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【旧版】Re:LIFE 〜永久の惨劇を彩って〜  作者: 如月笛風
第2章 『手繰り寄せた終焉』
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第26話 『秘めた強さ』

「──ほんっっとありえない!! 何なのよもお!!」


「……ずっとうるせぇなお前……アクアに目覚められると面倒なんだから静かにしろよ……」


 爆発した髪のイグニスは、果たして何度目か分からない怒号を放った。

 すっかり耳に胼胝ができてしまったフレイムは、問答無用でアクアと後始末をイグニスに押し付け、早々にその場を去ろうとしていた。


「何度考えても腹が立つわ! アンタがアタシに手加減してたなんて……!!」


「手加減じゃねえって何回言ったら分かんだ炎バカ。火力の調整ができねえ俺じゃ、下手したらお前に怪我させる可能性があるからだって──」


 すると瞬時に「うるさぁい!!」の一言。

 もはや口を開くことも面倒になったフレイムは、ため息だけを残して、イグニスの横を通った。


「──ねぇ……ちょっと待って」


 打って変わって声のトーンを落ち着けたイグニス。

 しかし、また面倒事かと、フレイムはいかにもな顔で振り向いた。


「そ、そんな顔されなくても……文句はもう言わないわよ!……アンタに……その……お願いがあって……」


「……そうか。そりゃどんな願いだ? 『死ね』か? それとも『燃えろ』か? はたまた……」


「──印象サイアクで悪かったわね!! そんなんじゃなくて……ちゃんと真面目なお願い。テラスのことよ」


 イグニスの表情に珍しく誠意が見えたため、フレイムも邪険な対応をやめた。


 イグニスはこれまでの事情を細かく話した。

 イグニスとアクアを含めた3人は本来、城門でグレイスの足止めを任されていたこと。

 しかし、イグニスは勝手に場を離れ、アクアはイグニスを追ったために、今頃テラスは1人で相手をしているだろうということ。


「それで? 俺にどうしろと? 弟の懇願で兄貴を止めてほしいってか?」


「それができるなら……ね。もう戦いは決着してる頃よ。城門に向かえば、きっとテラスが寝てるわ。だから、弔ってやってほしいの」


 理由があったとはいえ、実兄が殺人を犯したとなれば、自然と複雑な感情が湧き上がってくる。

 しかし、その感情を押し殺してフレイムは答えた。


「……悪いが、俺はまだやることがある。それはお前らがやれ。──絶対にだ」


 イグニスへの対応であれば、これが最も正しい。フレイムにはその確信があった。

 案の定、後の去り際に背後から聞こえた微笑が、気を落ち着かせてくれた。


「──もう1つだけ、お願いしてもいい?」


 イグニスの声のトーンは、今度もまた違った。

 どこか色気のある、皮肉なしの呼びかけに、フレイムは視線だけ寄越した。


「──今夜、一緒にどう?」


 本気なのか揶揄っているのか知らないが、恐らく前者の誘いに、フレイムは鼻で笑い返した。


「──お断りだ」


* * * * * * * * * * * * *


 早く、速く、疾い。

 目で追うので精一杯とはまさにこのことだった。

 互いに引けを取らず、魔法で牽制し合いながら、剣筋には一切の隙が無い。

 アクション舞台というのが、どれだけ演技じみているかを実感できた。

 実際の戦い(殺し合い)に優美さなど兼ね備えていない。

 ただあるのは、張り詰めた空気がいつ爆発するか分からない緊張感のみ。


「──どうした!? お得意の()()は使わないのか?」


「フッ……馬鹿にしてくれる……!」


 『嵐刃』──その名の由来はきっと、自由自在に風を巻き起こし、強烈な雷撃を扱うことから来ているのだろう。

 しかしテンペストがそうしない大きな理由は少女にあった。

 強力な雷撃は、それ故に大きな範囲に攻撃する。

 少女の反撃の条件が不明瞭な以上、軽率な行動は許されない。


「…………それって……つまり……」


 今思えば、どうしてこの考えに至らなかったのか不思議だった。

 テンペストは自分を攻撃できない。ならば、彼を制することができるのは、他でもない自分しかいない。


 気づけば少女は走り出していた。

 2人が巻き起こす吹雪の中を一目散に駆けた。


「……もう……!……やめて……!」


 突然の少女の介入により、2人は互いに攻撃の手を止めた。


「何をしてる!? 離れないと危険だ!」


「……離れません!……こうしないと……また……人が死ぬから……!」


 グレイスの呼びかけも即座に否定し、テンペストを睨む。

 分かっている。本当はここにいる誰も、争うために争っているわけではない。護るべきもののために、争っているのだと。

 だから、この負の連鎖をもう断ち切らなければならない。


「……もうこれ以上……誰にも死んでほしくない……」


 少女の願いはただそれだけ。

 自分が起因して、何人もの命が失われた。

 その中の誰1人として、死んでほしいと願ったわけでもないのに、簡単にその命を散らした。

 そんな結末はもううんざりだった。


「ならば、国のために自害しろ。死者を増やしたくないのだろう?」


 テンペストへの回答はすぐ用意できた。

 黒蜘蛛のせいでそれは不可能──などとは言わない。

 これは、自らの意志で選んだのだ。


「……自害なんて……しません……!……()()()死んでほしくないから……!」


「……あの時と顔つきがまるで違うな。覚悟は決まっているということか……」


 依然として落ち着いていたテンペストも、少女の様子に多少なりとも意表を突かれた。


「ならば……俺も覚悟を決めよう。悪いが俺にも使命があってな……」


 テンペストは左手を構え、琥珀色の左眼を金色に光らせる。


「──フルミネが愛したこの国は、俺が護る!」

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