第一話 あの日~「僕」
「あの生活から何年たっただろうか。会社員としての仕事をしてはいるが、あの日々以上に愉快なことはない。あの日々は私にとって衝撃的過ぎた。今も思う。みんなはこれを聞いてホントだと思うか。私も思わない。あの日々はすごいの一言に尽きる。」
飲み会で僕の上司に昔のことを聞いてみたくなったからその話を聞いてみたが、どうも誇張されているようにしか思えない。でも本人曰く、事実らしい。できあがっている上司の言葉を僕はあまり信じる気にはなれなかったが、面白かったからみんなにも話してみようと思う。
「私のクラスメイトはみんな愉快でね。健康診断の時に、背を伸ばすために背骨を伸ばす運動をしていたんだ。床に突っ伏して必死に背を伸ばそうとしていた彼らを見て驚いたよ。そしてその中に未来の議員がいるとは思いもよらなかったよ」
「……マジで言っているんですか」
「ああ、本当のことだもの。そういえばレストランにも行ったな」
「買い食いですか」
「いやいや。買い食いじゃないのよ。うちの学校は本気でお残しゼロを目指していたからね。残食が発生したらみんなしてその学級に行って食えない分を、食いに行ったものさ。のれんもあったからとても愉快だったよ。給食と言えば、早飲み競争なんてのもあったな。どれだけ牛乳を早飲みできるかどうか。私はあまり早い方ではなかったけど、友人は3秒あれば200mlの牛乳瓶を飲み切っていたな……ふふ、ごめん、思い出した。あの早飲み競争、審判がいたんだけどね、その子が始める直前に『ちょっと待ってまだ準備が……』といってそれを5回も繰り返したから思わず笑ったよ」
「結局勝敗は……」
「牛乳をすでに5本飲み切っていた『ちょっと待て』少年が優勝したよ。そして周りはいつものことだったからずっと前を向いて黙々とごはんを食べていたよ」
思わず笑ってしまった。愉快すぎるって。
「あ、もう一個思い出した。レストランの中でも、コッペパンだけは別の言い方をしていたよ。なんだと思う?」
「コッペパン祭りですか?」
「惜しい、略してパ〇祭りだ、男子も女子も関係なく食べに行ったよ、10個くらいはクラスで食べきったんじゃないかな」
「よく食いますね」
「多分、先生はその1.5倍は食っていたんじゃないかな」
「絶対腹を壊しますよね」
「ああ、もちろん」
食いすぎとしか思えなかった。自分の体調ぐらいしっかりと労われと思うが、残食ゼロを先生が言っているのであれば、食い切らなければならないのかな……
「残食ゼロは人間の務めだからね、だから先生も生徒も関係なく清掃中にご飯を食っていたよ。人によっては掃除が終わってしまっても食っていた人がいたよ。言っておくけど強制じゃないよ。自分の意志で食っているからね。家庭科の先生、爆笑していたよ。『小学校以来だ』ってね」
そりゃ笑うわ。というか苦笑いじゃなくて?と言いたくなったところで
「だからその子、食器を洗って壁に干していたよ。多分複数人。そしてそれを返すのが遅れて、学期末に気付くとかそんなこともあったな」
「部長の学級はほんとに愉快ですね」
「ああ、本当に愉快だったよ、こんなにも長いときがたったのに未だにあの日々を忘れることがないのだから。それとあとさ、敬語はやめようよ。同じゼット世代なんだから」
「……分かった」
「君と話しているとあの日々を思い出すよ。今日は僕の話に付き合ってくれてありがとね」
短い話だったけど愉快な人だと感じて、とても気が合うとも思った。だからずっと僕と同じところにいると思っていた。この人が将来の社長になるなんて思いもよらなかったし、僕が重役に抜擢されるなんてことはもっと信じられなかった。あの日で僕の人生がここまで大きく変わるなんて思いもよらなかった。
今もだよ。
これを後輩に言ったらそれは嘘だってと言われてしまった。あなたの実力ですよと。あなたが給食業界に進出したからですよってね。
僕はそれだけではないと思う。仕事で疲れているときにあの話を思い出すと愉快な気分になる。そのお陰でモチベーションが上がった。人間って小さなきっかけが大きく人生を変えることがあることを知った。こういうのを、バタフライエフェクトというのかな。
あの日の話が僕の人生を変えた。
「ところでなぜ、こんなにも画期的な案をひらめいたのですか?あの給食革命で残食が激減したから、学校の関係者から感謝状まで届いていますよ」
ちぇ、ここでうまく話を終わらせようとしたかったのに。上手く話がまとまらなかった。
「なぜって。社長のおかげさ、いつか話すよ。あのどこにでもありそうで衝撃的な日のことを」
「取締役のことですから、面白そうなお話が聞けそうです。今度飲み会の時にでも教えてください!」
「僕のことって……まあいいか」
僕はどこまで社長の近くに行くことができるかな。あの人のおかげでここまで成長できたのだから。
「君、何か言いたげだね」
「しゃ、社長!」
まさか聞かれていたのかな。だとしたら結構恥ずかしい。
「君の部下は本当に飲み会の時の君の雰囲気と似ているね。何か大成するんじゃないか」
「そうだね、僕もそうだったから」
「タメ口は公私混同じゃないか?」
「社長がタメ口で良いといったからだよ。だから遠慮せずに使わせてもらうさ。それに社長のおかげで明るい性格になれたし、給食業界に革命を起こせたから」
「意地悪で聞いてみたけど、やっぱり君は頼もしく感じるよ」
「ありがと!」
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