮が答えた。
「どうせそんなことだろうと思っていたよ。後、もう一つ聞く。彼女をどうするつもりだ」
ここでリーセの居場所を聞いても答えてくれるわけがない。だから今、どう扱っているのか気になったわけだが……
「彼女……?あぁ、あのぼったくり魔法使いのことか、彼女なら無事さ。君が我々の意見を聞いてくれたら解放してやる」
ぼったくりという言葉を聞いて唖然とした。怒りを通り越して呆れた。人を見る目が無さすぎる。リーセ、いやリーセ師匠に教えてもらった鑑定眼を使うと一目瞭然だ。そこらにいる貴族連中より何十倍も強い。王都での師匠の生活は知らないが、謙虚な性格だから馬鹿にされているのだろう。
「魔王軍の侵攻は想定以上の速さでな。1週間後には王都に着きそうなのだ。戦わなくてもいいが、みんな死ぬぞ」
もう、やるしかないのか。覚悟はしていたのにな。もし帰ってきたら、お前たちを投獄してやる。絶対に許さないからな。大切な人を傷つけた代償は重い。
「あぁ、行ってやるとも。1日で終わらせる。約束を守らなかったら……分かっているな」
殺気を放つと貴族たちは怯え始めた。そりゃそうか。死にたくないもんな。よく見ておけ。
魔王討伐が始まった。パーティーなんてものは組まない。足でまといだからだ。目の前にいるのは魔王軍。このまま侵攻を許せば大勢が死ぬことになる。
でもな、相手にも友人がいて、家族がいて、恋人がいて、生きて帰りたいだろうに。
ごめんな、せめて、楽にしてて。
後世の伝記にはこう伝えられている。 勇者は誰よりも強く、敵は彼の持っていた切れ味の鈍ることのない聖剣で切って切って切ってを繰り返した。一撃で一万の軍勢が消えた。百でもなく千でもなく一万だ。25回目で半分になったところで敵が一箇所に集まったため、初級魔法で全滅させた。上級魔法だと地球に影響してしまうためであった。そして魔王と対峙した。魔法と物理攻撃が効かないため、毒を使った。残酷なまでに魔王は苦しむ羽目になった。助けてくれ、と言っても彼にはどうすることもできない。ただ魔王が苦しんでいるところを見守るしかなかった。そして魔王討伐は成されたそうだ。貴族も魔王の首を持ってきた勇者を見て、言葉を失っていた。王国の脅威がたった2日で消えたのだから。
もう、どうでもよくなっていた。自分の理想とかけ離れたことをして、あの覚悟を決めた自分とは何だったのか。自分が許せなかった。いや許したくなかった。
「竹原!」
突然そんな声がした。貴族の声が憎たらしくて聞きたくなかった。でも、この声を無視することが僕にはできなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……僕は殺しました。相手の兵士の命を。僕は奪いました。相手の家族を。僕は50万の命を奪ったんです……」
「形は変わってしまった。あなたの思いが伝わらなくて悔しいよ。でも、あなたのおかげで王国の人が救われたのも事実だよ。だから、だから謝らないで……」
やっぱりリーセは優しかった。




