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自分達の始まり  作者: i/o
第三編 衝撃の過去
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第十二話 一つ目の裏切りの真相~「俺」

 「そんなことがあったんですね」


 俺は率直な意見を述べた。転生するだけでも信じられないのに、前世で勇者として召喚されているなんて、中二病でもなければ誰もそんなことを思ったりなどしない。


 普通はだが。


 この取締役の真剣な顔を見て誰が嘘だと思うのだろうか。この雰囲気で嘘を言う取締役でもない。確かにいつも笑顔で、冗談も結構言う取締役だが真剣な雰囲気で冗談を言われたことなど一度たりともない。


 すると太田が


「でもまだ、何度も裏切られた過去があるというところをよく聞いていません」


 ここでそれを言うのか……と思った。だが取締役の返事は意外なものだった。


「裏切られた過去のことね。何度もとは言ってしまったけど、大きく分けると二つぐらいしかないんだよね。僕にとってはすべてを失うぐらい辛いことだったけど」


 またこの場が重くなってきた。


「それは……いつの話になるんですか」


「一回目は……前世でとても大好きだった母に、『なんで生まれてきた。お前なんて生まれてこなければよかったのに』と言われたときかな」


 何も言えなかった。そんな僕らをよそに取締役は話を続けた。


「でも後でその言葉の意味が分かってきた気がしたよ。なぜ分かったのだろうね。僕に自分を、殺してもらいたかったからっていうことが」


「……一体」


「多分、僕に躊躇わずにやってほしかったんじゃないのかな……」


「でも結局は……」


「それでも母はどんなことがあっても、僕にとっては母なんだよ。僕にとっては永久不滅の真理だから」


「………………辛いことを聞いてすみません」


「大丈夫だって。これが分かったのなんて数年前のことだし。前世じゃまだ、あの言葉の意味なんて理解できないだろうからね」


「いつそのことが理解できたんですか」


「太田君と、出会ってから」


 驚いた。それで大きく変わることがあるものなのか。


()()()から自分と向き合ってみてね。それでなんとなく分かってきた。もし太田君と出会ってなければ未だに母に人生を利用されていただけと思っていたから、太田君と出会えたのは幸運だね」


「それじゃ、結局裏切られたっていうのは……」


「いや、裏切られたと思っているのは本当だよ。ただ、少しだけ母の愛を感じることができたということであって、例えその言葉が本心でなかったとしても、もう遅い。せめて『愛してる』とでも言ってくれれば母の塞ぎ込んだ辛い気持ちに寄り添って未来を歩めただろうに……」


 取締役は泣いていた。ほんの少しだけだけど。泣いていた。


「取締役は悪くないです」


 俺はきっぱりとそういった。取締役は母が苦しんで死んだのは自分のせいだと思っているとしか考えられない。でもそれは絶対に違う。母がそう思っていたのだとしても、死んでほしくないと願ったのは取締役の愛に他ならない。


「だが……」


「取締役は、悪くありません」


「でも苦しめたのは……」


「取締役は……絶対に悪くない」


「………………何度も言われるとそれがホントだと思っちゃうじゃ」


 俺はその声を遮ってでも言った。


「取締役の愛が、母を生かすという決断に変わったのでしょう。だから取締役は悪くありません」


 一気に泣き出した。別に大声を出したわけではない。でも大粒の涙が落ちているというのは誰が見てもよくわかった。


「取締役はかっこいいです。でも塞ぎ込みすぎです。部下がいるんですから、少しは話したっていいんです。過度なのはいけないですけど辛いなら、話してください。僕ならいいですから」


「塞ぎ込みやすいのはやっぱり母譲りだな」


 そう言って少し笑顔になった。横にいる太田を見ていると泣いていた。


「私、小さなことで裏切られたと思っていました。軽いことだったのに……」


「人によって感性は様々だが裏切られたというのは君の本音だろう。社会的に見てもそれは間違っていないよ」


「……………ありがとうございます」


 また、泣き出した。ヤバイ。俺も泣きそうになってきた。そう感動的な場面になってきたところで寝耳に水のような出来事が起きた。


「君たちどうしたの、食いすぎてむせたのか」


 突然、後ろから声がしてきた。その声は……


「「「社長!」」」


 そして事情を説明することになった。





「……そういうことがあったのか。それは辛かったな」


「当たり前です」


「で、だ。私もその話に混ぜてくれはしないか?」


「いいですけど、何故?」


「それはなぜだと思う?」


 全く分からない。隣にいる太田にこっそりと、


「なんでか理由が分かる?マジで意味が分からん」


「私だって分からないよ!」


「ですよね……」


 こうなったら、こう切り返すしかない。


「この話は個人情報です。これ以上は取締役の許可がなければ……」


「い……」


 取締役はいいよとでも言おうとしたのだろうが、社長の発言に思わずみんな絶句した。


「許可も何も、文脈から察するにアーリア王国の国王って私のことだと思うんだけど」


 度肝を抜かれるとはそのことを言うんだろうなと思った。


「マジっすか」


「多分そうだろうなとは薄々思ってはいたけど、無関係だと思っていた……」


 取締役は何となく感じていたのか。だとすると、社長の言葉に嘘は全くなさそうだ。


「だから君は、タメ口で良いって言ったときにあんなにも自然にタメ口で言うことができたのか!やっと理解したよ」


「はい……社長に親近感しかなくて、タメ口でとても言いやすいと思ったらそういうことだったのですね!」


「そこだけ敬語⁉」


「というか、あなたが社長になれたのって……」


「経験だよ」


 とってもマネしたい経験だけど絶対にできないだろうなとしか感じれない。絶対は絶対にないとは言うけれどもこれは流石に絶対にないと言い切れる。


「まあ、そんなこんなで、話の続きを教えてよ」


 社長は、パンケーキを3つ頼みながらそう言った。緊張感が何故か増し始めた。当然だ。前世の国王がこの世界で召喚した勇者の生まれ変わりと出会って詳しい話を聞きたがっているのだから。


「それだったら、社長も自分の身の上話をするっていうのが筋ってものじゃないですか!」


 太田がそうつっ込んだ。確かに。


「竹原君、君は良いんでしょ?」


「もちろんです」


 笑顔だ。作った笑顔などではない。相当信頼しあっているのかな。言いふらさないって。俺はその風景を見て少し笑顔になった。


「それにお礼として、ここのお代を肩代わりするよ」


「本当ですか‼」


 一同ガッツポーズをした。多分8万は余裕で超えるから割り勘するにしてもと悩んでいたのだ。本当にありがたいと思った。店員は、


「長居するなと言いたかったけど、この大雨じゃ人は来ないから注文するなら長居してもいいよ」


 と言っていた。そして改めて取締役の話を聞くことになったのだった。










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