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【旧版】Re:LIFE 〜永久の惨劇を彩って〜  作者: 如月笛風
第2章 『手繰り寄せた終焉』
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第29話 『すばらしきじんせい!』

 気がつくと、いつも彼は横にいた。

 何度も挫けそうになった自分を、いつも隣で励まして、慰めて、笑わせてくれた。

 人が立ち直る方法を、人の弱さをよく知っているそんな彼が、きっと私は好きだった。


 彼の言葉の一つ一つが、今も鮮明に記憶の中で響く。

 少し荒っぽくて、親切で、しかし芯のある声。

 ただひたすらに、その声が私を安らげてくれた。


 今にして振り返れば、絶望の淵で蹲っていた私を、現世に引き戻した彼は中々の偉業を成し遂げたと言えるだろう。

 彼が最初に、私を見つけてくれた。

 彼が最初に、私に人として生きる道を教えてくれた。

 だから、今度は私が彼の心を埋めてあげたい。

 そんな大層な役が私に務まるかはともかくとして、努めたい。

 ……初恋の相手が異世界人とは、何とも計り知れない人生を請け負ったものである。


《今期の世界を終了します》


 ──その無機質な音声は、甘い夢の中にいる少女を現実へと引き戻した。


「……ん…………あ……れ……?」


「……おぉ……ようやっとのお目覚めか……」


 どうやら気絶していたらしい少女は、清らかな平原に一本だけ生えた木の下で目覚めた。

 ただどうも不思議な感覚で、寝起きのあのふわふわした感覚とはまた別の、安心感のようなものを覚える。

 そうして少女は気づいた。


 ──少女はフレイムの腕の中にいた。


「……フ、フレイム……さん……!?」


「……随分長い間寝てたじゃねえか……すげぇ魘されてるように見えたが、俺の勘違いだったか……」


 どうして彼はこの状況を説明してくれないのか、少女が思考をどれだけ繰り返しても、その理由は思い当たらない。

 シルヴァとの抱擁にはもはや疑問を持たなかったが、相手が彼なら平静を装うことすら無理である。


「……あ、あ、ああの……こ、これは……一体……」


「──悪い……お前を最期まで……護ってやれなくて……」


 その言葉を聞いてから、一気に熱が引いていくのがわかった。少女の淡い恋心と、フレイムの肉体が、徐々に、しかし急速に冷えていく。

 発見は連鎖するものであり、フレイムの腹部を黒蜘蛛が大きく貫通していることに気づくまでには、さほど時間はかからなかった。


「…………う……そ…………いや……いやっ……!」


「……おいおい……やめろ……これ以上……俺を苦しめるな……」


 弱った腕を、強い意志で動かし、更に少女を抱き寄せる。

 彼の心臓は、まだ温かかった。


「俺はお前に感謝してる……俺が強い人だって言ってくれたこと……忘れねえよ……」


 ……………………………………痛い…………………………


「女を泣かせるのは柄じゃねえけど……そうも言ってらんねえ……お前には、伝えなきゃいけねえ事が山ほどあるからな……」


 ……痛い………………………………痛い……………………


「多くの人間が死んだ……でも、全部お前のせいじゃねえ……気に病むなよ……?」


 ………………痛い痛い……痛い……………………痛い……


「……ははっ……駄目だな……何言っても気遣いになりそうにねえ…………ならまあ……これだけ言っとく……」


 やめて。


「俺は……お前が……大切だった……」


 ──やめて……やめて!


「……#来世__・__#は……ちゃんと生きろよ……?」


 彼が残した最期のその微笑みが、トリガーを引いてしまったのだろうか。

 次の瞬間、目の前が紅に染まり、周りの景色を急速に黒い絶望が破壊し尽くしていく。


「……もう……嫌……もう嫌……もう……もう……」


 奥の方に見えた荘厳な城が、()()()の下で盛大に崩壊した。

 地面は燃え盛り、様々な人の悲鳴や慟哭が響いてくる。

 そんな中、少女は自分の()に訴えかける。


 それは、少女が初めて抱いた感情。

 今まで味わってきた困難のどれにおいても生まれることがなかったその感情が、今初めて爆発した。


「──もう何も……私から奪わないでよ……!!」


 そんな怒りさえ、この絶望の前では無力。

 胸から無数に生まれた絶望が、小さな少女の肉体を無惨にも穿ち、切り裂いた瞬間、それがよく理解できただろう。

 大量の血飛沫の割に、痛みは一瞬だった。されど、心に宿った苦しみは永遠。

 消えることの無い刻印が、また一つ増えてしまったような気分だった。


 ああ、このまま死ねたらどれだけ楽だろうか……


 死にたい。死にたいなぁ……

 でもなんで……こんなに苦しい思いをするって分かってるのに!……私は……まだ……


 ──幸せになって


 ()のように、静かで切なる願いだった。


 ──来世は……ちゃんと生きろよ……?


 ()のように、あたたかくて強い願いだった。


 もう嫌だ。もう生きたくない。これ以上苦しみたくない。でも、彼らが遺した私への願いが忘れられない。


 今回ではっきりした。私はこの()()()()()()を抜け出すことができない。

 死ねない身体を持って転生したかのように思われたが、全くもって逆──必ず死ぬ運命の身体を持って転生していたのだ。

 自分で死ぬタイミングは選べず、結局最後に全てを失って、また()()()()()()スタートする。

 何が普通に生きられるだ。何が人生をやり直すだ。

 ちゃんちゃらおかしい……笑い話もいい所だ。

 何も普通じゃない。何もやり直せてなどいない。


 ああ……駄目だ。こんな大事な真実に気づいちゃったら、笑いが止まらない。

 2回目の転生でこれじゃ、先が思いやられるなぁ……

 待って?……2回目? 本当に2回目だったっけ?

 もうわけわかんないや! 何回目だっていいし!

 だって何回でもやり直せるんだもん! 何回だって生きられるんだもん! それって凄い幸せなことでさ……ああ、もう駄目。可笑しくてたまらない!

 次はどんな人生なのかな~? その次は? そのまた次は? 楽しみだな~!

 前世で幸せになれなかった分、何回だって幸せになってやるんだから!……あれ? でも……前世ってどれだっけ……?

 もうなんだっていい! もうなんだっていいよ!


 だからさ……早く……



《異世界転生を開始します》



 ──この人生……終わらせてよ……?

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