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第10話(1)いじめられっ子

 たぶん、いじめとレイプは人間の本能の一部なんだろう。

 きっと、人間はそうやってライバルを蹴落として自分の遺伝子を残して増えてきたんだ。

 結局、どんなに暴力的で邪悪だろうと、子孫を残した奴の遺伝子だけが残っていくんだから。

 だから当然、俺のクラスにもいじめはある。


 といっても、今のところ俺は学校ではいじめられていない。

 最初からいつも一人だから、これ以上仲間外れにされようもないけど。


 クラスで数か月前からいじめられているのは、名張和彦。特に特徴のない陰キャ男子だ。

 いじめの理由は知らない。なんか陽キャグループの気に障ることでもしたのかもしれないけど、どうせ、いじめに理由なんてない。

 たぶん、この学校でいじめてる奴らは、こんなところに閉じこめられて、夢も希望もない人生なのに「夢をもって努力しろ」とか言われるストレスを、誰かにぶつけて発散したいだけなんだろう。


 もちろん教師は気がつかない。だって、別に机にラクガキが書かれているわけでもなけりゃ、名張の顔に青あざがあるわけでもない。

 いじめてる陽キャの奴らは、証拠が残らないように言葉の暴力を駆使したり、「遊んでました」っていいわけがつくように目立たないところを蹴ったり殴ったりしているだけ。

 教師からみたら、陽キャグループが親切に名張を仲間に入れてやっているくらいに見えるのかもしれない。

 現に、今、教室に入ってきた国語の佐々木も、何も気がつかずに授業を開始しようとしている。

 


 さて、ある日、ダンジョンで俺は名張を発見した。

 第1階層を名張がひとりで歩いていた。

 無視してそのまま駆け抜けてもいいんだけど、俺はせっかくだから透明マントで遊んでみることにした。


 俺は透明マントを装着して、名張の周辺をうろついてみた。

 マントは体の一部しか隠していないけど、俺が目の前をうろうろしても、名張は全然気がついていないみたいだった。

 どうやら、透明マントを装備すると、俺の装備品も含めて全部見えなくなるらしい。

 俺はためしにドローンも装備してみたけど、名張は気がついていない。

 俺の目にはバッチリ、空中に浮かぶドローンと、名張の目の前でひとりで踊っているホログラムのナビが見えるのに。


 名張は、「見返してやる」とぶつぶつつぶやきながら、歩いていた。

 ダンジョン探索者は、最近は人気職業だ。

 東京には国立ダンジョン探索者養成専門学校なんてのもできたらしい。ダンジョン学校の学費は無料。

 頭の悪そうな陽キャの中には、高校卒業後にそこに入るって言っている奴らもいる。

 わざわざ学校なんて入らなくても探索者なんてなれるだろ、って俺は思うんだけど。

 ともかく、ダンジョンで活躍できたら、クラスの奴らを見返すことができる……と、名張は思ったのかも。


 だけど、こいつ、どうやってダンジョンに入ってることを証明する気だろう。

 金印のアイテムを手に入れて見せびらかすつもりか?

 ま、いっか。どうでも。

 と思ったけど、暇だったから、俺はしばらく名張の様子を眺めていた。

 名張はどこかで行き倒れの装備を拾ったのか、2-4階層くらいで出る装備一式をつけていた。

 

 それでも、俺なら第1階層から動かない。どころか、俺なら入り口前から動かない。

 ビビリってバカにされそうだけど、これくらい慎重だから、俺はこのダンジョンで生き残ってきた。たぶん、シンが生き残っているのも同じ理由だ。

 バカみたいに慎重なくらいで、ダンジョン攻略はちょうどいい。命はひとつしかないんだから。

 このダンジョンに入ってきたやつの99%は数か月以内に消えている。あきらめた奴もいるんだろうけど、かなりの割合で死んでいるはずだ。


 だけど、名張は、ほいほい第2階層に行き、そして、第3階層に行ってしまった。

(だいじょうぶか? こいつ)と思いながら、俺は後ろをついていった。

 第3階層のモンスターは、名張には手に負えそうにない。俺の予想だと、このままいけば、名張はこの階層で死ぬ。


 前方にモンスターが見えてきた。

 モンスターは名張には気が付いていない。

 何か別のものを襲おうとしている。

 襲われている探索者がいるみたいだ。

 かん高い悲鳴が聞こえた。

 女だ。

 名張が駆け寄っていった。


(バカ。おまえが行ってもモンスターに殺されるだけだ)


 俺は跳躍して、名張を追い越し、何者かを襲おうとしているモンスターを後ろから双剣で切り裂いた。


「赤坂さん!」という名張の叫び声で、俺は気がついた。

 モンスターに襲われかけていたのは、同じクラスの女子、赤坂愛理だった。

 赤坂はクラスで一番かわいい女子と噂されている陽キャグループの女子だ。外見は、アイドルっぽくて、アイドルなみにかわいい。

 クラスの男子のほとんどが赤坂のことを好きらしい。俺は興味ないけど。


「名張君? 名張君が助けてくれたの?」


(いや、俺)と思いながら、透明マントで姿を隠した俺は無言で傍にたたずんでいた。

 名張がふしぎそうに自分の武器をみながら言った。


「え? 俺? 俺がやったの? それより、赤坂さんがどうしてダンジョンに?」


 「実は……」と赤坂は語り始めた。


 ここ、こいつらが長々とおしゃべりしてられるような場所じゃねーんだけど。

 早く避難しろよ!

 しかたがないから、俺は、赤坂の話が終わるまで、次々に近づくモンスターを瞬殺し続けた。

 あいつらはモンスターに気がつきもしなかったけど。


 赤坂の長話によると。赤坂の兄は名の知られた探索者だったらしい。正規ダンジョンで活躍していたけど、この闇ダンジョンに潜るようになった。そして、帰ってこなくなった。

 

(そりゃ、死んだな)と、俺はモンスターを斬り裂きながら思った。


 死体はもうとっくにダンジョンに吸収されているから、探したってむだだ。

 だけど、ダンジョンを知らないあいつらは。


「それで、私はお兄ちゃんを探してダンジョンに」

「俺も手伝うよ。いっしょに探そう」


 なんて言っちゃってる。

 無理だって。お前らいっしょに死ぬぞ。

 赤坂は、以前、兄から装備やアイテムを色々ともらっていたらしい。赤坂の防具なら5階層くらいまではどうにかなる。でも、武器は2階層がいいところだ。


 赤坂と名張はいっしょに歩きだした。

 俺はあえて、次にモンスターが近寄ってきた時に、手を出さなかった。

 赤坂と名張は協力して戦って、名張が深手を負いながら、なんとか一匹のモンスターを倒した。

 これで、実力不足はわかっただろ。


「名張君。ポーションを使って」


「ありがとう。赤坂さん」


 あれ? あいつら、なんか、いい雰囲気……。

 俺の横ではナビが手を口にあてて、うれしそうに名張と赤坂を指さしている。

 名張はキラキラした瞳で言った。


「赤坂さん。なんとか、がんばってこの階層の終点まで行こう。生きてここから出るんだ」


「うん。これ以上、モンスターが出ないといいんだけど」


「だいじょうぶ。モンスターが出てきても俺が絶対に守るから。さ、赤坂さん。走ろう」


 あー、うぜっ。

 名張はすでに重傷を負っている。ポーション(弱)でちょっと回復したけど、次モンスターと戦った時に死ぬだろう。

 俺はため息をついた。

 「名張君が行方不明です。誰か何か知りませんか?」なんてくだらない話でホームルームが延びるのはごめんだ。


 俺はこの階層を終点まで一気に駆け抜け、途中にいたモンスターを一掃した。

 モンスターのいないダンジョンの中を、名張と赤坂は、抱き合うようにしながら、俺から見るとうんざりするほど鈍いスピードで、走っていった。

 

 ようやく終点にたどりつき、赤坂と名張はキラキラとした目で互いをみつめあって言った。


「モンスター、でなかったね。まるで、名張君に奇跡の力があるみたいに」


「きっと、赤坂さんの力だよ」


(どっちもねーよ! 俺が掃除してやってんだよ! いいから、早く外にでろ!)

 

 俺のイライラが頂点に達した時、やつらはやっとダンジョンの外に出た。



 その後で、シンに会うと、俺は言われた。


「どうしたの? キョウ。なんか疲れているみたいだけど」


「マジ疲れた。精神的に。あー、うぜっ」


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