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【旧版】Re:LIFE 〜永久の惨劇を彩って〜  作者: 如月笛風
第2章 『手繰り寄せた終焉』
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第25話 『気炎万丈』

 氷は悉く風に飛ばされ、剣撃は全て防がれる。

 勝機をまるで感じさせない、紛うことなき完璧な戦いを見せられていた。


「君に……1つ聞いておかなければならないことがある」


「……戦いの最中に質問か。呑気なものだな」


 互いに距離を取り、攻撃を一旦落ち着かせる。


「──なぜフレイムを巻き込んだ……!」


 終始冷静かと思われたグレイスも、この時だけは平静を装えなかったらしく、テンペストに憤りを感じていた。


「……フッ……そんなことか……お前の期待外れで悪いが、特に理由は無い。強いて言えば、兄想いの奴は、どうせ敵になるに違いないだろうという判断だ。そうすれば、増える裏切りによる余計な混乱を生まずに済むだろう?」


 納得か唖然か、グレイスは言葉を返さなかった。

 そして、代わりに返したのは鋭い氷柱だった。


「感謝するよ、テンペスト。──たった今……君と争わない理由が無くなった……!」


* * * * * * * * * * * * *


「──いつまで寝てんのよアンタ? アクアを気絶させるだけの時間もあったってのに、ほんっと呑気ね……」


 石造りの頑丈なこの広闊な場所は、城の訓練場であった。

 魔法にも耐性のある特殊な素材を使って作られているため、イグニスの目的にはおあつらえ向きである。


「このちっさな針……ヴェノムかしら? 相っ変わらずアイツも姑息な手段使うわねぇ。今頃例の『転生者』とか何とかをどうにかしてる頃でしょうけど。……ねぇ? 『焔刃』さぁん?」


 フレイムの身体に刺さった十数本の針を、玩具を扱うように容赦なく抜いていくイグニス。

 その傍らには、イグニスの勝手を抑えに来たアクアが倒れていた。


「──っく! いってぇ……な……」


「あら? やっと起きたの? 2……4……6……8……丁度10本目ね? アンタと同じで縁起がいいこと」


 最悪の目覚めを経験したフレイムは、冷静に状況整理を始めた。

 起きた場所が自室ではない。そして少女が近くに居ない。

 何より目の前に不愉快の権化が居る。

 そうして発した第一声は、


「──どけ。燃やすぞ?」


「ほんっと……その威勢の良さが気に入らないわ!」


 忽ち衝突する火炎が、簡易的な爆発となって2人をそれぞれ端へと追いやった。

 しかし、その火力は寝起きでないイグニスの方が上であり、フレイムは衝撃から立ち上がるのに困難を要した。


「寝起きのくせに随分元気ね~。裏切り者さん?」


「……俺が裏切り者……? まさか……!」


 兄譲りの察しの良さで、フレイムの理解はすぐに追いついた。


「『転生者』のアイツを秘密裏に保護してた俺の処罰が、お前に任せられたってことか。国もすっかりマヌケになったもんだな、こんなヤクザにそんな器用なことができるとでも?」


「──いちいち気に触る奴ね!」


 怒りはそのまま炎となって、大気中を燃え盛った。

 同時に倒れているアクアの存在に気づいたフレイムは、即座に駆け寄り、炎を焔で吹き飛ばす。


「──お前、どういうつもりだ! 狙いは俺だけだろ! どうしてアクアまで巻き込む!」


「そいつが勝手に付いて来て、アタシの邪魔をするんだもの。『あくまで捕縛が目的だ! お前はフレイムを殺す気だろ!』なんて怒鳴ってね」


「そうか……つまりお前は、俺を殺すと?」


 その質問に、イグニスは狂ったように笑う。

 炎の中に乱れる髪とその表情は、まさに狂人そのものである。


「──死ぬまで燃やしてあげるわ! 『焔刃』のフレイム!!」


 床、壁、天井を一瞬で炎が伝い、フレイムの周囲は業火に包まれる。


「……チッ……! ったく……」


 ──炎はもう、懲り懲りなんだよ!


 瞬間引き起こされた爆発は、多量の煙を訓練場内に充満させた。

 イグニスの炎を覆うように包み込んだ煙の中を、フレイムは瞬く間に移動し、すかさず剣撃を入れる。

 しかし、当然のように回避し、頑なに剣を使おうとしないイグニスに腹が立ち始める。


「どうしても燃やしてえってか? 良い性格してるなあ!?」


「そういうアンタこそ、どうしてもアタシを切り伏せたいのね?」


 事実として、フレイムは焔を攻撃に使おうとしていなかった。

 倒れているアクアを巻き込みかねないという懸念もあるが、何より彼は、彼の焔を嫌悪していた。


「お生憎様、火は苦手でな。こんな属性、まともに扱おうとしたこともねえから、案の定火力の調整なんざ利かねえ。無駄に灰を増やす趣味は持ち合わせてねえよ」


「……いいわ。アンタはどうしても調子に乗ってないと気が済まないみたいね。そこまで言うなら、アタシの最高火力を食らって耐えることができたらアンタの勝ちにしてあげる。どう?」


 提示された条件を、フレイムは笑わずにはいられなかった。


「ハッ! そりゃまた()()()()話だな」


「──まあ答えなんて、端から聞くつもりないけど!」


 突如として放たれた業火を、フレイムは真正面から受け止めた。

 その火力と言えば、例の材質の訓練場の壁が数箇所融解を始めた程。

 熱い、などという言葉では到底足りない室温に跳ね上がっていた。


 炎が止むと、イグニスは煙の中に沈んでいる灰を拝みにいく。


「──お前は知らねえだろうがな。俺は生まれてこの方、火傷の1つも負ったことがなくてなあ?」


 当然イグニスは驚いた。

 何せ、灰になったはずの男が喋ったのだから。


「てか、アクアもすげえな? やっぱ水の恩恵か? あんま護ってやれなかったが、焼けてねえようで何よりだ」


 ()()()護ってやれなかった。

 確かにそう言った。

 この男には、他人を護ろうとする余裕さえあった。


「……嘘……でしょ?」


 イグニスが膝から崩れ落ちると同時に、目の前の煙が晴れる。


「──約束通り、俺の勝ちだ。分かったらもう俺に近づくな、この厄介女」


 アクアを庇っていたフレイムは立ち上がり、イグニスにそう言い放った。

 どれだけイグニスのプライドを傷つけられたことだろうと、フレイムは口角を上げずにはいられなかった。


「……チッ……サイアクよ。もういいわ。さっさと目の前から消えて。目障りよ」


「確かにさっさとアイツの所に行ってやりてえが……その前に1つやり残したことがあってなあ?」


 口角が限界まで上がったその時、フレイムは甲高く言ってみせた。


「──まだお前に仕返ししてねえだろ?」


 魔力を使い果たしたイグニスは、立ち上がりことも声を出すこともできず、ただ焦りを顔に浮かべてフレイムを見ていた。


「そういやお前に俺の焔を使ったことはなかったなあ? いいこと教えてやる。俺の焔は氷属性由来の特殊な焔、つまり、氷に耐性が無い奴ほどよく燃える。だがまあ安心しろ。お前と違って、馬鹿みてえに熱いってわけじゃねえから、死にはしねえよ」


 フレイムの目の前に座る『氷に耐性が無い奴』は、度々「待って」と口にしていたが、フレイムの耳に入らない。

 片手を翳して、悪魔のような笑みを浮かべて言った。


「──さっきも言ったが、俺は火力の調整なんざできねえから……


 ──焔傷(やけど)、すんなよ?」

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