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タキツボ  作者: あとむ
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森上さん大丈夫ですか?

 木曜がきた。会議の日だ。

 どうでもいい意見をさも自分は会社の重鎮だと言わんばかりにもったいぶって話す奴。半分目を閉じて自らの夢の世界に突入する奴。常に不平不満の態度で全ての不幸を我が身に受けたと悲劇のヒロインを演じる奴。女は愛嬌だと田舎の祖父母の教えをBBAになっても守る奴。そしてモブのその他大勢。無能な奴らばかりだ。


 こんな奴らの尻を叩くのに、これっぽっちの端金の給料ではやってられない。まともな奴は一人だけだ。私の話も理解してくれ、また彼女の話も筋が通っている。少々耳の痛い事も言われる事もあるが、上司に物申せる人材は貴重だ。

 今日も空調の真下のデスクで忙しそうにしている姿に好感が持てる。いくら忙しても、決して上司を当てにしてあわよくば使ってやろうなどとは思っていないだろう。自分もタダで使われる気もないし、それが本当に必要なら部下を守るのは上司の務めだ。必要最低限のホウレンソウのみが心地よく、共に仕事ができる相手だ。

 

 「今度の土曜に仕事の打ち合わせが入ってしまったのですが、森上さんは行けますか?」


独り身の自分には土曜だろうが水曜だろうが関係ない。

 「大丈夫ですよ」

 「よかったです。わりと大事な打ち合わせだったので、私一人で行くより確実です」


 おそらく彼女一人で行ったところで、完璧なホウレンソウで困る事はなかっただろうが、上司が顔を出すのと出さないのでは取引先の印象もだいぶ変わる。


 「では当日よろしくお願いします」

手帳に予定を書き込み、お互い元の仕事に戻った。


 手帳を開く度に、その土曜の予定が目に入る。何故だか分からないが目に留まる。


 6日(土) 13時にスタジオアメリ

 

 なんだろう。不思議な感覚だ。どうやって息をするのか忘れたような息苦しさ。仕事が頭に入ってこずに、目で見たものの脳細胞を摺り抜けるような、おかしな感覚。

 きっと疲れが溜まっているのだろう。ダブルワークが流石に体に堪える年齢になったのかもしれない。記事を読むのも眼鏡を上げる始末だ。

 歳には勝てないとは思った事もないが、世間でいうところの、寄る年波にはナントヤラというやつか。これも全て能無しのあいつらのせいだ。それだけじゃない。上司の上司が一番の諸悪の根源なのだ。自分のせいではない。

 

 「おつかれさまでした!」

 「週末ゆっくり休んでね」

馬鹿どもが夕暮れのムクドリの囀りよろしく帰っていく。

 

 「おつかれさまでした。明日は現地集合で。よろしくお願いします。」

 「ああ、こちらこそ。おつかれさまでした。」

 

 車へと向かう足がなんだかおぼつかない。週末の疲れか。おかしな気分だ。対向車のライトが眩しく目を細めたら、たまたまバックミラーに映った自分の顔を見た。思っていたより老けた顔に安堵とは真逆に動揺した。明日もこの顔だろうし、なんならさっきだってこの顔だっははずだ。どうにも自分の顔ではない気がした。もっと精悍で頬も弛んでいなかったはずだ。

 

 どうしよう。こんな顔で大丈夫だろうか。明日は会社以外で彼女と会うのは初めての事だ。急に訳もわからず気が急いるような落ち着かない気分になった。社運を賭ける重要なプレゼン前の時のような、緊張しているが変に高揚した気分。

 

 何だか分からないが風呂に入ってレモンサワーを飲んで寝てしまえばいい。そんなに酒には強くないから、一缶飲めばぐっすりだろう。

 明日は暑いのか涼しいのか、、

 何を着て行ったらいいだろう、、、

 しまった!車の洗車を忘れた!

 いやいや、そんなことはどうでもいいことだ、、、、


 酒も飲んだ。風呂にも入った。歯も磨いた。そして撮り溜めたバラエティ番組を観てから寝るのがいつもの習慣。バラエティ番組を選んではみたものの、頭に全く入って来ない。いつも大笑いして観ている太ったオカマが全く面白くない。

 何が起きたんだ?

明日着ていく服が決まらずにテレビに集中できない。

 

 俺は一体どうしちまったんだ。


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